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第32話 お喋り

「はい。……今開けるわ」



 インターホン越しに話をし、今日は素直に玄関を開けた。

 それに驚いたのか、親父さんはきょとんとしている。

 いや、本当に似てるな、この親子。



「……お邪魔する。……む? 君は八ツ橋さんだったね。どうして君が娘の部屋に?」

「おはようございます。実は……」

「八ツ橋くん、待って。私が説明するわ」



 雪宮は深呼吸をすると、親父さんの目を見つめた。



「彼は私の先生よ。私に家事全般を教えてくれる、大切な人。今日は同伴させてもらうから」

「大切な人だと?」



 親父さんの目がこっちへ向く。

 ちょちょちょ。雪宮、何言ってんの。それじゃあ誤解を招く心配が……!

 だけど反論できず、俺はぎこちなく笑みを見せた。

 もうどうにでもなーれだ。



「そうか。……では、入らせてもらう」



 え、それだけ? なんかもっとこう、男と女が同じ部屋にいるとは何事かとか、深く言われるのかと思ったけど。

 親父さんは靴を脱ぎ部屋へ上がると、キッチンをぐるりと見回した。



「ふむ……全体的に綺麗にしているな」

「え、ええ。さっきまで掃除していたから」



 雪宮、嘘はいかん。ほとんど使ってないから綺麗なままなだけだろ。めちゃめちゃ目が泳いでるし。

 そのまま風呂やトイレを確認し、いよいよリビングへ。

 リビングに入ると、親父さんの目が見開かれた……。



「これは……にゃんこか」

「ええ、にゃんこよ」



 にゃんこて。いい歳したおっさんがにゃんこて。

 まあご家庭の言い方があるんだろうけど、ちょっとびっくり。

 親父さんはリビングの棚に乗っている、猫のぬいぐるみを持ち上げた。



「懐かしいな……母さんもお前も、にゃんこが好きだったな」

「……うん」



 母さん、か。この場合は、雪宮の実母のことを言ってるんだろう。

 雪宮の嫌いな義母が好きなものを、雪宮が好きになるとは思えないし。

 親父さんも当時のことを思い出しているのか、目の奥がすごく優しげだ。



「……部屋の状況はわかった。ちゃんと綺麗にしているようだな」

「ええ。勿論よ」



 本当は家政婦に任せようとしてたくせに、何でドヤ顔してんだこいつ。

 親父さんはくまなく見て回ると、ほっと息を吐いた。

 まるで、安心したかのように。



「では、次に料理の腕を見せてもらおうか」

「……わかったわ。席について待ってて。八ツ橋くんも。……私が、一人で頑張るわ」

「……ああ。行ってこい」



 雪宮は気合を入れて頷き、エプロンをつけてキッチンへ。

 俺と親父さんは、二つしかない席で向かい合わせに座った。

 先に雪宮が入れてくれたコーヒーを出されるが……さて、ここで俺の気持ちを述べよ。

 答え──気まずい。

 だってそうだろ。雪宮の親父さんと二人きりって、気まずくない方がどうかしてる。

 これ、俺から話しかけた方がいいんだろうか。

 それとも無言を貫くべき?

 わからん。誰か教えてプリーズ。



「八ツ橋さん」

「はっ……はい……?」



 まさか親父さんから声を掛けてくるとは……。

 親父さんはマグカップを置き、そっと息を吐いて口角を上げた。



「緊張することはない。少し、私とのお喋りに付き合って欲しいだけだ」

「は、はぁ……?」



 なんとなく居住まいを正すと、親父さんは声を潜めて話しだした。



「もう聞いているだろう。うちの親子関係のことは」

「そ、そうですね。ざっくりとは……」

「それでいい。……私は再婚した身でね。相手は私の秘書をしてくれていた女性。娘の実母は、十年前に亡くなった」

「……そうですか。それは、なんと言っていいか……」

「もう昔の話だ。気にすることはない」



 親父さんも受け入れているみたいで、少し寂しそうな顔をしただけだった。

 死別か。何となく予想はしてたけど、悪い予想が当たったな。



「私は起業したばかりで、子育てというのをしたことがなかった。全て、前妻に任せていてね。でもできるだけ、娘とも接するようにはしていた」



 ……そういや、昔はもっと笑ってたって言ってたっけ。



「事業が軌道に乗り、それなりの大金が入ってきた。全ては順調だった……が、それも長続きしなかった。……あれの母が、事故でこの世を去った」

「そう、でしたか」

「しかし軌道に乗った仕事を途中で放棄する訳にはいかない。だから家政婦を雇い、家のことや娘のことを任せ……」



 そこまで言い、親父さんは口ごもって嘲笑した。



「いや、この言い方はずるいな。……私は逃げたのだ。仕事を言い訳にし、家事から、娘から」

「心中お察しします」

「ありがとう。……そうして私は、今の妻に惹かれた。そして、結婚したのだ」



 そんなことがあったんだな、雪宮家には。

 本当、なんて声を掛けたらいいのか……。

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