第88話 夏祭りの夜に#3
俺は情けなさをそのままに生野に俺の失態を告白した。
それに対し、生野は笑うわけでもなく、「何やってんのよ」と呆れられはしたがすぐに告げてくる。
「じゃ、探しに行くわよ」
「その行動力はありがたいがさすがに人が多すぎてわからねぇよ。
運よく拾って祭りのスタッフに届いてればいいが、もし知らぬ他人に拾われて悪用でもされようものなら――――」
「随分と悪い方向に考えるのね。やっぱりあんたはどちらかというとネガティブみたいね」
そういう生野はまるで「大丈夫」とでも言いたげに自信に溢れた表情をしていた。
俺的にはその自信はむしろどこから現れているのか。
とはいえ、確かに悪い方向に考える節がある俺にとっては生野のような明るい要員は貴重な存在だ。
......けど、もうこれ以上の迷惑はかけれない。
これは生野のためじゃなく、俺のポリシー。
それにあのスマホにはたくさんの個人情報が入っている。
ロックは厳重にしてあるが、所詮は俺程度が出来る程度の限界はある。
生野には俺の弱った部分を見せてしまったが、吐き出したことでこっちも多少は楽になった。
俺個人としても生野にはこの祭りを楽しんでもらいたいと思う。
自分の蒔いたタネの落とし前をつけるのは当然俺だけでいい。
「......そうだな。お前の言う通りかもしれない」
「でしょ?」
「あぁ、だからこの先は俺一人で十分だ。だから、お前は普通に祭りを楽しんでいっ――――」
「そこまで言われるとさすがにムカつくわ」
生野は俺の胸ぐらを掴むとそのまま見上げた。
階段の段差のせいか一段上にいる俺からの視点では生野の顔がよく見える。
そして、その表情は本当に怒りを宿しているかのように眉にしわが寄っていた。
正直、生野がどうしてそこまで怒っているのかわからない。
怒らせるようなことを言ったつもりはない。
別にさっきの発言は生野を戦力外通告したわけじゃないのだ。
むしろ、生野のことを思って言ったわけで......。
「あんはさ、私ってどれぐらい知ってる?」
「......お前の趣味とか好みとかそういうことか?」
「そんな表面的なことじゃないわよ! あんたに私がどれくらい見えてるかってこと!」
生野は酷く激情している。
しかし、その理由が皆目見当がつかない。
一体何が生野をそうさせたのか。
原因を探るとすれば先ほどの数分前の俺の行動だろう。
だが、思い返しても生野の気持ちに触るようなことを言ったつもりはない。
じゃあ、なぜ生野は怒っているのか。
それは俺が生野をしっかりと理解できずに見えぬ地雷に踏み込んだからであろう。
未だに答えの一端すら見えてこないが、一先ず落ち着いて欲しい。
このままじゃお前のせっかくの一日が台無しになってしまう。それは出来れば避けたい。
「お前だからハッキリ言うが......怒らせてる原因がわからない。
だからきっと、お前の本質をまだ理解しきってないってことだと思う」
「謝罪はないの?」
「してもいいが、して納得するような案件じゃないだろ?
逆にお前は俺のことを理解しているだろうから言わなかっただけだ」
「......ふんっ、殺し文句も大概にして欲しいわ」
生野は不貞腐れたように顔を背けた。
相変わらず頬は赤く、耳まで真っ赤である。
本当に怒ってんだなぁ。っていうか、今の殺し文句要素あった?
俺の胸ぐらから手を放しながら「私もカッとなって悪かったと思ってる」と呟くと今度は少しだけ寂しそうな目で見てくる。
「どうした?」
「なんでもないわ。ほら、探しに行くわよ」
「......あぁ、わかった」
受け入れることにした。なんとなく先ほどと同じ結果になりそうになったから。
その選択は案外正しかったのか、生野は笑顔を浮かべると俺の手首を掴みながら人混みの中へと潜っていった。
そこからは法被を着た祭りスタッフへと聞き込みを繰り返していく。
それから数分と経ち数人のスタッフへと聞いたところで、落ちしものセンターで我がスマホとの再会を果たした。
「あった~~~~~~! 良かった~~~~~!」
「親切な人が拾って届けてくれていたみたいね。良かったじゃない」
我が子を抱きしめる親のようにスマホを抱きしめる。
お帰り、スマホ。そして大事な個人情報であり、時雨ちゃんズイラストデータ。
感動的な再会を果たした俺とスマホに生野も嬉しそうに笑みを浮かべる。
その表情を視界の端で捉えていると安心感とは別にふと申し訳さが込み上がってきた。
一先ず生野へと体の向きを合わせると思いっきり頭を下げる。
「生野、助かった。ありがとう」
「!?」
そう言った俺に対し、なぜか生野は戸惑っている。
その妙な反応に少しだけ顔を上げて聞いてみた。
「何その反応?」
「いや~、だってあんたがこんなに素直に感謝の言葉を述べるなんて思わなかったから、予想外で不意打ち喰らったって言うか......」
「失礼な奴だな。俺だって感謝ぐらいできるぞ。俺を何だと思ってる?」
「親友で遊ぶド畜生」
ぐぬぬぬ、やってることがやってることだけに反論できねぇ!
そんな言い返せない俺を見て生野はクスクスと笑っている。
どうにも今の俺というのは生野には新鮮に映ってるらしい。
「そんなに笑わんでいいだろ......俺だってしでかした幼稚さに頭が痛くなりそうなんだから。
それにお前には本当に悪いと思っている。わざわざ楽しいひと時を削ってまで付き合わせ――――てっ!?」
「それ以上は言う必要ない」
生野は俺の唇に人差し指を触れさせてきた。
あまりの行動に俺の脳内で考えていた言葉が思いっきり吹き飛んでいく。
ただ出来ることだけは視界に生野の姿を収めるだけで、生野は顔や耳を赤くして明らかに恥ずかしそうにもかかわらず笑っていた。
「前から思ってたけど、もう少し自分を見てもいいんじゃない?」
人差し指が離れていく。されど僅かに押し付けられた感触が熱を帯びたように残っていた。
「ね?」
まるで「当然そうでしょ」と言わんばかりの意味を含んだたった一つの語に俺は言い返す言葉すら見つからなかった。
「あとちょっとで花火始まる時間みたいよ。
あんたの失態は伏せておくから安心しなさい。
さ、行きましょ? 寂しがってる子達がいるからね」
生野はそう声をかけて歩き出した。
その後姿を見て俺は胸の奥から込み上げてきた言葉をそのまま吐き出す。
「生野は......生野はどこまで俺のことを知ってるんだ?」
騒がしい会話音や音楽が入り乱れる中、特に張ったわけでもないその声が生野には届いていたのかその場に立ち止まる。
そして振り返ることもなく返答してきた。
「全然知らないわよ。むしろ、知られてることの方が多いぐらい。
だけど......だからこそ、知っていきたいと思うの。今はまだ――――“友達”として」
「......そっか。なら、俺もお前を怒らせないように知っていかなきゃな」
「......っ!」
―――――ヒュ~~~~~~パァン!
その瞬間、夜空に輝く花が咲き、周囲は歓喜の声に包まれていく。
しかし、振り返った生野の顔は俺を見続けたままで、その顔は花火で僅かに“紅く”色づいていた。
「......あいつらの場所は?」
「そ、そうね。こっちよ」
生野に声をかけて既に集まっている光輝達や姫島達のもとへ向かうことにした。
そして、無事に合流し、その後も花火が打ち終わるまで見続けたが、その日の間胸のざわめきが消えることは終始なかった。
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