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それは絶対的能力の代償~再構成~  作者: 山本正純
第十六章 静寂の攻防
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第122話 白紋の討伐者

「続けて、第二戦。闇の国、中堅は前に!」

 審判の騎士の声が円形の道場で響く。それと同時に、結界の中からユーノが右手を左右に振りながら飛び出す。


「はいはーい。闇の国、中堅、ユーノちゃんの登場です!」

「ちょっと待て!」

 一瞬でユイの右隣に瞬間移動したスシンフリが、ユーノの顔を睨みつける。


「何か問題でも?」

 はぐらかすように肩をくすめるユーノに対して、スシンフリが頷く。

「ふざけているようだな? なぜ大将を黒騎士にした?」

「別によくね? どんな編成にしても結局、スシンフリとの対戦は避けられないからさー。それとも、敵国のやり方にいちゃもんつけるつもりぃ?」

「くっ」と唇を噛んだスシンフリが再び結界の中へ戻っていく。


「さぁて、第二戦、始めちゃおっか。エルメラ守護団序列二十一位。白紋の討伐者。ユーノ・フレドール」


 笑顔のユーノが名乗りを挙げ、中央の白線の前に立つ。そのあとすぐに、ユイは顔を前に向け、ユーノと向き合うように立った。


「……獣人騎士団、ユイ・グリーン」

 名乗りを挙げ、互いに視線を合わせ、一歩後退する。

 それと同時に、ユーノは右手の薬指を石畳に向け伸ばし、空気を一回叩く。

 ユーノの指先から黒いレンガ模様の小槌が落ち、浮かび上がった魔法陣の上に飛び乗る。

 その瞬間、白紋の討伐者の体が黒い光に包まれた。


 黒い鉱物で作られたようなゴツゴツとした彼女の鎧の小さな胸元には、紫色の菱形の水晶が埋め込まれている。背負った円形の盾には、半円を描くように十本の黒い小刀が刺さっていた。そんな黒い鎧に身を包むユーノ・フレドールが、目の前にいる獣人の騎士に視線を向けた。


 自信満々な表情で相対するユイの顔を見ていたユーノが、背負っていた黒い小刀を一本引き抜き、前へと駆け出す。



「小刀使い?」と呟くユイの目の前で、ユーノが小刀を横に半円を描くように振る。その動きに沿って、黒いゴツゴツとした岩が現れ、小刀の刀身を大きくしていく。

 一瞬でユーノの剣の大きさが数十センチまで伸び、白紋の討伐者が獣人の騎士の鎧に斬りかかる。

 その動きに反応したユイは、自身の剣をユーノの剣にぶつけた。

 だが、ユーノの剣は脆く崩れてしまう。黒い鉱物の欠片が、ユイの剣や鎧に付着し、ユーノの剣は元の小刀の大きさに戻った。

 その隙を狙い、ユイが剣を振り下ろす。一方で、ユーノは体を横に一回転させ、相手の攻撃を避けた。



「自在に剣の大きさを変えられるなんて、面白い剣だね。でも、耐久力が弱すぎるのが弱点かな?」

 前を向くユイがユーノの剣に関心を示す。それに対して、ユーノは頬を緩めて、左手の薬指を立てた。

 

「そう。確かに、あの剣で召喚できる鉱物の耐久力は紙と同じだけどさー」


 ユーノが素早く宙に魔法陣を記す。

 東西南北に横棒で二分割された上向き三角形の紋章

 中央に天秤座の紋章


 ユーノの指先から生まれた風が、石畳の上に落ちた鉱物の破片を吸い込む。

 黒く染まった風はそのまま移動し、ユイの体を包み込んだ。

 咄嗟に風を剣で斬ったユイが右目を瞑る。

 その間に、ユーノは右手の人差し指を上に向けた。その瞬間、ユイの体に異変が起きる。


 「えっ?」と驚く間に、ユイの体がふわふわと浮かび上がっていく。

 手にしていた剣は、ユイの手から離れ、地上から一メートルの高さに浮かんだ。手を伸ばし、剣を掴もうとするが、地上から五メートルの高さまで離され、武器を拾うこともできない。


「何? これ?」

 疑問の声が地上に響き、ユーノが顔を上げる。


「アタルが説明してなかったっけ? 高位錬金術を用いた剣術の使い手もいるってさ。それが私」


 不敵な笑みを浮かべるユーノが、右手の中指を曲げる。それと同時にユイの全身に痛みが広がった。鎧越しに無数の菱形の黒い鉱物が鋭く全身に食い込む。

 それからユーノは、手にしていた小刀を上空へ向けて投げた。一瞬で身動きが取れない獣人の少女の背中に、宙に浮かんだ黒の小刀が何度も刺さる。

 鋭い痛みが何度も獣人の騎士の体に走り、彼女の視界が黒く染まった。

 その姿を見上げていたユーノは息を吐き出し、身に纏っていた鎧を解除する。

 同時に浮遊していた剣とユイの体が石畳の上に叩きつけられた。

 

「勝者、闇の国、白紋の討伐者。ユーノ・フレドール」


 戦闘不能と判断した審判役の騎士が勝者の名を呼ぶ。

 勝ち誇った表情のユーノは、気を失い横たわる獣人の少女を見下ろす。

 その間にユイは痛む体を起こした。


「痛っ。でも、鎧着てて助かったよ。生身の体だったら、大怪我負ってたと思う」

「さぁ、負けたんだから、結界の外に出なよーって、そっか。スシンフリ、ユイを結界の外に出しちゃって。それが最適解なんでしょ?」


 ユーノの声に反応したスシンフリがヘリスと共に、ユイの近くに姿を現す。


「ユイ、仇はオラが討つにょん」

 顔を前に向けたヘリスが、一歩を踏み出す。その間にスシンフリはユイの右肩に手を伸ばした。

 一瞬でスシンフリとユイが姿が結界の外へ飛ばされる。

 その一方でヘリスと向き合ったユーノは頬を緩めた。


「仇討ち? そんなことできるわけないっしょ?」

「それはどうかにょん?」

 お互いに視線をぶつけあうふたりの間に、審判役の黒騎士が割って入る。


「第三戦、開始」


 お互いに目を反らすことなく、右手の薬指を真下に向け、空気を一回叩く。


 赤と黄金色のツートンカラーの槌がヘリスの指先から落ち、ユーノは先ほどと同じ黒いレンガ模様の小槌を石畳の上に叩きつけた。

 一瞬のうちにヘリスが神秘的な模様が刻まれた赤の大きな鎧を身に着け、凛とした表情になる。

 その一方で、ユーノは先ほどと同じ鎧姿を晒した。


「エルメラ守護団序列二十八位。赤光の騎士、ヘリス・クレア」

「エルメラ守護団序列二十一位。白紋の討伐者。ユーノ・フレドール」


 互いに名乗りを挙げた後、ふたりの女剣士が一歩後退する。

 ヘリスが背負われた黒の鞘から赤の大剣が引き抜くと、ユーノは背負った盾から小刀を抜いた。

 

 最初に動いたユーノが小刀の剣先を赤光の騎士に向け、体を前方に飛ばす。そのまま小刀を握った右腕を突き出すよりも先に、ヘリスは一瞬でユーノの視界から消えた。

 白紋の討伐者の背後に回り込んだヘリスが左手の薬指を立て、素早く宙に魔法陣を記す。

 その動きを見切ったユーノは、体を半回転させながら、半円を描くように小刀を振った。

 一瞬で生成された数十センチの黒い剣が腰に食い込む前に、ヘリスは右足で石畳を叩き、真横へ飛んだ。

 そして、再び左手の薬指を立て、宙に魔法陣を記すと、左右の二方向に浮かぶ魔法陣から光と炎の帯が伸びていく。


 前へ飛び出したユーノの眼前で、ヘリスが刀身を炎で包み込んだ大剣を振り下ろす。

 それを待っていたかのように、目を輝かせたユーノが自身の剣をぶつけた。ユーノの剣が焼き焦げ、手にしていた刀が脆く崩れる。その残骸がヘリスの太刀の刀身に降り注がれていく。

 剣を失ったユーノは、素早く体を後方に飛ばしながら、右手の親指を一回曲げる。ユーノの背中に背負われた円形の縦の先端から一本の黒い小刀が浮かび上がると、彼女はそれの柄を右手で握り、右腕をまっすぐ伸ばす。

 その状態のままで、体を横に一回転させる。

 砂のように細かくなった黒い鉱物の円の中心に降り立ったユーノは、頬を緩めた。



 

「スゴイ!」

 結界の外からふたりの熱戦を眺めていたユイが呟く。その右隣でスシンフリは顎を右手で掴んだ。


「見ない間に強くなったようだな。あの一瞬で素早く宙に魔法陣を記し、二方向から攻撃を仕掛けるとは……だが、ユーノも黙っていない。そろそろ、あの術式の効果が発動される頃だ」

「それって、私を倒した……」

 スシンフリの隣で、ユイが目を丸くする。それに対して、スシンフリは頷いた。

「ああ、あの術式の弱点に気が付かない限り、ヘリスはユーノに勝てない」


 スシンフリは、結界の内側で激闘を繰り広げるユーノ・フレドールに視線を向けた。

 

 


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