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それは絶対的能力の代償~再構成~  作者: 山本正純
第十二章 大都市占拠
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第71話 元素強盾

「どうして……」

 突然目の前に現れた仲間と対面したアルケミナが呟いた。


 その一方で、フゥは歯を食いしばって、忌まわしき女を睨みつける。そんな反応の男の子を見て、アルカナは溜息を吐いた。

「そんなに警戒しなくてもねぇ。フゥくん、そろそろ限界だよね? 最後の1人になるまで、よく頑張ったと思う。スシンフリ様は優しいから、許してもらえると思うよ?」

「うるさい。お前らの仲間になるくらいなら、死んだ方がマシだ!」

「そろそろ諦めた方がいいよぉ。どんなに頑張ったって、スシンフリ様には敵わないんだからぁ。スシンフリ様は私たちを新しい世界へ導いてくれる良い人なんだからさぁ」


「アルカナ。どうして、あなたがこんなことをしているのか。答えてもらおうか?」

 そんな疑問の幼き声が聞こえたアルカナは虚ろな目をフゥの近くにいたアルケミナへと向けた。それから、彼女は目を輝かせた。

「あっ、久しぶり。アルケミナじゃん。まさか、こんなところで会うなんて、奇遇だね。小さな女の子になっちゃったんだ。かわいい♪」

 明るく振る舞った同性の五大錬金術師に対し、アルケミナは身を震わせる。

「挨拶は結構。教えてもらおうか? スシンフリというのは、この街をおかしくした張本人と聞いたが、なぜその人の仲間になった?」

「正確に言うと、スシンフリ様の側近ね。あっ、そうだ。アルケミナとティンクも仲間になってよ。スシンフリ様なら大歓迎だと思う」


「はぐらかさすに、答えて。理由によっては、あなたを錬金術師として軽蔑する」

「待て、アルケミナ。冷静になれ。様子がおかしい。コイツは俺たちが知ってるアルカナじゃない」

 優しく銀髪幼女の頭を叩いた巨漢の大男を見て、アルカナはクスっと笑った。

「ティンク。アタシはアタシだよ。おかしなことを言わないでほしいなぁ」

 

 うすら笑いを浮かべるアルカナと対面したアルケミナの心臓は強く震えた。

 背後から冷たい殺気が近づいてくるような感覚を肌で感じ取ってから、数秒後、誰かがアルカナの前へと飛び出す。

 颯爽として現れた金髪スポーツ刈りの男が、手刀でアルカナの右腕に向かって振り下ろす。

 

「この程度の奇襲で、アタシの首を取れるわけないでしょ?」

 一瞬で目の前に現れた暗殺者を瞳に捉えたアルカナが頬を緩める。そして、次の瞬間、男の一撃は瞬時に生成された白い菱形のモノで弾かれた。

 その反動で、暗殺者の体は後方へと飛ばされていく。


 数メートルほど距離を離された暗殺者は、余裕の表情の五大錬金術師に白い歯を見せる。

「アルカナ・クレナー。お前がここにいるっていう情報を聞きつけて、来てみたら、こんなに早く出会えるとはなぁ。俺はお前を殺すために来たマエストロだ!」

「ふーん。そうなんだ。右掌にEMETHが刻まれてるってことは、マエストロくんも能力者かぁ。能力で強化した手刀でアタシを殺そうとしたってところだろうけど、残念でした。アタシの能力の前では無力だよ♪」

 アルカナが興味なさそうな表情でマエストロと顔を合わせる。一方で、一部始終を見ていたアルケミナは、顎に手を置いてから、アルカナに視線を送った。

「なるほど。空気中に漂う元素を一瞬で菱形にして、攻撃を防ぐ能力」

「さすが、アルケミナ。そんな体になっても、洞察力は元のままなんだね。アタシって痛いの苦手だから、便利な能力なんだよ。常時型だから、意識しなくても守ってくれるし」

 アルカナは両手を合わせて、楽しそうに笑う。すると、マエストロはアルカナの視線の先を追いかけ、背後を振り返った。

 そして、彼は右手で頭を抱えながら、残忍な瞳を幼女に向けた。


「バカだな。目の前の標的に夢中になって、お前の存在に気付かなかったぜ。餓鬼。ここで会ったら百年目だ。俺はお前を殺す」

 体を半回転させたマエストロは、地面を蹴り上げ、因縁の銀髪幼女へ駆け寄る。

 その一瞬でアルケミナは、小袋を取り出し、そこから黒い粉末を撒いた。それからすぐに、創造の槌を振り下ろした。

 黒い壁がアルケミナの前で生成されていき、暗殺者の体は固いそれに激突した。

 その衝撃でマエストロの体は、仰向けに倒れてしまう。


「クソ。何をしやがった」

 起き上がりながら、目の前の黒い壁をマエストロは睨みつけた。

「クラビティメタルストーンを粉末化したモノを空気中に散布した。その素材を元に創造の槌で壁に生成しただけ。もちろん、あなたが真っすぐ突っ込んでくることも計算して。ここから攻撃に転ずることもできるが、あなたの相手は時間の無駄」

 壁を挟んで聞こえてきた幼女の声を聴いたマエストロは、右腕を握って、地面を殴った。


 その直後、マエストロの目の前で黒い壁が消えた。その先では、黒く染まった太刀を右手で持った銀髪幼女の姿がある。

 左手だけで創造の槌と呼ばれる巨大な槌を握った幼女は、マエストロのことを気にもとめず、アルカナの方をジッと見ていた。


「アルカナ」と名を呼びながら、銀髪幼女がかつての仲間に向かって走りだす。

 距離が近くなっていく中で、アルカナは一歩も動かず溜息を吐きながら、背中の羽を羽ばたかせて、上空十メートルの位置まで飛び上がった。

「ふーん。仲間になるつもりはないってことね。残念だわ」

 憐れむような表情になったアルカナが両手の人差し指を立て、素早く魔法陣を記す。その直後、アルカナの指先で空気が渦巻き始めた。

 その術式をアルケミナは、一瞬だけ立ち止まり、片手で創造の槌を振るう。そうして発生した乱気流に乗った銀髪の幼女が空中を進む。

 一方で、アルカナは右手人差し指の先にある空気の渦を、アルケミナに向かって飛ばした。


 自然と乱気流が消滅したのと同じタイミングで、アルケミナは体を半回転させた。そうして、迫りくる空気の渦を創造の槌で叩く。すると、それは凍りつき、新たな足場になってしまう。

 落下するよりも早く、それに飛び乗ったアルケミナは、素早く創造の槌を叩き、生成した乱気流に乗って、小さな体を上空で佇むかつての仲間まで飛ばす。


 「……やっぱり」

 何かを確信したような顔つきで上空を文字通り舞う高位錬金術師の姿を見て、アルカナはクスっと笑った。

「ふーん。珍しいね。得意の温浸水柱の槌を使って、ここまでくると思ったのに。まあ、いいや。悪い子には死んでもらわないとね♪」

 その直後、アルカナは左手人差し指の先で渦巻いている空気の渦を前方に飛ばした。それは、アルケミナの真横を素通りしていき、真下まで一直線で進んでいく。

 その先で男の子が戦いを呆然とした表情で見ている。状況を察したアルケミナは、右手で握られた黒色の太刀の剣先をアルカナに向ける。


 異変に気が付いたティンクが物凄い速さでフゥの元へ駆け寄る。そして、男の子の体を押し倒した。その巨漢の背中に空気の渦が当たった瞬間、それは上空へとはじき返されてしまう。

 そんな光景を上空から見下ろしていたアルカナは、口を両手で隠した。

「ウソ。アレに当たったら、大怪我を負うはずなのに……」

 驚きの光景から視線を顔を上げたアルカナの瞳に、高みへとたどり着いたアルケミナの姿が映る。

 右手の太刀で自身の能力で瞬時に生成された盾を壊そうと、何度も突く幼女を見たアルカナは、嘲笑うような顔になった。


「クラビティメタルストーンで固くしたところで、アタシの元素強盾が壊せるわけないでしょ?」

「作戦通り」

 そう目の前の銀髪幼女が呟いた瞬間、いつの間にかアルカナの眼前にアルケミナの顔が浮かび上がった。わずか数センチの距離で、体を縦に回転させながら、右手の太刀でかつての仲間の腹を切り裂く。

 その一撃で、上空に浮かぶアルカナの体は、地上へ叩きつけられた。

 同時に、アルケミナも地上に着地。

 そして、彼女は土埃の方へ歩き始めた。


 

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