第56話 刺々しい日
「雪宮」
「はい、お皿」
「ありがとう」
さすが雪宮。もう俺のサポートは完璧だ。
作ったナポリタンを、皿に盛り付ける。
雪宮は綺麗な目を輝かせ、テーブルへと持っていった。
……できれば自分でもう作れるようになってほしい。それが目的なんだし。
苦笑いを浮かべ、壁のカレンダーを見る。
雪宮との関係も、はや一ヶ月。
五月になり、春から少しずつ夏の陽気になって来た今日この頃。
来週には、二学年の校外学習が始まる。
だというのに……。
「今日も一日中雨だったな」
「言わないで。ただでさえ気が滅入っているのだから」
「すまん」
確かに今日一日、ずっと機嫌が悪かった。
いや、ここ数日と言った方がいいか。
なんだかいやーな雨が、ずっと続いてるからなぁ……。
別に梅雨入りしてるなんてニュースは聞かない。
多分、タイミングが悪いんだろう。
雪宮はジト目で俺のスネを蹴り飛ばすと(痛い)、手を合わせてナポリタンを口にした。
「ん……まあまあね」
「口に合わなかったか?」
「……美味しいわ」
「素直に言え」
「う、うるさい」
そろそろ素直になればいいのに。
別に意固地になることもないだろ、俺らの仲なんだから。
……どんな仲かって聞かれると、また説明しづらい微妙な仲なんだが。
「そういや、最近よく黒月と一緒にいるな」
「ええ。毎日引っ付いてきて、少しうっとうしいわ」
とか言いつつ、満更でもなさそうだぞ。
じーっと雪宮を見ると、あからさまに目を逸らされた。
こういう所だけ分かりやすいんだもんな。
「黒月は友達少なそうだし、お前は言わずもがなだもんな」
「失礼ね、いるわよ」
「本当か?」
「…………………………………………いるわよ」
「間」
それいないやつの間だから。
「でも、黒月さんも友達がいないって驚きね」
「もって言ったな」
「揚げ足取らないで」
「すまん」
マジで怖いから、その冷たい目。うそうそ、冗談ですよ。
「……人懐っこい性格なのだし、友達は多いと思っていたのだけれど」
「あんまりよく思われてないみたいだからな、あの陽気な性格。クラスの女子も、淑女らしくないって言ってたし」
「……呆れるわね」
「まさしく」
まあ、あの後からはあまり黒月に対して、言わなくなったけど。
「俺からしたら、黒月に友達がいない方が普通だけどな」
「あ、あなた、さらっと酷いこと言うわね」
「幼なじみで、昔を知ってるからな。むしろ今の陽気な黒月の方が違和感ある」
俺の後ろに隠れていた時のこと、今でも思い出す。
あいつには俺しかいなかったし、寂しかったんだろうな、きっと。
俺も頼られて嬉しかったのを覚えてる。
引っ越して行った時は、俺も密かに家で泣いてたっけ。
「そういえば、黒月さんって昔とは全然違かったわね。まん丸で可愛かったわ」
「それ、あいつに言ってやるなよ。気にしてたみたいだし」
「わかってるわよ」
俺も、まん丸黒月は可愛いと思った。
なるほど。そこから上手く痩せられて、あれだけの大胸筋を得たんだな。
「すけべ」
「いでっ、蹴るな。何も言ってないだろ」
「顔がすけべだったわ」
「理不尽」
飯食ってる時の暴力反対。
「でも、もっと前は痩せてたんでしょ?」
「ああ。どっちかっていうと痩せ型だったな。黒月の親父さんが撮ってくれた写真が、確かアルバムにあったけど……飯食ったら、見せてやろうか」
「……いいのかしら。本人がいないのに」
「大丈夫だろ」
多分、恐らく、メイビー。
それに雪宮も、ちょっと気になってそわそわしてんじゃん。
「それって、八ツ橋くんの小さい頃も写ってるのよね?」
「ああ。けど、めっちゃ少ないぞ。親には撮ってもらってないし、黒月と遊んだ分しかない」
「へえ」
「リアクションうっす」
自分から話題を振ったんだから、もう少しリアクションしてれてもいいじゃん。
泣くぞ、悲しむぞ、喚くぞ。
「…………ふぅん……」
「なんだ?」
「何も言ってないわ。幻聴じゃない?」
今日の雪宮、なんか刺々しい。あ、いつもか。
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