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それは絶対的能力の代償~再構成~  作者: 山本正純
第十四章 獣人騎士団
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第94話 解放

  石畳の広場から青い鎧で身を包む犬耳の獣人、ジフリンス・グリーンが駆け出す。その後ろ姿を瞳に映したクルス・ホームは右手を前に伸ばし、彼を呼び止めた。


「ジフリンスさん。待ってください。この辺りに薄暗い洞窟はありますか? 闇雲に追いかけるより、住処を探した方が効率的だと思います」

 声を聴き、立ち止まったジフリンスが体を半回転させ、目の前に見えた巨乳の女と視線を合わせる。

「うーん。そうだな。だったら、森の奥にある洞窟が怪しいかもしれない。周辺にある洞窟は、そこしかないはずだ。その近くでブラドラの鳴き声が聞こえたという情報を頼りに調査しようとしたら、ディアナに妨害された」

「だったら、そこに行きましょう。ヘリスさん。僕たちをそこに飛ばしてください。そのあとで、ヘリスさんはここに戻ってください。お願いします」

 そう言いながら、クルスはヘリスに視線を向けた。すると、ヘリスは首を傾げた。

「その洞窟の座標が分からないと、飛ばせないにょん。地図があればできると思うにょん」

「地図なら、コイツを使ってくれ。一刻も早くユイを助けたいから、時間を無駄にしたくないんだ!」

 

 ジフリンスが右手の薬指を立て、召喚した茶色い槌を地面に落とす。すると、石畳みの上に魔法陣が浮かび上がり、白い紙に印刷された森の地図が現れる。

 それを手に取ったジフリンスは、ヘリスに地図を見せ、「ここだ」と目的地を指差す。


「分かったにょん」と呟いたヘリス・クレアが両手を広げる。

 丁度その時、雲の隙間から光が漏れ始め、黒い影が広場を覆った。異変を感じ取ったイースは空を見上げながら、剣を抜く。


「どうやら、厄介なことになったらしい。新たなドラゴンが二匹、飛来した」

 騎士団長の呟きを聞いた他の三人も同じように視線を上に向ける。その先では、一匹の黒いドラゴンが旋回していた。

 その両腕には黄色い十字模様がある。


「一刻も早くユイを助け出して、みんなで戦う。今の戦力を想定すると、これしか勝ち筋はないにょん」

 真剣な表情にヘリスの意見を聞き、イースも首を縦に動かす。

「そう。ここは私が食い止めるから、すぐに帰ってきなさい。ヘリス」

「分かったにょん。その前に……」

 

 同意を示しながら、ヘリスはその場に座り込み、右手の人差し指を立てて、石畳に

触れた。それからその上で素早く魔法陣を記し、薬指を立て、白い槌を召喚する。

 それを魔法陣の上に落とすと、白かった色は茶色く変化していった。


「簡易的な空間転移術式を記録した槌だにょん。これを使えば、すぐにこの広場に戻ってくることができるにょん」


 槌をジフリンスに渡すと、右手でジフリンス、左手でクルスの手に触れた。


 そして彼らは、騎士団長のイースの前から一瞬で姿を消した。





 目の前に広がるのは、緑のコケが生えた岩が転がる薄暗い光景。奥にある穴の開いた岩の壁にも緑色のコケが生えている。

 その場でクルスが周囲を見渡すと、そこにはヘリスの姿はなかった。後方に見える大きな岩が屋根になり、日差しを遮っている。 

 すると、クルスの右隣にいたジフリンスは確信したような声を出す。


「どうやら、ここがアイツの住処らしいな」

「えっと、それはどういうことですか?」

「見ろよ。あの岩のコケ。アレは薄暗い場所にしか生えないらしい。本で読んだことがあるから、間違いないだろう」


 丁度その時、「ララッララ」と反響したブラドラの声が響いた。

 その声を聴いたジフリンスは、ゆっくりと洞窟へ向けて歩みを進める。

「間違いないな。ここにブラドラがいる。ユイじゃない誰かのブラドラの声が聞こえた。助けてくれってな」

「つまり、ここにディアナさんが連れ去ったブラドラが監禁されてるってことですか?」

「ああ、間違いない」


 ここに連れ去られたブラドラが囚われている。そう確信した二人は、洞窟の中へ足を踏み入れた。



 薄暗い洞窟の中を進んでいくジフリンスの右手には、小さな炎がともったランタンが握られている。その灯りに照らされた地面には、コケが付着した石が多く転がっていた。ジメジメとした湿度を肌で感じ取り、薄暗い穴の中を前進していくと、どこかかからブラドラの鳴き声が反響して聞こえてくる。


「ララッララ」


 助けの声は、右にある大きな穴の先から届く。そのことに気が付いた二人はゆっくりと声がした方へ足を進めた。

 

 人が一人入るだけで精一杯な狭さの穴を潜った先にあるのは、鉄の檻。細かい鉄の柱がいくつも交錯するそれの中には、数百匹のブラドラが囚われていた。その首には、黒い首輪が嵌められている。


 その姿を目にしたジフリンスは、鞘から剣を抜いた。

「やっぱり、こんなところにいたんだな。待ってろ。今すぐ助けてやる。危ないから、少し鉄格子から離れてろ!」

 そう伝えると、檻の中のブラドラたちが奥の壁まで移動する。その間に、ジフリンスは鉄格子に向けて、剣を振り下ろした。だが、鈍い音がするだけで、鉄格子は壊れない。


「思ったより固いみたいですね。ここは僕に任せてください」

「ああ」と短く答えたジフリンスの右隣で、クルスが右手を広げる。その指が鉄格子に触れた瞬間、最初からなかったかのように、鉄格子が消失した。


「やっぱり、スゴイな。その能力。そんなことより、これからどうするんだ? 出入口らしき場所は、俺たちが入ってきたトコしかないみたいだった。早くしないと、アイツと鉢合わせてしまう。そうなったら、こいつらを守りながら、こんな狭い洞窟の中で戦わないといけなくなる」

「大丈夫です。あの奥にある岩の壁を、能力で壊します。それで出口ができたら、そこからみんなを外に逃がしましょう。それよりも、あの首輪を壊した方が先かもしれませんが……」

「なんか、悪いな。頼りっぱなしで。俺だけだったら、みんなを助けられなかった」

 ジフリンスが頭を下げると、クルスは首を横に振る。

「そんなことはありません。この場所が怪しいって言ったのは、ジフリンスさんですから。それより、早くしないと、ディアナさんが帰ってくるかもしれません。だから、ジフリンスさんは後ろを向いてください。ディアナさんが帰ってきても分かるように」

「ああ、そうだなって、大丈夫か? 一匹ずつ触って首輪を壊してたら、時間がかかりすぎる」


 心配そうな表情になったジフリンスに対して、クルスは自身満々な顔付きになり、ブラドラの群れの中へと歩みを進めた。


「問題ありません。皆さん。僕の体で首輪を擦ってください」

 その呼びかけを聞き、ブラドラの群れがその場で立ち止まったクルスの元へ殺到する。一瞬の内でクルスの体が白い毛で隠されていき、数秒後、クルスの体に密着していたブラドラの群れが飛び去っていった。その首からは首輪が消えている。


 それから、首を動かし、壊れていない首輪がないかを確認したクルスが、奥にある岩の壁に向かった。そうして、壁の前に立つと、広げた右手を壁に密着させた。すると、岩の壁が簡単に崩れていき、大きな穴が開く。そこから暖かい風が流れてくる。


「出口もできました。さあ、みなさん。ここから逃げてください!」


 クルスの指示に従い、囚われのブラドラたちが次々に穴の中へと飛び込んでいく。その姿を横目に見ていたジフリンスは、ホッとした表情になった。


「良かったな。あとはユイだけ……」

 言い切るよりも先に、突きさすような殺気を感じ取ったジフリンスは、目を大きく見開いた。その先には、ディアナがいる。

 ディアナは緑色の透明な尻尾を揺らしながら、四足歩行でジフリンスとの距離を詰めた。

「帰ってきたら、招かれざる客がいるし、捕えたブラドラが殆どいなくなってる! どうやって、こんな短時間で逃がしたのかは知らないけど、最悪だわ。もうすぐ取引だっていうのに、どうしてくれるの?」


「なるほどな。やっと、お前の目的が分かった。お前は、みんなのブラドラを連れ去って、金儲けの道具にしようとした。違うか?」

 剣を抜きながらジフリンスが尋ねると、ディアナはあっさりと首を縦に動かす。

「そうよ。でも、大丈夫。こっちには、まだ異能力が使えるブラドラがいるからね。アレを売り飛ばせば、赤字にはならない。相手も満足してくれること間違いなし」

「絶対に許しません。ブラドラは金儲けの道具なんかじゃありません!」

 身勝手な理由を聞いたクルスが怒りを瞳に込め、ディアナの元へと一歩を踏み出す。

「そうだな。俺も同じ気持ちだ。コイツを倒して、ユイを助け出す!」


 決意する二人に侵入者と対面を果たしたディアナはクスっと笑った。


「さっきの広場での戦いで、分かったよ。キミたち二人だけでは、私を倒すことなんてできない。そして、そっちの獣人の騎士は、もう使い物にはならないってね」

「なんだと!」とジフリンスが呟いた直後、彼の目に黒い首輪が嵌められたユイの姿が飛び込んできた。

 

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