第25話 満員電車で
喫茶店で休息した後、時間になったからさっきのショップへと戻った。
合計額、なんと六万円オーバー。
かご三つ分にしては思ったよりも安いが、それでも六万円の買い物なんて見たことがない。
これが金持ちの買い物……雪宮、恐ろしい奴だ。
しかもカード支払い。高校生で持つものじゃないだろ。
支払いを済ませ、五つある袋のうち四つを俺が。一つを雪宮が持つ。
ぐ……重い。想像以上に重い。
「八ツ橋くん、大丈夫?」
「お、おう。平気だ……!」
嘘です。腕引きちぎれそうです。
でも弱音を吐くわけにはいかない。男としての見栄ってやつだ。
荷物を持って電車に乗り込むと、ちょうど帰宅ラッシュと被ったからか満員電車になっていた。
「すごい人だな……雪宮、離れるなよ」
「え、ええ」
とにかく雪宮を壁側に誘導し、俺が他の乗客から雪宮を守るような位置に立つ。
これだけの人がいて、もし急停止かなんかをされたら、雪宮なんてぺしゃんこだ。
プラスしてこの見た目の可愛さ。下手すると痴漢に遭う可能性もある。
それだけは絶対に避けないと。
「ちょ、八ツ橋くん。あんまりこっち来ないで……!」
「し、仕方ねーだろ。荷物のせいで両手上がんないんだから……!」
人が多すぎるし、荷物のせいで手を上に上げられない。
だから脚で踏ん張るしかないんだけど……電車の揺れと人込みのせいでどうしても雪宮の方に寄ってしまう。
手を雪宮の腰のあたりに伸ばし、壁を支えにしている。でもうまく力は入らないし、今にもバランスを崩しそう。
「というか、そんなに守ってもらわなくても大丈夫よ」
「お前が大丈夫かそうじゃないかなんて関係なく、男はこういうときは踏ん張るもんなんだよ」
「……そうなの?」
「少なくとも俺はな」
ここで雪宮を無視して、俺は俺で楽なところに移動したとする。
でもそのせいで雪宮の身に危険が迫ったら、俺は俺を許せないと思う。
これは雪宮を守るためでもあり、俺の良心を守るためのものでもある。だからここからは動かない。
「……ありがとう」
「どういたしま……うおっ!?」
電車が大きく揺れて、人の波が押し寄せて……!
ええい、こなくそ!
俺は手だけでなく、ひたいを壁にぶつけて支えにし、雪宮を潰さないようにする。
が……そのせいで雪宮の髪が近くなり、胸いっぱいに雪宮の匂いを吸い込んでしまった。
「や、八ツ橋く……!?」
「すすすすすまんっ。本当にわざとじゃないんだ……!」
「わ、わかっているわよ。八ツ橋くんがその態勢が楽なら、しばらくそうしてていいから」
「た、助かる」
正直さっきより楽だ。腕だけの力じゃなくて、体全身を使えるのはでかい。
ただ問題は、ずっと雪宮の匂いを嗅いでなきゃいけないという点だ。
口呼吸? はあはあ言ってるように見えるだろ。それじゃあ俺が痴漢って言われても仕方ない。
俺はできるだけ鼻呼吸を小さくして、とにかくこの状況を我慢した。
この格好でいること数分。
不意に、雪宮が口を開いた。
「なんだか不思議ね。あなたとこうして一緒にいるなんて」
「雪宮もそう思うか?」
「ええ。だってどう考えても、私とあなたって全然違う価値観で生きてるじゃない」
言えてる。
「雪宮は実直でド真面目で律儀」
「あなたはいつも適当でへらへらしてる」
「でもお前も私生活は適当だろ」
「八ツ橋だって、意外とちゃんと生活してるじゃない」
……こうして考えると、俺と雪宮ってまさか似た者同士?
……いや、ないな。ないない。
俺と雪宮が似てるとか、雪宮に失礼すぎる。
「でも、あなたに助けてもらったのは事実よね」
「今回はたまたま満員電車に当たっただけだから、気にすんなよ」
「そうだけど、それだけじゃないわ。私の部屋を掃除してくれたり、家事を教えてくれたりね」
「あれも成り行きだし、お前の部屋が汚いと俺の部屋にまで虫が入ってきそうだったからな。お互い様だ」
「あなたからしたらそうかもしれないけど、私からしたらとてもありがたいことなのよ」
ふーん……そんなもんかね。
別に人間は、何でもかんでも自分でやらなきゃいけないなんてことはない。
俺だって勉強はできないけど、雪宮に助けられている。
勿論、感謝の心は忘れない。けど、そんなになんでもかんでも感謝されるとむず痒くなる。
そのまま二人で黙っていると、ようやく俺たちの降りる駅に着いた。
ここは住宅地になっている大きな駅だから、降りる人も多い。
俺たちは流れに身を任せて、一緒に満員電車から降りた。
「はぁ~……着いた~」
「どうする? 一度荷物を家に置いてから、食材の買い物に行きましょうか」
「そうだな。思ったより荷物が多くなったし……一回帰るか」
「ごめんなさいね。そうしましょう」
雪宮が少し申し訳なさそうな顔をする。
自分でも買いすぎだとわかってるんだろうな……次回は気を付けてくれ、マジで。
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