閉じたがる瞼
風の強い、酷く寒い夜になると小さな彼は風下から怒鳴るように、風上の彼女は少しだけ大きな声で話しました。
ねぇ、そう言えばさっ!! お前、月の気持ちって分かるっ!!
考えたことなんかないわっ! 何でっ?
太陽だからだよっ!! 未来のぼくには大事なことらしいんだっ!!
なるほど、確かにそうかもしれないわねっ!
意地悪かなっ!!
すごく気難しいって感じよねっ!
げぇ、そんなことも知らないのかっ!! ってバカにするよね!!
するに決まってるじゃないっ! あなたはバカなんだから。
なに聞こえないっ!!
バカだから、するに決まっているって言ったの!
えっ、あいつってバカなのかっ!!
あなたがねっ!
たぶんねっ、てことか!!
マジ身体が割れそうなくらい、笑えます!
月は知っています。
君が真実だけを求めるのなら、あの子がいる世界の美しさは半減してしまうことを。
あの子のついた嘘がなければ、君のいる世界は全ての優しさを失うことを。
でも、やっぱり秘密は守ってくれそうよね!
お前、何か秘密ってあるのっ!!
あなたはっ!
内緒だけど、一杯あるぜっ!!
一つだけ教えてよ!
お前も教えてくれるか!!
いいわよ!
小さな彼は真顔になって正面を向きました。スノーホワイトは彼の横顔をジッと見つめていたくなったので、彼が話始めるまでは瞬きをしないぞ、と決めました。だからそのうち閉じたがる瞼に密かな檄を飛ばしました。全く意味のないことかもしれないけれど大切なことでもある気がしたからです。たぶんそれは自分にとって。
強い風音に混じり彼の吐いた深い息が聞こえたような、聞こえなかったような……