第95話 人の目の前で新たな扉を解放しようとしないでください
ヤンデレムーブ姫島の件が終わったかと思えばすぐに始まる姫島と雪のメイドごっこ。
俺の精神が摩耗していくのがわかる。これが疲労か。
本格的にこの言葉の意味が分かった気がする。
「――――で、俺はこれからどんな拷問を受けるの?」
「拷問とは人聞きが悪いわよ、ご主人様。これは癒しのための時間よ?」
「はいです。最近何かとセットで取り扱われることが多いですけど、まぁこの際仕方ないとしてこの時間だけは私達の相手をしてもらいます、ご主人様」
「癒しというより苦痛だし、なんで構われる側なのさ。俺は」
正直こいつらに関して深く考えた所で意味はない。
こいつらの目的は結局俺との時間を過ごしたいだけなのだから。
これがうぬぼれであれば、ただ俺の自意識過剰で終わるがこいつらの場合目がマジだし、そうでなければこのようなことはしないしな。
「まぁまぁ、そう言わずにさ。もう少し気楽に考えてもいいんじゃない?
単純に最近気苦労を重ねてるみたいな様子の影山君に何かしてあげたいと思っただけよ。
それにこれは私の提案というより雪ちゃんの提案よ?」
「雪が?」
そう言われて当の本人へと向いてみると少し恥ずかしそうにコクリと頷いた。
最近何かと雪に積極性が増してきたのは気のせいと思いたい。
いや、それ自体は喜ばしいことなのだがその積極性のベクトルの偏りが凄いのが気がかりなんだが。
「そっか、気を遣ってくれてありがとな」
「......! はいです!」
「前から思ってたけど私との扱いの差が露骨すぎない?」
それはお前との普段の態度の差だ。ただ変態性で言えば恐らく雪が勝るんだろうな。単に表に出ないだけであって。
「にしても、わざわざメイド服も用意するとか随分本気なんだな」
「影山さんは何かと忙しそうですから。ただもう少しこっちにも目を向けてもらいたいだけです」
いつの日か聞いたようなセリフだな。確か......あぁ、沙由良が言った言葉か。
そのどこか寂しそうに感じる笑顔の裏にあるのはやはりアイツの呪縛か。
「......わかった。まぁ、やるだったらこっちが許容できる範囲にしてくれ」
「わかりました!」
それから姫島と雪のメイド接待が始まった。正直、この感覚はメイド喫茶に近いかもしれない。
ということは、俺もヲタクとして雰囲気を大切にしなければいけないのかもしれない。
ただ相手が姫島と雪だからいつも通りドライで行かせてもらうけど――――と思ったところで姫島から二つの提案が出された。
「それじゃ――――風呂で洗ってもらうかベッドでマッサージのどちらかを選んでください」
え、妙にエッチな内容に聞こえるのは俺が思春期のせい? それとも普段のこいつらの行いのせい?
「待て、その二つ以外のメニューは」
「オプションは......恥ずかしいけど頑張ります!」
ナニを頑張るの!? 待て待て、これは俺の思考が不味いのか!?
それとも本当にそういう方向で言葉をにおわせてるだけなのか!?
「......参考程度にオプションメニュー聞いていい?」
「特別会員の影山君にはまぁその? 色々とやってあげないこともないけど? ただ全てを晒す覚悟が必要だってだけで」
なんでか勝手に会員なってるんだけど!? それに二人ともなんで顔を赤らめるんだよ!
もうそっち方向にしか聞こえなくなってんじゃねぇか!
というか、なんでメニューの初手から風呂かマッサージなんだよ!
もはやメイド喫茶からもっとヤバい方にグレードアップしてんじゃねぇか!
落ち着け俺、こいつらの好きにさせるんじゃねぇ。
こっちが主導権を握る形に取り戻せばいい。
なんせ俺はご主人様であるからな!
「わかった。だが、俺がご主人様であるなら俺の指示に従ってもらおう。まずは腹が減った。飯だ」
「申し訳ございませんご主人様。食料が底を尽きてまして......オロロロ、なんと役立たずなメイドでしょう。
ここはもはやご主人様の機嫌を回復させるにはこの身を捧げないといけませんね」
「メイド姫島、こっちの同意なしに勝手に自己完結するんではない」
「ならば、私達を召し上がってもらおうというのはどうでしょう?」
「おい待て、メイド雪。それはどっちの意味でだ?」
エロい意味で言っているのならもはや言ってることは姫島と変わってないし、シンプルに「食べる」という意味だとすればそれはグロすぎて雪らしくない。
となると......やはり前者か。うん、雪ならこっちの方が合ってる気がする。
「ご主人様、これは日頃お疲れのご主人様を癒そうという目的のためのことなのよ? そう文句を言ってもらっては困るわ」
「なんで俺が悪いことになってんの? 時々お前らのパッションの強さが怖いよ」
いや、お前らが目的から外れるような行動をしないことはわかってる。
その手段があまりにも突拍子もないだけであって。
大体こいつらの思考がエロい方向から離れたことはあっただろうか?
少なからずこのメンツで会った際の確率はゼロだった気がする。
こいつらに俺がどう見えてるのかわからんが俺も男だぞとは言っておきたい。
されどそれでわからせようと動けばもはや同人誌におけるメンズと変わらない。
つまりは手を出せば負けであり、そうなればこの関係は泥沼化して沙由良に対しても会わせる顔が無くなってしまう。
まぁ、もとより俺に対するこいつらの好感度は......ないとは言わないが、告白イベントが成功するまでには高くはないことは確かだろう。
「はぁ、でもお前らの要件を飲まないと逃げられないわけだし。
今思えば姫島のあの内容も俺をここに招くための単なる嘘ってわかるし」
一先ず雪に許可をもらってソファの上で遠慮なくうつ伏せにならせてもらう。
そんな姿を見ながら姫島はややため息を吐きながら告げてきた。
「なんか私達に対しての冷たさが日に日に上がってる気がする。全くもう、都合のいい女じゃないのよ私達は」
「でもなんか、影山さんに冷たくされる感じは妙な感覚がします。
こう......心の中にゾワゾワする感じがあって、この感覚は中学生の頃に感じた疎外感と似たような感じなのに......なぜか嫌いじゃないです」
「影山君不味いわ。雪ちゃんの新たな属性が解放されそうになってる。このままじゃ私の属性が奪われないかねない!」
「心配する方そっちじゃねぇだろ」
M属性はお前の特権じゃねぇよ。っていうか、お前自分でMって認識してるタイプの奴かよ。
とはいえ、確かに雪がロリ体型にド変態妄想癖と来てM属性まで追加されたそれこそヤバいことになる。 もう調教されたメスガキとなんら変わらないみたいになってくるじゃねぇか。
それだけはダメだ。雪はもうこれ以上汚れてはいけない。主にこっちの手に負えなくなる。
「雪、純粋にマッサージだけやってくれ。それ以外に何か行動すればしばらくこっちから声をかけることはないと思え」
「え、もとより影山さんから声かけることが少ないのに!? それは嫌です!」
そう言うと雪の顔から邪気が取れ、雪はちっちゃな手で指圧を始めた。正直、その重さはほとんどない。
だけどなぜか妙に癒されてる感覚はなんだろう......あぁそうか、これは猫マッサージであるな。
正直、気持ちよさとかは微塵もないけど猫マッチャって考えると確かに癒されるものはある。
そんな癒され顔の俺を見て雪に対抗意識を燃やした姫島は張りきるように告げた。
「なら、私も影山君の目の保養になるように人肌脱ぐわ!」
「お前はそこから動くな。少しでも動けば連絡を途絶える」
「私だけ妙に内容強くない!? あ、でも、目の前で放置されながら他の女に好き勝手やらさてるこの構図......なんか妙に胸の奥から込み上がってくるものがあるわね。さすがに知り合い限定だけど」
「ヤバい、俺の言葉一つでアイツ新たな属性解放しようとしてやがる。
NTRされることに喜びを覚えるとかもはや擁護の余地すらないだろ」
「縁ちゃんはもう既に手遅れです。諦めた方が良いと思います」
雪のこんな冷めたような言い方始めた聞いた。だが、それほどまでに姫島の性癖は堕ちるとこまで堕ちてるのだろう。
「あー! でも、やっぱり目の前にこんな御馳走があって食いつかない女は女ではないわ! その柔肌を触らせろおおおおおお!」
「縁ちゃん!?」
「ま、待て、姫島! 落ち着け――――ああああああ!」
この後滅茶苦茶マッサージされた......ややエロい手つきで。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')