初めに声を掛けたのは彼女から
今年の冬がその凍てつく静かな握り拳で、季節の底を強く叩いたころのこと。この地の空を通りかかった小さな彼は、真っ白な平野に立つ彼女を見つけました。間違いなく、星の吐息よりも寒い朝のことでした。
彼女はまだまだ丈夫だったので昇り始めた朝陽の熱と光を十分に堪能することができました。自らの命と矛盾することですが、永遠に列が続く、世界の順番がこの地へ回ってくる陽を受けているとき彼女は幸すら感じました。
低い高さで揺れる朝の陽が、広大な雪面を這うように染めていく景色のなか岩や木にはない光の反射は一際美しく、その輝く凹凸を空から見た小さな彼は、静かな空の隅っこで立ち止りました。先など急いではいられなかったのでしょう……
小さな彼は朝も夜も同じ空の隅っこにずっとモジモジしていたので、クスクス笑いながら初めに声を掛けたのは彼女からでした。今夜も長くて寒い夜でした。
「そんなところに毎晩いると冬の星座が夏の星座になっちゃうよ」
「・・・」
「じゃなければ、冬の謎の大四角形っ」
「・・・」
「な、わけないかっ」スノーホワイトは無口な月明かりと一緒にキラキラ笑いました。
「お前、白いな」小さな彼は、真っ白な地上よりもさらに白い彼女の、月夜ならではの薄い影の中へ降りてきて恥ずかしそうに言いました。
「こんばんは。あなたは赤いのね」
「当り前だろ、ぼくは太陽なんだから」
「本当は恥ずかしいからじゃないの?」
「なんだとっ! ぼくにそんなこと言ったらぼくの熱で溶かしちゃうぞ!」
「冗談よ、どうかわたしを溶かさないでくださいな」スノーホワイトは自分の身体のどこかにひびが入ってしまいそうなほど我慢強く、力強く笑うのを堪えました。
……だってそばで見るとすごく変な形の提灯みたいなんだもん。
……なのに太陽だ、なんて威張るし。
……っていうか、あなたそんなに真っ赤になったら自分が燃えちゃうわよ!!
「うん、うん。確かに君は立派なお日様だ」自ら言うスノーホワイトは我慢しきれなくなり大きな声で笑ってしまいました。無口な月明かりも珍しく声を上げて笑いました。
翌朝、彼女は空の隅っこに向けて謝りました。
小さな彼はスノーホワイトを許しました。むしろ喜んでさえいました。
「あんまりに可愛いからちょっとからかっちゃったの。ごめんね」
単純な彼は、たとえその謝罪が実は嘘だったとしても上機嫌になったでしょうが、今朝のスノーホワイトの言葉は本当の気持ちでした。