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それは絶対的能力の代償~再構成~  作者: 山本正純
第十八章 決闘と劇団と亡霊と
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第141話 巨乳格闘少女VS紺碧の重戦士第二形態

 雲一つない夜空に浮かぶ月から光がガラス張りの三角錐の天井から射す。


 半径二百メートルの円筒形の空間の中心でクルス・ホームは右手を強く握りしめた。

 動きやすい長ズボンと白いシャツを合わせた服装の胸が大きな彼女は、大きく欠伸をした銀髪の幼女の姿を思い浮かべる。


 眠たいという理由で助手が初めて高位錬金術を使って戦う場面を見逃す五大錬金術師に対して苦笑いした彼女の目の前で、白い影が浮かび上がる。


 そこに現れたのは、白いローブのフードを目深に被るヘルメス族の少女。

 マリーと名乗る彼女は、クルスと向かい合うようにして立った。


「リベンジマッチです。よろしくお願いします」


 相対する少女から目を反らすことなく、クルスはその少女、マリーに頭を下げた。

 続けて、マリーもクルスと同じように頭を下げる。


「少しはアタシを楽しませてよ」


 お互いに礼をすると、ふたりの傍に審判を務めるステラが立つ。

 

「それでは、第二の試練、決闘の開始です。十分以内に相手を倒せたら勝利とするです。審判役の私のことを気にすることなく、真剣勝負を繰り広げてほしいです」


 両手を左右に広げたステラがふたりに語り掛ける。お互いに頷くと、激闘が幕を開ける。


先に動いたのは、マリーの方だった。右手の薬指を立て、空気を叩き、柄に青い丸が刻まれた鉄色の小槌を召喚する。


 それが石畳の上に叩きつけられるよりも先に、クルスは体を前に飛ばし、握った右拳をマリーに突き出す。

動きを読み、右に一歩動いたマリーが、挑戦者の右腕を掴み、軸足に蹴りを入れる。体勢を崩した少女が大きな胸を揺らす。


 落ちていく小槌がマリーの左足で石畳に叩きつけた瞬間、彼女の体が白い光に包まれる。


 一瞬の内に、全長三メートルの巨大な鎧が現れ、クルス・ホームは歯を食いしばった。

 いかにも固そうな巨大な群青色の鎧と両腕に装着された紺碧色の盾には、いくつもの砲台のようなものが取り付けてある。

 二本の角が生えた鉄兜で覆われた白い丸い顔から青色の一つ目が光り、紺碧の重戦士はゆっくりと動き出した。


 かつて何もできずに一方的に倒された強敵を前にしても、クルスは怯むことなく、前へと駆け出していく。

 だが、目の前の巨体は一瞬で消えてしまう。動きを止めたクルスの影は、大きな何かに覆われた。

 顔を上に向けた巨乳の少女が、深く息を吐き出し、体を後方に飛ばす。

 一瞬で巨体が石畳に叩きつけられ、地面が小刻みに揺れる。


 土埃が戦闘場に揺れ、格闘少女の影が浮き彫りになると、紺碧の重戦士は、盾から数十発の光の玉を発射した。だが、それは少女の体に当たらない。何かに当たった玉は、何かに阻まれる。同時に砕かれた細かい石の欠片が宙に舞う。



「ふぅ。同じ手は通用しません」


 傷一つない挑戦者が、土埃の中から顔を出した。いつの間にか召喚されたレンガ造りの壁に背中を預けたクルスは、力強く拳を握りしめる。

 そんな人間の少女を巨大な鎧の中で見ていたマリーは頬を緩めた。


「なるほどね。体の使い方が少しだけ上手くなってる。おまけに、異能力を使わず、錬金術で壁を召喚して、アタシの攻撃を防ぐなんて、流石だわ。じゃあ、これならどうかな?」


 前方に見えた挑戦者に向け、十の砲台に宿った火の玉が一斉に解き放たれる。集中砲火を受けたクルスは、その場から一歩も動くことなく、右手を前に伸ばした。

 火の玉が挑戦者の体に当たっても、クルス・ホームは火傷を負わない。身に着けていたシャツや長ズボンが黒き焦げ、体に触れた玉を一瞬で消した彼女は、深く息を吐き出し、前へと駆け出し、間合いを詰めた。


 石畳を右足で叩いたクルスが高く飛び上がると、マリーは鉄兜の青い瞳を光らせた。

 その直後、巨体が青白く光り始める。眩しい光を浴びたクルスは、思わず目を瞑り、大きな敵の頭に回し蹴りを叩き込む。

 だが、その蹴りは空気を切り裂くだけで当たらない。

 


「まさか、この姿を披露することになるなんて……」


 眩しい光が消え、瞳を開けたクルス・ホームの顔に驚愕が刻まれる。そこには、先ほどまでいた全長三メートルの巨大な敵がいない。

 その代わりに立っていたのは、クルスと同じ身長の大柄な戦士だった。

 群青色の鎧に身を包み、白い球体のような見た目の鎧甲で顔を隠した戦士の背中には、四本の鉄の羽、両肩にはそれぞれ一本ずつの砲台が取り付けられている。


「紺碧の重戦士第二形態」

 鎧兜の真ん中で青い一つ目が光る。その姿を見たクルスは落ち着いた表情でジッと前を見つめた。

「第二形態」と挑戦者が呟いた後で、マリーは右手の指を二本立てる。

「いいこと教えてあげる。紺碧の重戦士は現在、第三形態まで変身可能。これがその第二形態。戦闘力は、第一形態の二倍。そして……」


 一瞬で眼前に鎧戦士が飛び込んできて、クルスは咄嗟に体を後方に飛ばした。だが、すぐに追いつかれてしまい、右肩に取り付けられた砲台が火を噴き出す。右手にチカラを込めたクルスが炎を振り払う。そのまま、左の拳を握り、眼前に飛び込んできた戦士の顔を殴ろうとしたが、その攻撃は当たらない。


「素早さは第一形態の五百倍。まあ、第一形態の素早さは人間の十分の一だから、実際はあなたの五十倍の機動力しかないんだけど、それでも最高時速六百キロ。とにかく、第二形態は瞬間移動しなくても、一瞬で間合いを詰めることができる」


 自信満々にペラペラと話し出すマリーの前で、クルスは息を整えた。


「厄介な相手です。でも……」

 唇を噛み締めたクルスが右手の薬指を立て、空気を叩く。その動きを見逃さないマリーは、左肩の砲台から火の玉を飛ばした。

 巨乳少女の指先から召喚された小槌が炎に包まれ、一瞬のうちに灰となる。


「何を召喚しようとしたのか知らないけど、アタシは見逃さない」

「だったら……」


 巨乳少女が後方に見えた土壁に左手の薬指を向ける。そんな彼女にマリーは両肩の砲台の標準を合わせた。


「関係ないわ。魔法陣ごと消し飛ばす!」


 マリーの両肩から二発の火の玉が発射される。前方に飛ばされるそれを認識したクルスは、素早く後方の土壁に魔法陣を記した。



 東に


 西に


 南に


 北に


 中央に


 その魔法陣が刻まれた土壁を蹴ったクルス・ホームが前方へ体を飛ばす。

 眼前に飛び込んできた二発の砲撃を、体を反らし避けたクルスが間合いを詰める。

 一方で、クルスの後方にあった土壁が、砲撃で砕かれた瞬間、クルス・ホームの周囲を白い煙が包み込む。


「こんな小細工、通用するわけない」


 素早く鉄の羽を動かしたマリーが突進する。切り裂かれた空気が、白煙を吹き飛ばす。それと同時に、紺碧の重戦士の眼前に、巨乳少女の拳が飛び込んできた。

 体を左右に揺らし、拳を避けたマリーの前に立ったクルスが、瞳を閉じる。


「反撃です」

「反撃? 何もできないあなたに何が……はっ!」

 鎧の中で嘲笑うマリーは、異変に気が付き、目を大きく見開いた。クルス・ホームの周囲を直径五十センチの水の円が流れていく。その高位錬金術に、マリーは見覚えがあった。


「ウソ。ステラの高位錬金術。いや、そんなはずが……」


 動揺して棒立ちしているマリーとの間合いをクルスが詰める。一方で、首を左右に振ったマリーが素早く体を動かす。


「たったの五日間で、ステラと同じことができるようになるわけないわ。こんなハッタリ、通用しない!」


 クルスの周囲を流れる水の円を気にすることなく、マリーがクルスの眼前に体を飛ばす。

 それと同時に、紺碧の重戦士の顔に拳が飛び込んできた。素早く左右に体を揺らしても、クルスの拳はマリーの鎧兜を抉っていく。


 崩れそうになる体勢を右足で踏ん張ったマリーは、顔を上げ、前方に見えた格闘少女の姿をジッと見つめる。


「初めて実戦で使ってみましたが、こんな感じなんですね。これなら、相手がどんなに素早くても、確実に拳を叩き込むことができます」

 

 瞳を開けたクルスの表情が自信で満ちる。そんな五大錬金術師の助手の脳裏には、数時間前の出来事が浮かんでいた。




 制限時間まで、残り七分。

 

 

 

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