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第152話 聖戦前夜 前編

 木目調の床で構成された二階の一室の窓から、黒いショートボブヘアの彼女が夜空に浮かぶ満月を見上げた。白い長袖Tシャツと長ズボンを合わせた服装の少女、アソッド・パルキルスは脳裏に記憶を浮かべる。


 平穏に暮らしていた彼女は、どこかに連れ去られ、世界の命運という重たすぎる十字架を背負わされた。

 

 記憶を失い、森の中を彷徨っていた彼女が名前の他に唯一覚えていたテルアカという言葉。

 それがフェジアール機関の五大錬金術師の一人の名前ではないかと教え、地図や護身用の小槌を与えた赤髪の青年、ブラフマ・ヴィシュヴァ。


 辿り着いた街で住処と仕事を与えたギルド、セレーネ・ステップのメンバーたち。


 記憶を取り戻す手がかりになるであろうテルアカ本人に会わせるために、自分を旅に誘ったクルス・ホーム。


 様々な親切な人々に助けられ、世界の命運を託された彼女は今、ここにいる。金色の輝く月を見ていたアソッドがこんなことを考えていると、突然、後方にある木の扉が叩かれた。


「アソッドさん」と扉の向こう側から声をかけられた直後、扉が開き、黒髪ロングの少女が顔を出す。

 白いシャツの下に大きな胸を浮かび上がらせ、動きやすい長ズボンという恰好の彼女は、ゆっくりと窓辺にいるアソッド・パルキルスの元へ歩みを進めた。


「アソッドさん。行きましょう。みんなが下で待っています!」

「……その前に、クルスさん。聞きたいことがあります」

「聞きたいこと?」とクルス・ホームが首を傾げる。そんな恩人の一人と向き合ったアソッドが一歩ずつ動く。

「はい。どうして私だったんだと思いますか?」

「えっ?」

 クルスは質問の真意が理解できず、言葉を詰まらせた。

「平和に暮らしていた私は、あの人に連れ去られて、癒神の手という異能力を与えられました。その代償として記憶を失ったそうです。それだけじゃなくて、世界の命運を託されてしまいました。家族や周囲の人々からアソッド・パルキルスという存在を消され、帰るべき場所も失ってしまいました。どうして、私だったと思いますか?」

 疑問を口にした彼女の顔は絶望していない。ただ純粋な疑問を口にしている。そう感じたクルスが腕を組む。

「難しい問題です。明日、本人に確かめないと答えは分からないでしょう」

「……そうですね。明日、確かめてみます」


 頷いたアソッドは、クルスと共に部屋を飛び出した。階段を降り、一階の居間にふたり揃って足を踏み入れると、既に六人の男女が集まっていた。


 彼らは中央に置かれた円形の木の机を囲んでいて、ふたりが銀髪の幼女の近くに寄る。そうして、全員が揃うと、青いメイド服姿の少女が集まった人々に向け語り掛けた。


「皆さん、お集まりくださりありがとうです。早速本題ですが、明日はこの世界の命運をかけた聖戦が行われるです。今から聖戦に関する最終確認を行うです」

 青い短髪の少女、ステラ・ミカエルが、細く長いもみあげを揺らしながら、一歩を踏み出す。その後で、彼女の右隣に白いローブで身を纏い、耳を尖らせた仲間が並ぶ。


 水色の淵の眼鏡をかけた白髪の巨乳ヘルメス族少女、カリン・テインが机の上に地図を広げる。

 

「ふーん。そこが戦いの舞台なんだ」

 ステラの右隣に並んだ貧乳な低身長女子、アルカナ・クレナーが呟く。

 彼女は背中にキレイな虹色の蝶の羽を生やし、紫色の左目にEMETHという文字が浮かべている。

 ピンク色の長袖Tシャツの上に白のハーフパンツを合わせた服装の彼女と向かい合っているのは、黒髪ロングの少女、クルス・ホーム。白いシャツの下に大きな胸を浮かび上がらせ、動きやすい長ズボンという恰好の彼女、クルス・ホームの右手の指先を、銀髪の幼女が引っ張る。

 

 水色のシャツの上から白衣を纏い、白色のショートパンツを履いた姿の幼女が顔を上に向けた。真下からの視線を感じ取ったクルスが視線を右下に向けると、彼女が小声で助手の名を呼ぶ。


「クルス」

 その声を発する無表情の幼女から何かを察したクルスは、銀髪幼女の姿になったアルケミナ・エリクシナの両脇を抱え、軽々と持ち上げた。


「アゼルパイン城。あそこは、かつて王族が暮らしていたとされる場所」

 淡々と答える無表情な幼女の声にカリンが頷く。

「そうですわ。特にこの日のために改修をしたわけではないので、この見取り図を元にどう動くのかを考えていいのですわ」

「そうです。オヤ殺しの試練の勝利条件は簡単です。王室にいる聖人、ルス・グースを倒し、世界崩壊を止めることです。そうすれば、世界に平穏が訪れるです」


「分かりやすいな。俺の助手をクソ野郎にしたルスってヤツをブッ飛ばせばいいんだ!」

 二メートルを超える大柄な筋肉質な男、ティンク・トゥラが腕を組む。動きやすそうな長ズボンを履き、上半身裸の上に白衣を着た姿の彼の瞳は燃えていた。

  

「まあ、必ずしも戦闘で解決する必要はないです。話し合いでの解決も可能です。決めるのはアソッドです」

 ステラが視線をクルスの左隣にいる黒いショートボブヘアの人間の彼女に向ける。

「はい。ルスさんに勝って、記憶や存在を取り戻してみせます!」

 両手を強く握り気合を入れたアソッド・パルキルスが頷くと、黒いローブを身に纏う緋色の髪を逆立てたイケメン男性、ブラフマ・・ヴィシュヴァが右手を挙げた。


「そんなことより、そろそろ作戦とやらを教えてくれんかの? ワシはラス・グースと手合わせできたら、それでいいんじゃ」

「そうだな。俺もファブルをこの手で助けたいんだ」

 ブラフマに続きティンクが腕を組み首を縦に動かす。


「ブラフマ、ティンク、もう少し待つです。作戦を考える前に、あなたたちには敵の情報を一つだけ知る権利が……」

「だったらメイドの姉ちゃん、教えてくれ! ファブルはどこにいるんだ?」

 真剣な顔のティンク・トゥラが勢いよく前に出る。それに対して、アルカナ・クレナーは慌てて両手を左右に振った。

「ちょっと、他にも聞かないといけないこといっぱいあるでしょ? 例えば、敵の人数とかさー」

「言っただろ? 俺はこの手でファブルを助けたいって。そのためには、アイツがどこにいるのか知る必要があるんだ」

「でも、敵のことが分かるんだったら、慎重に考えないと……」

「アルカナ。平行線の対立は時間の無駄」

 アルケミナが淡々とした口調でそう語ると、アルカナは深くため息を吐き出した。

「もう分かったわ。ここはティンクに譲る。その代わり、アルケミナ。あなたの助手を借りるわ」

「えっ」とアルケミナを抱えていたクルス・ホームが目を丸くする。

「僕ですか?」

 

「そうそう。いくら異能力で無意識に攻撃を防げるからって、この前みたいに盾として利用されるのはイヤだからね。クルスならそんなことしないでしょ?」

 微笑むアルカナの顔を見上げていたアルケミナが同意を示す。

「分かった」

「先生。僕の意見は聞かないんですか?」

 慌てる助手の大きく弾む胸の上に、小さなアルケミナが背中をくっつけ、無表情な顔を上げる。

「聞く必要はない。それが最善策だと判断した」

「おお、アルカナ、ありがとう!」


 熱血漢が嬉しそうに大声を出した後で、ステラが地図の座標を指さす。


「話がまとまったようなので、お答えするです。ファブルこと絶望の狂戦士は、ここ、東門を抜けた先で侵入者たちを待ち構えているです」


「確か、大まかな城への侵入方法はふたつ。東門から攻めるか、逆側の西門から攻めるか……じゃったな」

 敵地の見取り図を見ていたブラフマの声に、カリンは首を縦に動かした。そんな彼女の近くでアソッドがジッと城の見取り図を眺めている。

「その通りですわ。見ての通り、地下道は存在していないので、地下からの侵入は不可能ですわ」

 そうカリンが口にした時、アソッドが右手を挙げた。


「あの……私に考えがあります!」

 彼女の作戦に、周囲の人々が一斉に注目した。




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