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目と口とたまに僕

目は口ほどに物を言う。口は目ほどに物を見る。

作者: イソジン

人のいないホームを歩いていた。

人に見られるのが怖かった。

できるなら誰にも見られず1人でいたかった。





僕は小さい頃から、何故か自分を見ている人の感情が伝わってしまうという能力?力があった。

上手く使えればいいものかもしれないけど小さい頃から持っているこれはそんなにいいものじゃなかった。

学校で友達に嫌われてると気づいた時、好きな人から好かれていないと気づいた時、受験に失敗して親に慰めて貰ってる時の失望した親の感情。

みんなが上手く隠してる心の内側はなんのガードもなく僕に突き刺さるのだ。


そこで僕は人から良く見られようと、人一倍努力をした時期もあった。

特技を増やしたり、みんなが好きそうな話題を探してみたり、一生懸命流行りに乗ったり、好きでもない歌を聴いて話を合わせたり、服装や髪型にも気を使った。

実際、人からの感情で良くない点はわかるので修正や改善なんかは容易にできたし、彼女をつくった時は相手の好みを把握するのは簡単だった。


けど結局ダメだった。色んな人にどう見られてるかに気を使いすぎたのか、「あいつって自分がないよな」って思われたり、「なんでも知ってて気持ち悪い」って思われたり、結局批判が上がってしまうのだ。

それがとても自然なことで、みんなも知っているように100人中100人にいい顔ができないこともわかっている。

しかし、それが伝わってしまうのでとても辛いのだ。


そんな自分を隠して人の心を覗きながら合わせる生活なんか続く訳もなく、高校3年生には自分を繕うことにも人によく見せようと思うことにも諦めて、塞ぎ込み、ついには、こうして誰にも見られない電車のホームで死のうと、最後ぐらい惨めに掃除されるように死のうと、それだけを考えていた。



『1番ホームに電車が参ります。白線の内側までお下がりください』

癖になってしまった流行りの歌を聴くイヤホンの音楽の上から駅のアナウンスが聞こえる。

線路の左に目をやると電車が遠くに見える。


あれに飛び込もう。そう決意した時、自分の右側でドサっと音がして、咄嗟に振り向くと人が落ちていた。

「なんで人が?」

最初に思ったのはそれだった。普段自分を見た人の感情が伝わる僕は人の気配とかそんなんじゃなくて感情で人がいるかを確認していた。


イヤホンがしたのもあり人が自分の横まで来ているのに気づいていなかった。


自分でもびっくりしたのだが気づいた時には緊急停止のボタンを押していて。その人を助けようと線路におりていた。


落ちた人は白いワンピースをきて白い杖を持っている女性のようだ。

杖と服装からおばあちゃんかなと思ったが。同世代くらいの女性らしい。「う…」っと目も開けず、声にも出せない声をあげている。


必死に引き上げようとしていると駅員が「大丈夫ですか??」と息を切らして走ってきた。

電車も無事止まったようで駅員と一緒に女性を引き上げた。


「すいません…すいません…」

誤っている女性。落ちた時に切ったのか、血も出ている。駅員が救急車を呼んだようだ。

駅員に何があったのか、どういう状態なのか、また連絡が必要なので連絡先を教えてくださいと言われ話をした後ぐらいに救急車が来て運ばれて言った。



人に見られず死ぬところが人を救ってしまって変な感じがしたし、彼女の感情は伝わって来なかったのも違和感があった。しかしどっかでバカバカしくなって、とりあえず家に帰ることにした。



次の日、駅員から電話があった。女性は無事だったとこ、時間がある時にお礼がしたいと女性が言っているとのことだった。1回断ったがどうしても、とのことなので3日後の土曜日、課外授業の後駅で会うことにした。



駅に行くと土曜日だからか人がいっぱいいた。人混みは嫌いだが自分をわざわざ見て感情を抱く人が少ないので楽ではある。


いつも通りイヤホンをして指定の場所に向かう。

すると今回もワンピース着ている女性がいた。椅子の座って目を閉じている。自分が認識できるくらい近くに行っても話しかけてこないし、寝ているのだろうか。

仕方ないので話しかけてみることにした

「あの、電話頂いた。たまさんですか?」

「あ、その声!!助けていただいた!本当にありがとうございます!!」

声をかけると目を閉じたまますっと立ち上がり頭を深々と下げる。

「いや、そんなに頭下げないでください。」

「命を救って頂いたので…。あ、これお礼です。」

座っていた椅子に置いてあった。紙袋を前に出す。

「ありがとうございます」

ここでまだ彼女の感情が伝わって来ないこと気づく。どうやら自分を見ていない?ようだ。彼女に興味が出る。

「あの…なんで落ちてしまったんですか。今日もなんか寝ていたようですし、体調でも?」


たまさんは、はっとしたのか、手に持った杖を僕に見せたあと自分の目を指さして言った

「気づいているのかと思ってました。実は私、目が見えなくて滑ってしまって、本当におっちょこちょいで」

傷に手を当てておどけてみせる。

「かずきさんは高校生でしたよね!本当に優しい方で…声を聞くと私わかるんです。相手がどんな方なのか」

ドキッとした。同時に怖く思った。

「そう…なんですね。だから杖を」

「そうなんです。あ、怖がらないでくださいね!今日は迎えの人も呼んでるので危なくないです。また会いましょう!」

「あ、はい…」

「これ私の電話番号です。今日の18時に電話してくださいね!」

ポケットをゴソゴソとした後、すっと紙切れを僕の手に握らせる

「え?いやなんで…」

「だってあなた死のうって思ってますよね?」

たまさんはニコッと笑う。感情が分からない、相手には読まれている。とても怖い。声が出なかった

「絶対ですよ?それじゃ迎えが待ってるので!」

そういうと杖を使ってスタスタと駐車場へ歩いていく。


たまさんの背中が見えなくなるまで僕は動けなかった

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