第23話 にゃんこグッズを求めて
雪宮と関りを持って一週間、初めての土曜日。
今日は昼過ぎから俺が雪宮の部屋に来ていて、雪宮の部屋の掃除と勉強会をしていた。
掃除と言っても、昨日言ってた通りちゃんと綺麗にされているから、そこまで大がかりなことはやらない。
ただ掃除機をかけたり、水拭きしたり、その程度だ。
でも一週間は掃除していないから、意外と汚れやごみが溜まってるな。俺の部屋は、明日ちゃんと掃除しよう。
廊下やフローリングを水拭きしていた雪宮が立ち上がると、うっすらにじんだ汗をタオルで拭った。
「ふぅ……綺麗にしてたつもりだけど、結構汚れるのね」
「まあ、人間が住んでたら自然と汚れるからな。でも綺麗にすれば、住んでて気持ちいいだろ?」
「そうね。この部屋で一週間も過ごしたら、もう前の部屋に戻ろうとは思えないわ」
そうだろう、そうだろう。ようやく雪宮もそう思うようになったか。
雪宮の成長に感動しつつ、窓拭きを終わらせてリビングに入る。
……それにしても、本当に家具がないな。テーブルと二つの椅子。あとは衣類を入れる棚と、ちょっとした小物だけ。
寝室の方には勉強机と本棚、ベッドのみ。
娯楽という娯楽が一切感じられない。本棚にあった本も、小難しそうなものばかりだったし。
「女の子の部屋を見渡すなんて、最低ね。自首したら?」
「女っ気があったらそれもやぶさかじゃないが、こんななんもない部屋だと喜びより寒気がするぞ」
「最低限の生活ができれば、問題ないもの」
「でもよ、何か好きなものとかないのか? そういうグッズを集めるのも面白いと思うが」
「好きなもの……」
本当に思い浮かばないのか、雪宮は首を傾げてどこか遠くを見ている。
「あれでもいいんだぞ。プリクマとか。女の子なら小さいころ見てたろ」
「ぷりくま……?」
……おい嘘だろ。見てないの、あの国民的アニメを。俺なんて毎週楽しみにしてるんだが。
え、見ない? そうですか、見ないですか。
「こほん。今のは気にしないでくれ。そうだな……あ、猫とか」
「にゃんこ……そうね。好きよ、にゃんこ」
猫のことをにゃんこって言うのは、雪宮の癖なのか?
雪宮は自分の部屋をぐるっと見回すと、指を折ってぼそぼそと何かを言い出した。
「にゃんこの置物でしょ。にゃんこの時計。にゃんこの植木鉢もいいわね」
「猫をモチーフにした調理器具とかもいいよな。茶碗とか、箸とか」
「にゃんこのお茶碗……にゃんこのお箸……!」
おめめキラキラ~。最初は無表情だからわかりづらかったけど、今はなんとなく目の輝きとか雰囲気で機嫌がいいのかわかるようになった。
一週間も毎日一緒にいたら、そりゃわかるけど。
でもこんなにテンションの上がった雪宮は初めて見るな。
「なんなら、今日の午後は買い物に出るか? 荷物持ちなら手伝うぞ」
「本当?」
「でも俺の買い物にも付き合ってもらうけどな。今日の夕飯の買い物に行かないと、冷蔵庫の中がすっからかんなんだ」
「わかったわ。もう掃除は終わったのだし、一時間後にあなたの部屋に行くわね」
「え? そのままでもいいだろ。早くいかないと、夜遅くなるぞ」
が、雪宮はジトッとした目を向けて来た。な、なんで……?
「あなた、そんな汗くさいのによく外に出ようなんて思うわね」
「え、俺汗くさい?」
「くさい」
「そんなドストレートに言わないで」
え、そんなにか。そんなにくさいか俺。ちょっとショックなんだけど。
これでも結構臭いとか見た目には気を使ってる方なんだけどなぁ、俺。
うちの学校の奴ら、男子校だからって気にしなさすぎだから、それを反面教師として。
「いいから、シャワー浴びてきなさい」
「うっす……」
とりあえず急いで雪宮の家から出て、自分の部屋に行く。
よくよく考えると、あの雪宮と一緒に外出するんだ。下手な格好で歩くのはよくない。
てなると、ちゃんとひげを剃ったり身だしなみを整えたり……あれ、意外と時間ない?
時計を見ると、すでに十四時。今から一時間だと、かなり時間がない。
やべ、急いで風呂入らないと、服を選ぶ時間もなくなる。
俺は服を脱ぎ、飛び込むように風呂に入っていった。
「ふぅ……間に合った」
風呂に入って余所行きの服を着て身だしなみを整える。
念のため髪をワックスで整えたけど、慣れてないことはするもんじゃないな。これに結構時間が掛かった。
でも今は十五時の五分前。
ちょっとドキドキしながらリビングをうろうろしていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。
さすが雪宮、時間通り。
インターホンの画面を確認せず、急いで玄関を開けた。
「お、おまた……せ……」
「……何よ」
玄関先にいたのは、間違いなく雪宮だった。
でもいつもの動きやすい恰好じゃない。
白いワンピースに、日差し避けの水色のカーディガン。チェーンの肩掛けバッグ。足元はパンプス。
こんなオシャレな雪宮は初めて見たが、それだけじゃない。
いつもの長い髪は緩い三つ編みにされ、肩から前に垂れている。
それに、いつもは付けていない黒ぶちの眼鏡。雪宮にあった細いフレームで、いつもとは違う印象になっていた。
「いや、その……いつもと違うと思うって……」
「ああ、この眼鏡? 伊達眼鏡よ。念のための変装ね」
「変装?」
「一緒にいるところを見られたら、あなたも私も学校で面倒なことになるでしょう? だから、変装」
「ああ、なるほどそういうことか」
確かに、今の雪宮はいつもと全然印象が違うから、ぱっと見わからんでもない。
ふむふむ。よく考えてるんだな。
……ん? 待てよ。それ雪宮がよくても、一緒にいる俺は俺だってバレるから、もし誰かに見られたら俺が見知らぬ女子とデートしてるって見られるんじゃ……?
「何ぼーっとしているの? 早く行くわよ」
「お、おう……」
まあ、もう時間ないしいいけどさ。
誰にも会わなければいいか。幸い、こっちに住んでる男子生徒は少ないし。
俺は鍵をかけ、さっさと先を歩く雪宮を追って小走りでついて行った。
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