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それは絶対的能力の代償~再構成~  作者: 山本正純
第九章 ルクリティアルの森
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第54話 強敵

 メランコリア・ラビはふわふわとした絨毯の上で目を覚ました。うつ伏せになった体を起こし、周囲を見渡すと、薄汚れた大理石の壁と床が彼女の目に飛び込んでくる。


 天井には大きく豪華なシャンデリアが伸び、壁に沿って取り付けられたいくつもの小窓から日が差す。


 縦に広い空間には、真っ赤な絨毯が敷かれ、奥には誰も座っていない豪華な装飾な


椅子が置かれていた。




「ここって……」とメランコリアが呟くと、白髪の幼女が彼女の目の前に現れた。


「アゼルパイン城なのですよ。かつて王族が住んでいたのですが、ご存知ないのですか?」


「ああ、懐かしい場所を潜伏先に選んだみたいね。四年前の暗殺事件以来、立ち入り禁止になったって話だけど、なんでココなの?」


「埃臭い廃墟に潜伏することに飽きたからなのです。トールに話したら、どうせなら広い庭がある場所が良いって言ったから、ココを選んだのです!」


 明るく笑うルス・グースに対して、メランコリアは不安な表情で仲間の顔を覗き込んだ。




「ルス……あたし、離脱して良かったの?」


 そんな問いかけを聞き、ルスは頬を膨らませる。


「そんなことより、助けてくれてありがとうって言ってほしいのです。あのまま、彼女たちに拘束されて、警察に突き出されたら面倒臭いことになるのですよ!」


「……そうね。そういえば、トールの姿が見えないんだけど、一緒じゃないの?」


 周囲を見渡し、首を傾げたメランコリアに対して、ルスは首を縦に動かす。


「トールはメランコリアが殺し損ねたラプラスを始末するためにお出かけ中なのです」


「そうなんだ。仕事が早いわね」


「暗殺失敗も想定した場合のことも考えただけなのです。それにしても、メランコリアは頑張ったのです。後ろをご覧ください。あれがあなたの成果なのですよ」


 


 ルスに指差された後方にメランコリアが視線を向ける。その先にはある大理石の床の上には、多くの槌が散乱していた。




 


 噂をすれば影が差す。丁度その時、音すら立てずトール・アンが姿を現した。ルスの背後に浮かび上がるように現れたトールは怖い目つきでルスを見下ろす。




「ルス。聞いてなかった。なぜあの女がアルケミナ・エリクシナの近くにいる? おかげで創造の槌に選ばれし高位錬金術師を殺し損ねた!」


「まあまあ、そんな怖い顔しないでほしいのです。私もこの件は知らなかったのですよ。もしかしてトールはアレを警戒して諦めて帰ってきたのですか?」


 両手を広げ怒れるボスを宥めるようにしたルスが首を捻った。


「そうだ。そんなことより、話が違う。俺を見たあの女は、あの能力を発動しかけた。お前から聞いた話だと、俺を見てもアレの発動はしないはずだ」




「メランコリアの救助と槌の回収のために瞬間移動したのですが、一瞬だけあの子と目が遭った気がするのです。あのスピードは人間の動体視力では認識できないはずだからと油断したのが仇となったかもしれないのです。もしかしたら、トールの姿を認識して、能力発動未遂って考えた方が自然かもしれないのですね。いずれにしろ、彼女の存在は厄介なのです」


 話が全然見えてこないメランコリアは、当然の疑問を口にして、右手を伸ばした。




「ちょっと、それってどういうこと? そんなに厄介なら、殺しちゃえば……」


 言い切るよりも先に、普段は温厚なはずのルスがどこかから召喚した短銃の銃口をメランコリアに向ける。その顔はいつもの穏やかなものではなく、怒りに満ちていた。




「それ以上言ったら、いくらメランコリアでも許せなくなるのです。そんな簡単な問題じゃないのです!」




 今まで見たことがない仲間の顔を見たメランコリアは怯んだ。


 


 そんな仲間を他所に、ルスは新たな気配に気が付き、短銃を消滅させた。収納したのと同じタイミングで潜伏先を訪れたのは、ラス・グースだった。




 ラスは一週間に及ぶ激闘により疲労困憊で、フラフラとした動きでルスの前へ歩み寄る。


「ルスお姉様……勝てました」


 勝利報告を聞き、ルスは冷たく溜息を吐く。


「ラス。残念なお知らせがあるのです。骨折り損のくたびれ儲けになるかもしれないのです」


「……なるほど、分かりました。でも、ルスお姉様のことです。タダでは終わらないのでしょう」


 一瞬で姉の言いたいことを察知したラスは床の上に両膝を付けた。


「そうなのです。一応三点ほど収穫があったから良しとするのです」


「収穫ですか?」


 ラスが首を傾げる。ルスは家族のことを気遣い、少年の体の妹の右太ももを、軽く触った。ルスの指先には小さな魔法陣が浮いていて、それに触れたラスの体は次第に回復していく。




「詳しい話は、ラスが元気になってから話すのです。一週間に及ぶ激闘、お疲れ様なのです。ゆっくり休んでほしいのです」






 アルケミナたちの目の前には、無数の傷を負ったブラフマの姿。彼は虫の息で、今にも死にそうだった。


 なぜブラフマが、こんなところで倒れているのか?


 疑問が頭を過ったが、今はそれどころではないとクルスは頭を強く振る。そんな助手よりも先にアルケミナがブラフマの元へ駆け寄った。




「ブラフマ。何があった?」


 体を揺さぶっても、ブラフマは答えない。やはりブラフマは重傷を負っている。


 このまま何も処置しなければ、彼は間違いなく死亡するのではないかとアルケミナは思った。


 一体どうすれば良いのかと彼女は思った。この怪我は回復の槌では治せない。病院に運ぶしかないのだが、その病院まで距離がある。




 悩む彼女を助けるように、突風が微かに残る黒い煙を吹き飛ばした。空から降り立ったのは白い羽が生えた赤色の虎。ティンク・トゥラ。


 その虎は着地した後で、頭を下げる。




『アルケミナ。遅れて悪かったな。空を飛んでいたら、黒い煙が見えて、駆け付けてみたらお前がいた。探す手間が省けてよかった。それで、これはどういうことだ?』


 ティンクの声を聞きながら、アルケミナはブラフマを助ける唯一の方法を導き出す。


「ティンク。詳しい話は後で話すからブラフマを病院に……」




 運んでと言葉を続けようと思ったアルケミナの横を、静かに動くアソッドが通り過ぎた。


 


 アソッドはブラフマの近くで膝を曲げて、重症を負っている男性の体に触れた。すると、不思議なことに無数の傷が何事もなかったように次々と消えていく。




 数十秒ほどで、ブラフマは起き上がり、思わぬ光景に目を丸くした。近くにはなぜかアルケミナの姿がある。一体何が起きたのかとブラフマは疑問に思った。




「なぜおぬしたちがここにおる?」


「それはこっちのセリフ。ブラフマ。何があった? ブラフマは全盛期の若い体を取り戻しているはず。その才能や経験があれば、こんな重傷は負わないはず」


 まさかの言葉に、ブラフマは苦笑いした。




「アルケミナ・エリクシナ。おぬしにそんなことを言われるとは思わなかったわい。簡単に話すと、一週間に及ぶ激闘の末、ヘルメス族の少年に敗れたんじゃ。聖なる三角錐のメンバーじゃって言っとったのを覚えておる」




 クルスは茫然とした。聖なる三角錐は五大錬金術師の命を狙っている。


 さらに、全盛期最強と謳われたブラフマを激闘の末倒す程の強者もアルケミナを暗殺しようとしているという事実。




「ブラフマさん。もしかして、ブラフマさんを倒したのはトールって人ではないのですか?」


 クルスからの問いに、ブラフマは首を横に振った。


「違う。確かラス・グースって名乗ったわい」


 ブラフマの証言は、クルスを絶望の淵に突き落とした。




 五大錬金術師を殺そうとしている聖なる三角錐の強者は、最低二人。その二人の内、どちらかがアルケミナを殺しに来る。何とかしなければならないと、クルスの顔には焦りが宿った。


 


 それからブラフマは、近くにいる数週間前に出会った少女に視線を向け、意外な言葉を告げた。


「おぬし、聖人か?」



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