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→はい、これからもここで生きていきます

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

 

 翌日、シリルは名残惜しそうにコゼットちゃんちを去っていった。


「次の休みに迎えに来るから」


 必死に両手を掴んで、そう言い含めてくる姿はある意味鬼気迫っていた。


「お願いだから、もう二度といなくならないでよ。また一から探すとかもうムリだからね。次自分の世界に帰られたら、もう俺心折れるから」


 いい、絶対だよと何度も繰り返すシリルに、後ろで隊長が呆れた顔をしている。


「いいからさっさと帰れよ」


 どうでも良さそうにしっしっと手を振る隊長に、シリルが噛み付く。


「だってジークさん、これがまた今生の別れになったら……」

「今回は俺とコゼットがついている」


 それに隣のコゼットちゃんがうんうんと頷く。


「消えたらちゃんと連絡するから。いい加減帰れ」

「消えたらじゃなくて消える前に連絡してくださいよ! もう……本当に大丈夫かなぁ……」


 ごちるようにそう言って何度も不安そうに振り返りながら去っていくシリルに手を振っていると、後ろからエドガーに声をかけられた。


「では、私もお暇することにします」

「うん、エドガー、帰りは気をつけてね」


 エドガーはこの日のためにわざわざ休みを取ってこの国に来ていたみたいで、今からラルジュクレール学院のあるあの国へ帰国するとのことだった。


「また……会えますか」


 淋しげに瞳を揺らすエドガーに、苦笑する。


「なかなか遠いけど、わたしはここにずっといるつもりで来たから、まったく会えないわけじゃないよ」


 それにエドガーは眉を下げたまま、かすかに微笑んだ。


「……ではいつか、また」


 エドガーはしばらくわたしのことを見つめていたけど、やがて踵を返して去っていく。

 その後ろ姿をしばらく見送って、わたしも誰もいなくなった道に背を向けて家の中へと戻っていった。








 それから一週間後。

 シリルは宣言どおり、わたしを迎えに来てくれた。

 玄関のチャイムが鳴り、ジーク隊長が出る。その隊長から呼ばれて玄関に向かうと、ピシリと着飾ったシリルが大仰な花束を抱えて立っていた。


「アンジェ」


 ジーク隊長となにやら話し込んでいたシリルは、わたしを見つけるとふわりと笑った。それから歩み寄ってくると、跪いて花束を差し出してくる。


「ようやく君をこうして迎えに来ることができた」


 柔らかなヘーゼルの目が優しく細められ、通り過ぎていったそよ風にブラウンのふわふわの髪が揺れている。


「これから先、一生君のことを大切にします。だからどうかずっと俺のそばにいてください」


 不覚にも頬が真っ赤に火照った。差し出された花束をおそるおそる受け取る。途端にシリルは破顔して、隊長の前だというのにぎゅーっと抱き締めてきた。


「アンジェ……! これからはもうずっと一緒にいれるね! 嬉しいよ……俺のためにこの世界に来てくれてありがとう……!」


 感動のあまり、シリルは少し涙声になっている。わたし一人の存在でこんなに感極まってくれるなんて、なんて純情な男だろうか。あまりにもシリルが感情的になりすぎて逆に冷静になっていると、うしろで隊長がわざとらしくコホンコホンと咳をした。


「まぁ……なんだ。その……よかったな、ようやくおまえの悲願が叶って」


 ポンと肩に手を置いた隊長は、珍しくはにかんだような笑顔を見せた。


「ああまでして幸せにしたいと願った男が、おまえの手で最上の幸せを手に入れている。これ以上のハッピーエンドはないな」


 その横でコゼットちゃんもニコニコしながら頷いている。


「うん。……二人とも、なにからなにまでありがとう」


 胸がいっぱいになってそれしか言えなかったわたしに、二人は笑った。


「もしも辛い目に遭わされたときは、いつでも戻ってきていいからな。こないだみたいに上司と二人きりで出歩いていたらいつでも俺に言え。暗殺は得意だ。あとも残さず片付けてやる」

「そのときはすぐにエドガーに連絡してあげるね。たぶんエドガー、マルリーヌ様とレオ様にはすでにアンジェちゃんのこと言っちゃってると思うから、あの国の後ろ盾ありきでアンジェちゃんのこと幸せにしてくれると思うよ」

「二人とも、今日くらい俺の新たな門出を祝ってよ!」

「二人ともありがとう。もしも浮気されたときはわたしの持てるだけの力を使ってシリルを徹底的に潰すから、そのときは惜しみなく協力してね! 」

「アンジェまで……物騒すぎるよ!」


 ……なんて、そんなのは冗談だ。心配しなくても、シリルがよそ見する気を起こさないくらい二人で幸せになればいいことなんだから。


「ではでは、隊長にコゼットちゃんも、お世話になりました」

「おう。……またいつでも遊びに来い」

「この世界でわからないことがあったらいつでも相談してね」


 仲良く手を振る二人に手を振り返して、シリルと二人、眩しい青空の下へと一歩踏み出す。

 乙女ゲームの中の世界は、どこまでも眩しく、美しかった。


「ねぇ、シリル」


 振り返ってきたシリルの、その手を掴む。


「今、幸せ?」


 シリルはふわりと破顔した。


「うん。アンジェのおかげで最っ高に幸せだよ!」


 シリルはそっと花束を持つわたしの手を引き寄せると、その影に隠れるようにわたしに一つ、甘い甘いキスを落とした。









これにて本編を完結とさせたいと思います。

あと一話だけ、よかったらお付き合いください!

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