誰にも聞こえない大切な歌
今年は特に大雪だった、そんな冬の名残すら今ではすっかり消えかかり、大きな岩陰か太い幹の木の根元にしか雪は残っていません。永く小さな耳鳴りのようだった寒冷の夜はすっかりその緊張を解き、刺さるくらいに尖っていた昼間の寒風も日ごと陽に丸められていました。
見渡す限り融雪に濡れる土の色をした世界が広がっています。所々の地面には楽し気な予感に満ちた緑色の箇所が現れてさえいます。春が始まることを誰もが知っています。
ちいさな石ころたちは大切な太古の歌を歌い始めていました。誰にも聞こえない大切な歌を歌うなんて、どこか人の心とよく似ていませんか?
彼女、スノーホワイトは足元の雪解けで発見していた、春のえくぼのような丸くてかわいい石に耳を傾けます……でも残念。聞こえるのは彼女の身体の中で滴り止まない、温度さえないのかもしれない冷たい水音だけでした。
ずんぐりした雪だるまのようだという人がいれば、危険なつららのように細くて美しい、と言う人もいます。
スノーホワイトが現れた年は、夏にひどい災難が起こるという人がいれば、どの季節も安定するので水や作物に困ることがなくなる、という人もいます。
嘘つきだから騙されるなという人がいれば、誠実だから何でも相談するといい、と言う人もいます。でも本当は誰も彼女の姿を見た人はいません。結局は悪いことも善いことも噂なだけなのです。
小さな太陽の彼にははっきりと見えます。おしゃべりだってできます……