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第13話 私が見ている

「じゃ、次は洗濯物の干し方だが……これは簡単だ。シャツ系はハンガー。下着や小物は洗濯バサミのハンガーに吊るす。タオルは物干し竿に直干しでいいぞ」



 リビングからベランダに出ると、丁度俺が朝に出していた服が干されている。

 それを見ながら説明すると、雪宮はふむふむと頷いた。



「これは簡単ね。でも乾燥機に掛けた方が楽じゃない?」

「時間がなければそれでいいが、乾燥機に掛けたら縮む服とかある。覚えはないか?」

「……あるわね」

「なら、できる限り外干しした方がいい。やっぱり外干しした服の方が、気持ちよく着られるからな」



 雪宮はふーんと呟きベランダに出ると、衝立を挟んで自分の部屋を覗いた。



「……見えるわね」

「まあ、お隣だからな」

「まさか、外に干した私の下着を盗もうなんて考えてないわよね」

「アホか」

「ひゃうっ!?」



 雪宮のデコを指で弾く。

 全く、俺をなんだと思ってるんだ。

 ……昨日のあれは事故なので掘り返さないでくれると嬉しいです。



「痛いわね……婦女暴行で訴えるわよ」

「やめろ洒落にならん」

「冗談よ」



 ならもっと冗談っぽく言ってくれ、怖いから。

 冗談と言いつつ睨んでくる雪宮から逃げるようにリビングに入ると、俺はエプロンを身につけた。



「時間も時間だし、夕飯作るぞ。今日の夕飯は煮魚な」

「お魚……! 鯛がいいわ、鯛っ」

「そんな高級なもんが買えるか。今日はカレイな。簡単にできるし、教えてやるからこっち来い」



 ベランダから戻ってきた雪宮は、さっき着けていたエプロンをもう一度着けた。



「でも煮魚って簡単なの? 難しそうな感じがするし、味が染みてないと嫌よ」

「魚ってはどんだけ煮ても味は染みないぞ。煮魚の中って白いだろ」

「……確かに」

「逆に中まで染みさせようとすると、脂が落ちきってパサパサになるんだ。慣れたら十分くらいでできるから、覚えておけよ」

「わ、わかったわ。がんばる」



   ◆◆◆



 カレイの煮魚、白米、漬物、レタスサラダを平らげ、雪宮は満足そうに手を合わせた。



「ご馳走様でした」

「おう。どうだった?」

「……まあまあね」

「素直に美味いって言えばいいのに」

「素直に、まあまあと言っただけなのだけど」



 あんな風に美味そうに食われたら、今更隠すこともないだろ。どんだけ俺の前で言いたくないんだ。

 雪宮はティッシュで口元を拭うと、「さて」と立ち上がった。



「洗濯物を回してくるわ。そしたら勉強しましょうか」

「ん? ああ、そうだな」

「じゃ、行ってくるわね」

「行ってらっしゃい」



 雪宮が玄関から出ていくのを見届け、俺は一人で宿題へ向かう。

 ……行ってらっしゃい、か。なんかむず痒いな。

 若干のむず痒さを感じつつ、目の前の宿題に集中する。

 そのまま待つと、しばらくして宿題を持った雪宮が戻って来た。



「お待たせ。それじゃあ始めましょうか。二十二時には洗濯が終わるから、それまでビシバシ行くわよ」

「お、お手柔らかに」



 思わず引き攣った笑みを浮かべると、雪宮は自分のノートを広げてある文字を書いた。



「八ツ橋くん。因果応報って言葉、知ってる? 簡単に言えば、自分のやったことは、巡り巡って自分に返ってくる。そんな言葉ね」

「……まあ、うん。それくらいは」

「さっきあなた、私がミスした時に怒鳴ったじゃない。私、酷く傷付いたわ」

「全然そうは見えなかったが」

「人の心なんてわからないでしょ?」



 そう言ってる時点で傷付いてないことは見え見えなんだが。

 けどそれを論破できるほどの頭は、俺にはない。ちくせう。



「と言うわけで、厳しく教えていくわね」



 ひぇっ。






「今日はこれくらいね」

「ぉ、ぉぉふ……」



 や、やべぇ。想像以上に厳しかった。

 おかげで宿題は終わったけど、脳がパンクしそう。雪宮、容赦なさすぎ……。

 机に突っ伏して脳を休めていると、雪宮が部屋の時計を見て「あっ」と声を漏らした。



「いい時間ね。帰るわ」

「あぁ、もうそんな時間か。ありがとな、色々と」

「何言ってるのよ。私の方こそお世話になりっぱなしなんだから、ウィンウィンよ」



 ウィンウィンにしては俺の方が厳しくされてる気がする。倍返しもいいところだ。

 雪宮が玄関に向かうのを見送ると、雪宮はゆっくりと振り返った。

 ……なんか、口をもごもごさせてるな。何か言いたげというか。



「どうした? 忘れ物か?」

「……いいえ、なんでも。……おやすみなさい」

「おう。おやすみ」



 手を振る雪宮に、俺も手を振り返す。

 扉が閉まる最後の最後まで、雪宮は俺の方を向いていた。

 まるで、私が見ているとでも言いたげに。

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