第92話 誰か癒しをくれーーーーー!
「――――で、あの幼馴染とはどういう関係か聞かせてもらうわよ」
「それはもう根掘り葉掘りとです」
「......はぁ」
放課後、未だ昼間のような日差しが差し込める教室で俺は案の定姫島達に囲まれていた。
それは恐らく花市の妙な煽り言葉に触発された可能性もあるが......話をするにしても確認しておきたいことがある。
「姫島と雪はわかる......だが、お前ら二人はどういう理由でここに?」
「ど、どういうって言われても......」
「そ、それは......」
まるで俺を裁判の被告人のように取り囲む机の正面には姫島達が、その左右にはなぜか生野と昂の存在があった。
昂の存在はなんとなく察しが付くが、生野の存在は一番解せない。
俺がした至極真っ当な質問に対し、二人はやや戸惑った様子で返答していく。
「な、なんというか単純に気になっただけよ。しゃべり方は凄い温和そうだけど、なんか妙に裏を感じるというかなんというか......それを確認しなきゃ怖いじゃない」
まぁ一理ある。花市は存在だけで厄介だ。
特にこのような姫島達に問い詰められるような状況になったのもアイツのせいだしな。
確かに、生野の行動は一部俺と似通ったところがある。
となると、情報戦略として俺の所へ来るのは間違っていない。
だが、だとすればその情報を一番に聞きたいのなら昂の所へ行くのが一番じゃないかと普通は考えるが、昂はあくまで絶対的に花市の味方なので弱点を話さないと思ったのだろう。
とはいえ、この状況で唯一誤算があるとすればこの状況でなぜか昂の存在もあるということだ。
これは俺に余計なことをしゃべらせないための牽制と考えるのが妥当なのだろうか。
「昂、花市から俺に対して何か言われてることはあるか?」
「......ないよ。お嬢様もさすがにそこまで厄介な人じゃないよ」
温和そうな表情でそう言うが......もみあげから大きく伸びた髪の先を指で弄っている。あれは嘘のサインである。
昂は昔からやや他の男子よりも髪が長く、まるで女子のように髪先をクルクルさせる癖があった。
それをする時は大体大きく動揺した時か嘘をつく時。
先ほどの俺の質問で動揺したような口調であったにもかかわらずその仕草をしなかったということはある程度花市の使用人として矯正されてるだろうが、仕草というのはそう簡単に抜けるものではない。
とはいえ、これほどまでに大きな仕草の矯正を見逃すだろうかという疑問点もあるが、そこはまぁこっちの都合で丁度いいので見逃しておこう。
さて、話を戻すと昂は花市から何か仕事を受けてここに来ている気がする。
花市の行動なら大概のことがわかるはずの昂がわざわざこんな所にまでやってきているのだ。
となると、やはり花市のイメージダウンになるような発言への牽制と考えるのが濃厚か。
アイツに関しては跡を消してもすぐにバレるからしねぇっつーの。
「で、どういう集まりだっけ?」
「影山君の幼馴染に関する花市さんについての話よ」
「随分と親し気に話してました!」
「話してましたって......そりゃ幼馴染だし。ほら、光輝と結弦みたいな関係だよ。
ま、唯一違う点とすれば花市の好意は光輝に向いているということ」
花市の光輝に対する愛着は昔っからだ。だから、今更どうこういうつもりもないし、まさかここで帰ってくるとは思わなかったがそれこそラブコメ主人公たる光輝の宿命ともいえる。
......あれ? こう考えると光輝って結構自力でラブコメしてね?
「確かに、あそこまで大見え切って嘘とは思えないわね。単に面白がってかき回すメリットがないし」
「補足して言っておくとお嬢様はあくまで自分の都合のいい方に事を動かす思考をしてるよ。だから、単にかき回すようなことはしない」
生野の言葉に花市を一番よく知る昂が説明を入れていく。
言いたいことはなんとなくわかるが......妙に納得できない部分もある。
「だとすれば、花市はどうして俺に妙なちょっかいを出してくるんだ?」
「そ、それは、がっくんをイジってのストレス発散と――――」
マジかアイツ。
「それとボク......のためかな。その結果、周り回ってお嬢様の都合よくなるって感じで」
昂の? その意味はよくわからんが、ともかくこの証言でアイツが昂を使って何かをしようとしていることはわかった。
だとすれば、そのフラグは是非とも叩き折りたいところだ。
昂には悪いが、俺はいつまでもアイツの思い通りというのが癪だからな。
そんなことを考えてると昂の言葉に姫島と雪が何やらぶつくさと言いながら考え込んでいた。
その声に少し耳を傾けてみると妙なことを口走ってやがる。
「影山君に國零君を......? それってもしかして狙いは男色――――つまりはBL!?
い、いけないわ! このままじゃ影山君の守備範囲が広がっちゃう!」
いや、勝手に広げんなし。
「BL......腐女子の原点......影山さんと國零さんの熱き肉棒があれやこれやしてあわわわわわ!」
こっちがそんな妄想されてあわわわだぞ、雪。
というか、雪はBLもいける口なのか......まさか沙由良に影響受けてないよな?
そして二人は互いに何かの結論に辿り着いたのか同時に机をダンッと叩きながら立ち上がる。
「このままじゃいけないわ!」「このままじゃいけないです!」
最近、この二人の息合う率高くね? ともあれ、こいつらの考えそうなことは大体わかる。
だって、こいつらの思考の中心にはどうせ俺がいるもの。
「先に言っておくけどお前ら――――花市の言葉に影響受けてないよな?」
「「「「ギクッ!」」」」
あれ、反応した人数妙に多くない?
「いや、もとより影響を受けたからこそこうして俺に花市との関係性を改めてしゃべらせようとしてるんだろうけど――――正直、俺があいつの幼馴染以上に言えることはないぞ?」
「それは......花市さんの秘密を隠すためってことかしら?」
「そういうわけじゃない。むしろ、アイツに一泡吹かせられるなら秘密なんてバラシてやらぁ。
だが、花市がやろうとしていることはあくまで光輝達に関わることだ。俺達に関することじゃない」
アイツの宣言はあくまで光輝のラブコメにて成立している事案であって、こっちの恋愛沙汰まで影響受けてしまったら俺は何様のつもりだってなる。
それに現状として俺はこいつらの好意に気付きながらも、未だこいつらに対する感情が覚束ない。
遠回しにアピールされてるわけでもなし、むしろ直接告白されてような結果であってその体たらくなのだ。
これはむしろ俺の感覚が狂ってるとしか言いようがなく、未だにこの関係を好意関係なく続けられないかという淡い期待まで抱いてる始末だ。
夏休みにちゃんと考える的なことを言っていたが、正直未だにこうまでして好意を寄せられていることに対して信じられない。
この長期であっても実はドッキリでしたって言われた方がよっぽど納得する。
はぁ、告白に対する返事の保留ってすっごい罪悪感湧く。
言った側はどちらにせよ答えが欲しくてじれったくしてるのに、こっちのさじ加減でお預けなのだから。なにこれ? 一種の放置プレイ?
そんなことを考えてると先ほどの言葉に対して大人しい雪が力強く言い返した。
「関係なくないですよ。私達も真剣なんですから」
......わかってる。だからこそ、俺はこんな行動を続けてる俺に対し幻滅しているのだ。
「これ以上はがっくんが辛そうだから僕は先に帰るとするよ」
妙な静けさが残る中で昂はそう言って席を立ちあがる。
そして、荷物を手にするとそのままドアまで歩いていった。
「あ、そう言えばお嬢様からがっくんに言伝あって言おうか迷ったけど一応言っておくことにするよ」
昂は振り返ると花市の言葉を代弁して伝えた。
「『――――学はん、相変わらず子供みたいやな』」
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