第16話 絶対ダメ
「ぬへへ。はづきち、おっはー」
「お、おは、よ……って、うお!?」
近っ、ちょ、えっ……!? 近すぎて一瞬反応遅れたけど、今の距離はやばいだろっ!
思わず仰け反って距離を取る。
でも黒月はけたけたと笑うだけで、気にしていないみたいだ。
いや気にしろよ。男女があの距離だぞ。
「なに、意識しちゃってんの? あんな距離、女子同士では当たり前だって」
「俺、男の子!」
「あ、そーだったね。幼なじみだから全く気になんなかった」
気にして! そこは頼むから気にしてください!
しかもお前、胸元がっつり開いてるのに、そんな机に乗っけるな! 眼福だけど、目のやり場に困るんだよ!
淳也のやつもこっちガン見してるし! お前そんなことより宿題終わらせやがれ!
「あら~? にしし、本当に男子校の男の子って、女子に耐性ないんだね。かーわい」
「からかうな。思春期の男子はみんなこんなもんだからっ」
「そーなん? ならもっとからかおうかな」
「お前に恥じらいという言葉はないのか」
「幼なじみ相手に恥じらうとか特にないかなー。ふつーって感じ?」
あ、そうですか。俺だけ意識してるみたいで、ちょっと悔しい。
でも教室でそういうのはやめた方がいいと思う。俺はともかく、他の男子がこっちを血眼で見てるから。
しかもガン見じゃなくて、ちらちらちらちらと……おいお前ら、そんなんじゃバレバレだからな。下心丸見えだぞ。
「で、なんの用だよ? 黒月って別のクラスだろ」
「別に、なーんも。まだ友達来てないし、暇だからはづきちをからかおーと思ってさ」
「暇で男心をからかおうとしてくるな」
「ドキドキした?」
「……した」
「ぬへへ。やり~」
にぱとした笑顔でダブルピースを向けてくる。
くそ、普通に可愛いな。雪宮とは別ベクトルの可愛さというか、人懐っこい感じというか。
「ねーはづきち。はづきちって、実家から通ってるの? でもめちゃ遠くない? 一時間ぐらいかかるよね?」
「あー……いや、一人暮らししてる。親に頼んで、金出してもらった」
「へー、よく許されたね。そんなに仲良かったっけ?」
「……興味ないだけだろ、俺に」
黒月は俺の家の事情というか、家族仲のことを知っている。
だからこういう風な聞き方をしてきただけなんだろうけど、そんな風に踏み込まれると……ちょっと、嫌だ。
そこで黒月はやっちまったって顔をした。
「ぁ、えっと。ごごごご、ごめんっ。そういうつもりじゃなくてね……!」
「あ、大丈夫。わかってるから」
黒月が……よっちゃんがそういう性格じゃないって言うのは、よく知っている。
昔から人の顔色を伺っていて、消極的だった黒月。
むしろがつがつものを言うようになって、俺としては嬉しかったりする。
昔は本当に、俺の後ろをついてくるだけみたいな子だったからな。
ただ、黒月は本当に気にしているみたいで、しゅんとしてしまった。
こういうしゅん顔は、昔から変わらないな。
「それより、おじさんとおばさんは元気か?」
「う、うん。昨日話したら、今度うちに来てもらえってさ」
「そうだな……ま、色々と落ち着いたら遊びに行くさ」
「来て来て、パパとママも喜ぶからっ」
確かに、昔はよくお世話になってたな。
ちゃんとご挨拶しないと。
「それより、ウチがはづきちの家に遊びに行きたいな~」
「ダメ」
「即答!?」
「絶対ダメ」
「そ、そんなに否定しなくてもいいじゃんか」
いやいや、一人暮らしの男の部屋に女子一人で来るとか、何考えてんだ。
……雪宮のことは掘り返さないでくれ。あれは特例ってことで。
あと下手すると、雪宮の隣に住んでることがバレる。
それだけは絶対ダメ。
「むぅ……けち」
「けちで結構。ほれ、そろそろホームルーム始まんぞ。自分のクラスに帰れ」
「あーい」
黒月はぴょんっと立ち上がり、べっと舌を出して教室を後にした。
子供か、あいつは。
「は~づきく~~~~~~~ん」
「うお!?」
な、なんだ淳也か……いきかり後ろから話しかけてくんな。ビビるだろ。
「な、なんだよ。なんか怖いぞお前」
「俺だけじゃねぇ。こいつらを見ろ」
「は? うわっ!?」
いつの間にか、クラスの男子共が俺の周りにっ!?
全員目を血走らせ、涙を流して拳を握っている。ちょ、本当に怖い怖い怖いっ!
「俺らはまだ女子と話すどころかっ、顔を合わすこともないってのに……!」
「八ツ橋、テメェはあんなかわゆいギャルと……!」
「しかも噂の女神様とも生徒会の繋がりがあるって言うじゃねーか」
「許さない許さない許さない許さない許さない」
ちょ、本気の呪詛はやめて!
あーもうっ、落ち着けお前らー!!
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