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それは絶対的能力の代償~再構成~  作者: 山本正純
第十六章 静寂の攻防
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第127話 信じられない

「あの子、すごく強かったね」

 ヘルメス村の道場で行われた決闘を壁際で見学していた犬耳を生やした獣人の少女、ユイ・グリーンは、視線を前方にいる白いローブ姿の低身長少女に向けた。


 緑色の後ろ髪を腰の高さまで伸ばした彼女の右隣に並ぶ金髪のヘルメス族の少年、アタル・ランツヘルガーが細い目を少し開き、首を縦に動かした。

「ああ、そうだな。俺も瞬殺されそうだ」

「まっ、アタルはエルメラ守護団最弱だしね」

 ユイの左隣にいる白髪ショートボブが特徴的な低身長貧乳ヘルメス族少女が明るく笑う。

「ユーノ。それを言ったらダメだ」

「まっ、別によくね? 事実なんだからさー」


 彼らの目の前で、挑戦者の巨乳少女、クルス・ホームと相対した少女、マリーがお互いに礼をして両者共に、道場から去っていく。

 そうして、決闘が終わりを迎えた直後、ユイの右手の人差し指に、突然小さな魔法陣が浮かび上がった。

 突然のことに目を丸くしたユイは、アタルたちと少し放れ、指先に浮かんだ魔法陣を左手の薬指で触る。

 その瞬間、彼女の指先から少年の声が漏れた。


「おーい。ユイ。聞こえるか?」

「えっ、ジフリンス? 何の用?」

 突然の兄からの連絡に動揺したユイに対して、、ジフリンスは本題を話し始めた。

「ユイ、まだヘルメス村にいるんだよな? だったら、調べてほしいんだ。ルル・メディーラってヤツのことを」

「えっ」と声を漏らしたユイは、近くにいるアタルの顔を見た。

 ジフリンスと自分の会話が聞こえていないらしいアタルは、ユーノと楽しく会話を続けている。

「ユイ、まさか近くにルルがいるんじゃないだろうな?」

「違うよ。ジフリンス。多分、人違いだと思う。その人がどうかしたの?」

「ああ、覚えてるか? 俺たちと一緒に黒いドラゴンを倒した大柄な女だ。あの後、誰かに傷だらけの体にされたところをお前が助けた」

「あの人のことなら覚えてるよ」

「その女、ルクシオン・イザベルの話によると、襲ったのはルル・メディーラというヘルメス族の少女だった。そして、そいつは数年前、彼女が住んでいた村を滅ぼしたらしい」


「……ウソ」

 兄から告げられた事実を聞き、ユイの顔が青くなる。


「面白いじゃん。戦うルルちゃんに見惚れるアタルとか。ルルちゃんにいいところ見せたくて、から回るアタルとかさー」

「ユーノ、お前なぁ」とアタルは照れて視線を反らした。


 数分前に聞いたふたりの会話を思い出したユイが、悲しそうな顔で、アタルの顔を見つめる。

 

 友達の好きな人が悪い人なわけがない。

 ある村を滅ぼしたというルル・メディーラとふたりの会話に出てきたルルちゃんは別人なのかもしれない。

 思い過ごしであると信じたいユイは、力強く首を横に振った。

 

「ルクシオンは、ルル・メディーラを倒したいらしい。そのためには、情報が必要だ。一週間くらい経って、騎士団のみんなが退院したら、そっちに向かうと思うから、それまでに調べてほしいんだ」

「……うん。分かったらまた連絡するよ」と告げたユイがもう一度、左手の薬指で右手の指先に浮かぶ魔法陣を触り、通話を終わらせる。


 アタルが好きな人は、ホントに悪い人なのだろうか? 


 信じられない事実に苦しんだユイが顔を前に向ける。

 そうして、彼女は真実を向き合う覚悟を決め、アタルの右隣に並んだ。


「……アタル、もしかしてヘルメス村には、ルルって名前の人がふたりいるの?」

 不意に獣人の少女の口から飛び出した疑問に対して、アタルは首を横に振る。

「いや。この村に住んでるルルっていう名前のやつは、俺やユーノの幼馴染のアイツしかいない」

 その答えを聞いたユイは「えっ」と声を漏らした。驚き、あんぐりを開けた口を右手で隠した獣人の少女の右隣に並んだアタルが、目を丸くする。


「ユイ、どうかしたか?」

「ごめん。さっき電話でスシンフリに頼まれたの。ルル・メディーラって人のことを調べてほしいって。アタルやユーノが言うルルちゃんとルル・メディーラって人は別人なんだって思ってたけど、ホントは同一人物なんだよね?」


 表情を曇らせたユイがアタルに尋ねる。


「ああ、そうだ。俺が好きなのは……」とアタルが首を縦に動かす。その瞬間、アタルの元にユーノがイタズラな笑みを浮かべて歩み寄る。

「自白しちゃうんだ♪」

「ユーノ、違うからな。好きっていうのは、アイツの剣術が好きだっていう意味でだな」顔を赤くしたアタルの前で、ユーノがアタルの左肩を優しく叩く。

「アタル、早く気持ち伝えた方が、いいんじゃね?」

「そんなことより、何の用だ? 俺をからかいに来たわけじゃないんだろ?」


 頭を掻くアタルの前で、ユーノが頷き、視線を後方に向けた。その視線の先には、赤い髪を生やす同じ種族の同僚がいる。

「スシンフリがあるんだってさ。もち、アタシも呼ばれてる。なんか、ルルちゃんのことが聞きたいっぽい」

「聞きたいことって、アイツとどこで遊んでるのかじゃないんだろな? アソッドっていうヤツのことが好きになったって言ってた気がする」

「ふーん。普段からルルちゃんと遊んでるんだ? 同居してるんだからさー。さっさと告って、結婚しちゃいなよ」

「だから、俺は、傍付きとしてアイツの身の回りの世話をしてるだけで……」

「そういえば、カリンから聞いたんだけど、人間はそれを同棲生活って言うんだって!」

 明るく笑うユーノに対して、アタルは深くため息を吐き出す。

「その理屈だと、殆どの守護者が同棲生活をしていることになるんだが……そんなことより、スシンフリさんを待たせるの悪いだろ? そろそろ行こうぜ」

「あっ、待って。私も行く。私も知りたいから。ルル・メディーラっていう人のこと」

 去っていくふたりの後姿に、ユイが右手を伸ばし呼び止めた。

 すると、ユーノと共に一歩を踏み出したアタルが立ち止まり、視線を前方に見えるスシンフリに向ける。

「ああ、分かった。スシンフリさん。ユイも同席していいか?」


 真剣な表情になったスシンフリがユイと顔を合わせる。全てを見透かしたかのような目をした陰影の騎士団長と対面したユイは、息を飲み込んだ。

 

「……まあ、いいだろう。ボクが聞きたいことは、他人に聞かれても問題ないからな。最近、ルルに避けられてるような気がする。職場で顔を合わせないし、勤務時間がかぶりそうになったら、他の守護者に勤務交代を交渉している。仕事がある時間以外は、村の外で過ごすようになり、どこで何をしているのかも分からない。ボクはルルに言わないといけないことがあるんだ。ボクはどうしたらいい?」

 

「なんだぁ。明るく恋愛相談しようと思ったのに、そっちかぁ」とユーノが落胆し、重たい肩を落とす。

「うーん。エルメラ守護団の仕事がある日は、家に顔を出してるけど、特に何も聞いてないな。今度会った時に聞いてみようか?」

「あっ、もしかしてさー。好きになっちゃったんじゃね? スシンフリのこと!」

 思いついたことを口にしたユーノの隣で、アタルは右手を強く握った。

「なっ、なんだと? 許さん!」

「ちょ、冗談だって。そんなに怒らないでぇ」

 慌てたユーノが右手を左右に振る。その一方で、スシンフリが顎を右手で掴んだ。


「安心しろ。ルルが告ってきても、ボクには好きな人がいるからって、振ってやるから」

「そうだよ。失恋が最大のチャンスだってさ。振られて落ち込んでいるところを優しくすれば、あんなことやそんなこともできるようになる。がんばりなー」

 スシンフリの声に便乗したユーノが明るい笑みを浮かべる。

「おいおい、まだアイツがスシンフリさんのことが好きだって決まったわけじゃないからな!」


 近くで話を聞いていたユイには違和感があった。話を聞く限り、極悪人ではないような気がする。

 ホントに、友達の好きな人は悪い人なんだろうか? 


 頭の上にハテナマークを浮かべたユイに、アタルが声をかける。


「ユイ。ルルのことが聞きたいんじゃなかったか?」

「うーん。だったら、ルル・メディーラってどんな剣士なの?」

 そう尋ねられると、アタルの表情が明るくなる。

「アイツは俺なんかよりも強くなったスゴイ剣士なんだ。昔は俺の方が強かったのに、スゴく頑張って、エルメラ守護団序列十五位の守護者になったんだ。剣術だけじゃなくて、常人では回避不可能な足技も打てるし、相棒のドラゴンもめちゃくちゃ強い。そこがカッコイイんだ!」

「……そうなんだ」と笑顔になったユイは、アタルの話を黙って聞いていた。


 

 「じゃあ、ルルってどんな顔してるの? 写真とかない?」


 ユイがそう尋ねると、アタルが慌てたように両手を左右に振る。

「そっ、そんなの持ってるわけないだろ!」

「あたし持ってるよ。ルルちゃんとアタルが一緒に映ってるヤツ」

 アタルの右隣に並んだユーノが右手の薬指を立てる。すると、アタルは頬を赤く染めたままで、隣にいるユーノの顔を睨みつける。

「ユーノ。なんでお前がそんな写真持ってんだ!」

「別にいいんじゃね?」

 ウインクしたユーノが、立てた指で空気を叩くと、一枚の写真が召喚される。宙をゆらゆらと落ちていくそれを掴んだユーノは、それをユイに手渡した。


 どこかの砂浜の上でふたりが横並びになっている。

 アタルの右隣で微妙な距離感を開けて立っているのは、一人の少女。腰に届きそうで届かない程度の艶がある長い後ろ髪の毛先が全て半円を描くように曲がり、全ての男を虜にできそうなほどの大きな胸が特徴的だった。


 写真の中にいるヘルメス族の少女は、悪人なのだろうか?


 そんなわけがないと直感的に思ったユイは、彼女の顔を瞳に焼き付けた。

 

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