第22話 近づく距離
それ以降、特に何事もなく食事会は進み、無事(?)初めての懇親会は終わった。
まあ、あの二人は終始気まずそうだったけど。
いい薬にはなっただろう。
みんなが生徒会室を出て行ったのを見送り、俺と雪宮、あと黒月も戸締りをして外に出た。
「氷花ちゃん、さっきはごめんね……」
「……なんのことかしら。謝られるようなことされてないわよ、私」
「だって、ウチのために怒ってくれたんでしょ? ウチ、こんな見た目してんのに結構ビビりで、ああいうのに弱くて。あはは……」
あー……確かにそうかも。
黒月って昔はおどおどしてて、それをからかわれてたんだっけ。
だから悪意に敏感というか、ちょっと萎縮しちゃうところがあるのかもな。一種のトラウマというか。
でも雪宮は、しれっとした顔でため息をついた。
「ああいうのが嫌いなだけよ。黒月副会長が気にすることはないわ」
「でも……」
「……それなら、ありがとうって言ってもらった方が嬉しいわ。いつも通り、笑顔で。あなたの笑顔、好きよ。私は」
「! う、うんっ! ありがとう、氷花ちゃん!」
「でも服装はちょっと見直しなさいね」
「うぐっ。あーい」
黒月は言われた通り、ボタンを一つだけ閉める。
それだけでガラッと雰囲気が変わったというか、一気に上品なギャルっぽくなった。
「これでいい?」
「ええ。似合ってるわよ」
「ぬへへ。……はづきちはどう? こっちのウチの方がいい?」
「ああ。目のやり場に困らない」
「えっち!」
「変態ね」
なんでだよ。
思春期真っ盛りの男子高校生だぞ。そういう目で追っちゃうのは仕方ないだろ。
黒月は雪宮と腕を組み、べっと俺に舌を向けてきた。
「えっちなはづきちなんてほっといて、ウチらは行こうっ。もう授業始まっちゃうし」
「そ、そうね。でも腕は離してくれると……」
「いーじゃんっ。ウチらの仲なんだしさー」
「会長と副会長ってだけじゃ……ちょっ、引っ張らないで……!」
……なんで俺、女の子同士の友情を見せつけられてぼっちで置いてかれてるのん? 普通に寂しいんだけど。
まあ、なんとなく距離があった二人が仲良くなったみたいで、俺も安心かな。
……ん? 黒月の言ってた距離感が変わったって、こういうこと……なのか?
傍から見たら、俺と雪宮の距離も近くなってるように見えるってことか。
だからって、仲がいいとかはないな。うん、仲良くはない。
◆◆◆
「親睦会、終わってよかったな」
「そうね。ちょっと想定外のこともあったけど……楽しかったわ」
「そいつはよかった」
放課後。今は俺の部屋ではなく、それぞれの部屋のベランダに出て、一緒に夕暮れを眺めていた。
雪宮と一緒の空間にいるのは悪くない。
でもこうして、ベランダ越しに話すのも悪くないと思う。
というか、面と向かって話すよりちょっとだけ素直になれる感じというか。
この衝立がある関係が、今の俺たちに丁度いいんだと思う。
茜空と言うのだろうか。空が青から赤へグラデーションされていて、幻想的に美しい。
口数は少ないけど、ぼーっとしているこの時間もいいな。
そのまましばらくぼーっとしていると、ベランダの向こうからマグカップが出てきた。
「コーヒーを入れて来たの。よければ」
「……大丈夫か?」
「今度はちゃんとスプーンを使ったから、問題ないわよ」
「そうか。……じゃ、遠慮なく」
マグカップを受け取り、すする。
程よく冷めたコーヒーに、鼻から抜ける香りが香ばしい。前回とは大違いだ。
「どうかしら?」
「美味い。大丈夫だ」
「そ。……よかった」
雪宮も安心したのか、そっと息を吐いて自分のコーヒーを飲んだ。
「……そういや、あの二人は大丈夫か? 昼はキツく当たってたけど、ヘイトがお前に向くんじゃ?」
「あら。私の心配をするなんて、優しいのね。明日は槍でも降るのかしら」
「人の善意をなんだと思ってんだ」
「冗談よ。……あの後私と黒月副会長に、正式な謝罪があったわ。これからどう変わるかは、あの子たち次第ね」
「ふーん……」
人に注意されてから、自分たちがやってるのとが悪いことと認識する、て……赤ちゃんかな?
小学生だって善悪の認識はちゃんとしてるぞ。小学生の知り合いいないから知らんけど。
「ま、これ以上何もないなら、大丈夫か」
「ええ。……それよりお腹空いたわ。そろそろそっち行ってもいい?」
「ああ。今日は刺身な。包丁の使い方教えてやるよ。あと味噌汁な。作り方教えてやるから、雪宮が作ってみてくれ」
「お刺身……! が、頑張るわ」
雪宮は衝立越しにふんすっと気合いを入れると、部屋の中に戻っていく。
さて、俺も料理の準備をしますかね。
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