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第93話 急募「癒しの存在」

 ここ最近、心の乱れが中々収まらない。

 夏休みでの出来事も冷めやらぬというところに花市の登場だ。

 ここは少し笑えるような何かが欲しい。

 最もそれは過ぎたる願いと言えばそうなのだが。


 現在、俺は公園のベンチでボーっとしている。

 妙に一人の時間が欲しくて気まぐれにここで虚無ってるが案外悪くない。

 普段頭使ってるせいかたまには頭の中を真っ白にしたいのかもしれない。


 結局、願って手に入るものはそうそうない。

 それは言うだけタダであるのと一緒で、もっと言えば願ってる時点で半ば諦めてるのと同じかもしれない。


 故に、俺は「笑いが欲しい」と願ったものの、半分以上はそんなことが起こりえないと思っているということだ。

 変な現実的思考回路が俺の淡い願いすら潰していく。


「はぁ~~~~~」


 大きく息を吐いて脱力。まだ太陽が高く昇っているが、やはり夏休み頃に比べるとその傾きはやや大きくなってる気がする。


 気が付けばもう秋に突入しているというわけか。

 時間というのは本当に過ごしている間は長く感じて、過ぎ去って記憶の一部になるとあっという間と感じるものだ。


 まるでおっさんくせぇセリフだなこれ。

 ま、実際感じるのに年齢なんて関係ないんだろうけど。


「やや、そこにおられるは兄さん兄さん学兄さんではないですか?」


「うへぇ」


「学兄さんに恋する美少女になんと悪態。ですが、心優しき沙由良んは許してあげましょう。それで弱った様子ですがどうしたんですか?」


 唐突なエンカウントとは大抵こういう時に起こるもんだよな、知ってた。

 知ってたけど......だからといって、しっかりと心持ちが出来てるかと言われれば別だろう。


 沙由良は俺の横に座ってくるとわざわざ距離を詰めてくる。

 そのせいか横から漂うフローラルな香りに妙な感覚を覚えるが、あくまで主導権は俺でいたいのでここは冷静に。


「実は俺の学校で厄介なことが起こって......いや、こっちの都合としては丁度いいんだけど、その......なんつーかなぁ~~~~」


「もしやそれは花市さんのことですか?」


「......どうしてお前が知ってるんだ?」


 急な沙由良の言葉に思わず動揺してしまったが、なんとか表情に出さずにそのまま聞き返す。

 それに対し、沙由良はあざとくあごに人差し指を添えて何かを考えるとすぐに納得した。


「なるほど、学兄さんは学校でのその人と兄さんに関しての相談をしたいわけですね。

 全く、それでわざわざここを通る沙由良んを待ち伏せするなんてとんだペド野郎ですね」


「心外が過ぎるんだが。あと、言うならせめてロリコンにして。それだと意味合いが酷い。いや、やっぱロリコンも言うんじゃねぇ」


 つーか、お前がここを通ることなんて知らなかったよ。

 はぁ、久々に違うルートに来てみればこうなるわけですか、際ですか。


「仕方ない人ですね。ここは沙由良んが一肌も二肌もなんなら全身の皮を脱いで対応してあげましょう」


「恩着せがましいわ。なんだ筋肉の人体模型でもなる気か?」


 そんな俺のツッコミを華麗にスルーしていく沙由良は脇に置いてあるスクールバックからガサゴソと何かを探していく。

 そして取り出したのは五円玉に糸が付いたもの......おいおい、それって――――


「では、催眠術でもやってみましょうか」


「唐突な提案のベクトルが予想外過ぎて上手く言葉が出てこねぇよ」


 なんで急に催眠術よ? あれ? 最近学校で流行ってるとかそんな奴?

 だとすれば、正直特殊なお前に友達がいてちょっとホッとしてる自分がいるよ?


「実はこの沙由良ん、クラスメイト公認の催眠術師として名を馳せてまして。

 今宵は学兄さんに催眠術にて悩めるその心内を引き出そうかと」


 なーるほど、そういう趣旨のもとか。

 正直、素人の催眠術がかかるわけないので、きっとその心内も言うことないだろうな。


 あ、フラグじゃないよ? もとよりそういう催眠術って強い自己暗示のようなもので、自分自身にかけるものとしても、相手にかけるものとしてもどちらにも「信頼」という言葉が重くのしかかってくる。


 そういう意味じゃ、俺は沙由良に全幅の信頼を置いてるわけでもないし、俺は俺のことが好きだがそれでも今の俺を自信をもって好きと言えるかと聞かれればそうではない。


 ま、簡単に言えばかからないということだ。

 とはいえ、曲がりなりにも沙由良が真面目にやってくれようとしているのなら、無理のない範囲はかかったフリというのもアリだな。


「はぁ、しゃないな。ま、それで俺も気づいていない自分の心に気付ければ手っ取り早くて良いし」


「理解が早くて助かります。では行きますよ」


 すると沙由良は座ってる俺の正面に立つと少しかがんで糸のついた五円玉をゆっくり揺らし始めた。


「しっかり五円玉を見てくださいね。目を逸らしちゃダメですよ。

 たとえ私がここでこっそり黒タイツを脱ごうとしても」


「いや、脱ぐなよ」


「学兄さんはだんだん眠くなっていきます。まるで体が海の中に漂うようにゆっくりと深く深く」


 お、案外様になってるじゃん――――と思った瞬間に沙由良は自身の襟にある蝶ネクタイリボンを外し、第一第二とボタンを外した。


「......」


「......なんで見ないんですか」


「いや、お前が見るなって言ったんだろうが」


「黒タイツから露わになる雪のような白い柔肌の露出なら未だしも、開いた襟からのブラチラ程度なら大丈夫です」


「お前の基準バグってんのか。あと、無表情で言うのやめてくれる?」


「しゃべらずに集中してください」


 なんで俺が悪いみたいな流れになってんの?

 とはいえ、これ以上言った所で完全に沙由良のペースであるからして後手は確実。

 ここは俺が折れるしかない......はぁ。


「どうですか? 眠くなってきましたか? だんだんと意識が遠のいていってるはずです」


 いや、むしろガンガンに意識覚醒してるんだが。

 お前の妙な行動のせいでツッコミに熱入っちゃってるんだが。


「ふむふむ、ここで唐突な沙由良んチェーック。意識が深く落ちているなら大丈夫なはずです」


 そう言って沙由良んは襟に指を引っかけて少しだけ中が覗き見えるように角度を傾けた。


「今ここに将来巨乳になること間違いなしの沙由良んちっぱい谷――――今、チラッと見ましたね?」


「......」


「......ペド野郎」


「その仇名で呼ぶのはやめてください」


 こ、コイツ~~~~~! 五円玉越しにコイツの胸元があってそれで指引っかけてそんな行動されれれば普通は目が追うよ!

 特に性的意識がなくても、何やってんだ的なさ!


 しかも、コイツもコイツで自分からやっといて何わかりやすく頬を赤く染めてんだよ!

 そこは無表情であれよ! さっきから熱入りすぎてもはや眠気のねの字も感じてねぇわ!


「ごほん、では気を取り直して――――今、学兄さんは催眠術にかかりました。

 沙由良んの質問には何でも答え、沙由良んに命令にはなんでも従います」


 え、この流れでそれまだ続けるの? っていうか、完全に今寝た体でいったよな?

 ともあれ、俺はすぐさま目を閉じていく。もうこんなのはただの茶番だと思いながら。


「ではまず最初に質問しますね。学兄さんは――――私の同人誌ネタの内容が性癖という解釈でいいんですか?」


 初手でそれ聞くか普通!? いきなり答えずれぇ質問ぶっぱしてんくんじゃねぇよ! 

 っていうか、もう前回の時点でバレてるはずなのにここで掘り返す必要なくね?


「は......」


「は?」


「は、はい......」


「なるほどなるほど。では、これを言質とさせていただきます」


 カチッと音がした。え、なんもわかんないけどコイツまさかボイスレコーダー使ってないよね?


「ではでは続いても質問です。学兄さんの好きな体位を教えてください。今後のネタで活かしたいと思いますので」


 だから答えずれぇって言ってんだろうがああああああああ!


「あれ? あれれれー? おっかしいなー? もしかして起きてます?

 催眠術にかかって沙由良んの言う事聞くはずなのに。

 全く、仕方ないですね。内容を変えます。いいですか? 学兄さんは私を性的に襲い――――」


「もうやってられっかああああああぁぁぁぁぁ!」


 俺、立ち上がるとその場からすぐさま緊急離脱。

 これにて沙由良には黒星の二つ目を与えてしまった。

 ......はぁ、こんなの願わずにいられるか! 誰か癒しをくれええええええぇぇぇぇ!

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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