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 いつもシリルがコゼットちゃんを見守っていたあのカフェテリアに行ってみる。二人はそこで待っていた。


「アンジェ!」


 わたしを見つけた途端、シリルは鬼の形相で駆け寄ってきた。


「なんてマネしたんだよ! あんなこと……!」

「怖い怖い! シリル、落ち着いて。コゼットちゃんが見てるよ」


 こっちを心配そうに見ているコゼットちゃんに、笑顔で手を振り返す。一応、悪い人じゃないよって知らせておきたかったので。


「そんなに心配しなくても大丈夫だから!」

「アンジェはまたそんな危機感のないことを!」


 シリルは言い聞かせるように、わたしの両肩を掴んでくる。


「いい? たしかにモンフォーヌ公爵令嬢のときはうまくいったかもしれないけどさ。でもあれは君もそれなりに事実を言っていただけだし、なによりその説得が彼女の心に届いていた。だけど今回の君は明らかに相手を煽っていただろ。なんであんな相手を怒らすようなマネなんか!」

「煽ってなんか……」

「煽ってただろ! やりすぎなんだよ! いくら俺たちを逃がすためだからってあんなことをしたら、君や君の家族が……」

「だから大丈夫だって。心配しなくてもいないから」


 この世界にはね。本物の家族はもちろん日本にいる。

 いかに侯爵令嬢といえども、違う世界にはどうやったって手を出すことはできないだろうってことで。

 そういう意味で言ったのだが、シリルは違う意味で捉えたようだった。


「……っ! そっか、ごめん。でもそうなんだ……アンジェの家族はもう……」

「……ん?」

「ごめんね、不用意にアンジェの傷に触れてしまって……」

「傷?」


 顔を曇らせたシリルに首を捻らせて、そして勘違いに気づく。


「あっ!? ちがっ、そうじゃなくて、えっと……」


 違う違う、生きてるから!

 だけどこの世界にいないのも事実で、それをどうやって説明したらいいのかわからなくて、あれこれ考えているうちに……なんだかめんどくさくなってきた。


「……そんなことより!」


 せっかくもっと仲良くなるチャンスなのに。シリル、君は怪しい占い師みたいなモブ令嬢なんか構っている場合じゃないだろう。


「コゼットちゃんを一人きりにしてたらまた誰か寄ってくるんじゃない?」

「……!」


 振り返った先。心配そうな顔のコゼットちゃんに、シリルの柔らかなヘーゼルの瞳が揺れる。

 まだ言い足りなさそうなシリルをおいて、わたしはコゼットちゃんの元へと歩んだ。


「アンジェちゃん、大丈夫だった? ごめんね、わたしの代わりに怒られちゃったね……」

「大丈夫だよー。気にしないで」


 コゼットちゃんは眉を下げて、かわいそうに申し訳なさでいっぱいって感じだった。


「わたし、知らないうちになにか悪いことをしちゃったのかな。あの子にちゃんと謝りに行ったほうがいいんじゃないかな……」

「大丈夫! それもう大丈夫になったから! お願いだから、もう二度とあの人たちに近寄らないで!」


 わたしの言葉に、コゼットちゃんはますます眉を下げる。


「……そっか。わたし、そんなに嫌われちゃってるんだ……」

「ちがっ……違うよ? コゼットちゃん? これはあのー、そのですね……」


 助けを求めるようにシリルを見上げると、シリルは苦笑いしていた。


「コゼット」


 シリルが穏やかな声で話しかけると、少しパニックに陥りかけていたコゼットちゃんが目を瞬かせる。


「あれは多分、小さな子が大事なおもちゃを取られたようなそんな反応なんだと思うよ。だからまた不用意に近づいたら、怒らせちゃうよ。……そのことがメルシエ様をどんな気持ちにさせてしまっていたのかは、ちゃんとアンジェが教えてあげたから。だからコゼットが気に病む必要はない」

「そっか……」


 ……君、なかなかに良いこと言うじゃないか。


「悲しいけど、もう二度と近づかないほうがいいと思う。なによりそんなことをしてしまったら、コゼットのことをほっとけないアンジェがまたコゼットを庇って怒られちゃうよ」

「うん……わかった。シリル、ありがとう」


 やっと元気が出てきたのか、ようやくコゼットちゃんがニッコリと笑ってくれた。それにシリルもホッとして、穏やかに微笑み返している。

 ……なに、この優しい世界。モンフォーヌ公爵令嬢やカサンドラとは段違いのほわほわ度だ。

 でも、そっか。

 ゲームの中のシリルはコゼットちゃんを守りたかったり、あるいは振り向いてほしくて必死だったから、なんだかうるさいって印象が先にきちゃってたけど。

 ――シリルってば、こんなふうに優しく笑うことができるんだなぁ。なんだかその笑みから目が離せなくて、まじまじと見入ってしまう。

 良くも悪くも、なんだけど。シリルってほんと愛情深いよな。

 シリルのコゼットちゃんへの愛の深さを目の当たりにして、ちょっと羨ましいと思ってしまった。








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