第87話 夏祭りの夜に#2
夏休みにおいて夏祭りとはまさにビッグイベントであり、高校生の思春期真っ盛りな時期で考えれば正しくこの一日の過ごし方で未来でのこの過去がどういう思い出に変わるのか変わってくる。
――――というにもかかわらず、特に光輝達の所で目立つような動きはない。
それは俺がいるからなのか、それとも純粋に祭りの陽気に誘われて楽しんでいるだけなのか。
俺は生野の様子を観察するために適度に祭りを楽しみながら観察しているが......コイツ、全く光輝に話しかけない。
それどころか楽しく話しているのは姫島と雪である。
今回俺のお膳立てがあったわけじゃないが、それでもこの夏祭りというタイミングは相手の学校では見られない違った魅力が見られる絶好の機会であるはず。
それをみすみす逃すということはやはり生野の光輝に対する興味は薄れたということか?
そう考えるとそれらしき兆しは確かにあの林間学校の一件以来見えていた。
生野の光輝に向ける態度の変化というのにもっともな理由をつけるとすれば、やはり恋心が消失したというあたりであろう。
本気でそうであるならば、俺の目的としてはこれ以上生野に構うつもりはない。
多少距離は出来るが全く疎遠になるわけじゃない。
あいつから話しかけられれば話には乗る。
ただ俺からアイツに対して動くことは無くなるということだけだ。
――――だが、かつての俺だったらそういう判断の下考えていたかもしれない。
あくまで自分勝手に、自分の欲望のままにある種本当に自分がギャルゲーのプレイヤーのように消えたルートを無視してたかもしれない。
だが、俺も姫島、雪と関わるようになってきて蔑ろの気持ちは単に相手を傷つけ、痛めつけるに等しいとわかった。
考えすぎかもしれないが、現に俺は今も答えを保留としている時点で姫島と雪......沙由良にして見れば俺は激ヤバ加害者だ。
あいつらのメンタリティが強すぎて勘違いするが、好きな相手に好意を寄せてる恋敵がいると分かっていてそれでも「待てる」なんて本来おかしいことだ。
最終的な答えによっては自分が振られて、仲良かった友達が好きだった相手とくっつく。
散々待たせておいて報われない恋で終わらせるなんてもはや殺傷行為と変わらないかもしれない。
月並みな言葉で「体の傷はすぐに治るが、心の傷は簡単には治らない」なんてのがあるが、実際その通りかもしれない。
故に、俺は早急に答えを見つけなければいけない......だが、恐らく自分自身でも見えてない答えなんてきっと“アイツら”には見え透いているだろう。
ハァ......アイツらはホント俺のどこがいいんだか。
どのラブコメでも俺のような親友ポジションは主人公に対してあくまで諦観に留まっている。
それは安易に関わればその主人公達の未来を不安定にしかねないからであるだろう。
主人公は自分で悩み、苦しみ、捻りだした答えがそのラブコメのストーリーにおいて最高のフィナーレへと導く。
だが今の俺はどうだ? 非干渉気味ではいるが、それでもかなりでしゃばっている気がしなくもない。
見方を変えれば俺は親友の恋路で遊ぶクズとなるわけだ。そんな相手に恋をするなんて本来どうかしてる。
恋は盲目というし、痘痕のえくぼとも言うが......早く周囲をよく見て欲しいし、その痘痕にも気づいて欲しい。
しばらく考えていてた俺はどうやらもはやうるさいとも感じる祭りの雑音の中で立ち止まっていたらしいな。
正面には楽し気に話していた光輝達や姫島達の姿も見えない。
完全にはぐれた。ま、スマホあるから問題ないけど。
こういう何気ない時によくスマホの充電が切れたとあるが、生憎俺は主人公ではないし、ここに来る前にフル充電に......あれ? え、おい、嘘だろ?
「スマホがない......」
も、もっと絶望的な奴が来やがった......! どうすんだこれ? この祭りの人混みの中でか!?
待て待て待て、落ち着け、落ち着けよ俺。
こういう時は......アレだ、自分が物をどこ置いたか忘れた時に使う過去の今までの動きを思い出してシミュレートするやつをすればいい。
つまり俺がここまで歩いてきたのは祭り会場の入り口ぐらいから。
ということは、俺はここから下を注視しながら来た道を戻ればいい。
「よし、それだ。それで大丈夫なはず!」
―――――十数分後
結果から言うとダメだった。
何度か往復したが人が多すぎて足元が見えないし、さらに人を避ければ同じ通りでもかなり蛇行して進んでいる。
正直、もう希望が見えない。
きっと主人公なら見つけるまで泥まみれになろうと探すが......ってさすがに充電がないヘマはしても落とすまでの最悪な状況にはならんか。
俺は一先ず人がまばらにいる神社の階段に座って呼吸を整えることにした。
こういう時は焦ってはダメだ。焦っちゃダメだけど......それで解決策が思い浮かぶわけでもねぇ。
人の波のような露店の通りで落とした可能性が高いんだ。
いくら警備員がいようとも早々足元にある何かを見つけられはしないだろう。
となれば、後俺に出来ることは無事に親切な人が俺のスマホを拾ってくれるのみ......希望が糸のようにか細い。
「ハァ......上手くいかねぇな」
光輝のヒロイン計画も然り、俺の周囲にいる女子に対する好意も然り。
俺はどこかずっと侮っていたのか?
注意しているようであっても、どこか気づかぬ見落としがあったのか?
ハァ、嫌になってくるぜ自分という人間が。
どうにもこうにも考えることが多すぎる......まぁ、自分で蒔いたタネなんだけどな。
だからこそ余計に虚しくなる。
自己正当化しようともその原因を作り招いた結果のどちらも俺であるから言い訳の「い」の字も出てこない。
姫島にしても、雪にしても、沙由良にしても俺という人間性を本当にわかっているのだろうか。
俺はずる賢く生きる道を選んだ哀れな人間で、光輝のように正面から迎え撃つことを避けた人間だ。
光輝は小学校の頃から正義感の強い奴だった。
弱くてただのゲーム好きな少年なくせに、いじめられてる子を庇いに行ったり、あまつさえ俺のような周りを見下していたガキまで真っ直ぐぶつかってきた。
その真っ直ぐさに憧れた俺は光輝の近くにいることでその憧れを手にしている――――ような気になっていた。
だが、実際は今も昔も変わらずに“提供屋”なんぞことをやっている。
光輝の幸せを導くなんて理由でやってるが、実際はそれを建前にして光輝という光から目を背けてるだけかもしれない。
もともと光輝にはなれないと分かっていた。
だから、俺は俺だからと変に現実的な思考回路をして、光輝を太陽に見立てて自分を影だと思った。
ま、光輝と俺の苗字からしてそう運命づけられた可能性もあるがな。
「ハァ、気が滅入ってんな。しょうもない自己嫌悪を繰り返してやがる」
だが、さすがにこれ以上俺がいないことがわかれば、あいつらも祭りを楽しむどころじゃないだろう。
だからこれ以上の自分への侮蔑をしても仕方がない。
迷惑かけないうちにさっさとスマホを回収して――――っと冷てぇ!?
「なんだ!?――――って、生野か。どうした?」
そこには片手に食べかけのかき氷を持ち、もう片方に頬に当ててきたであろうラムネ瓶を持っていた。
そんな生野は怪訝そうな様子で隣に座り返答してくる。
「どうしたも何もないでしょう? あんたがいないことに気付いたから探してみれば、こんなところでうなだれてるし、呼びかけても反応しないしで。で、どうしたの?」
「......いや、生野が気にすることじゃな――――いっ!?」
迷惑はかけれんと立ち上がろうとすると手を引っ張られて強制的に座らされた。
そして「何すんだ」と言いかけたその口にストロースプーンに乗せたかき氷を押し込んでくる。
「どう? 頭冷えた?」
「......ああ。おざなりな反応して悪かった」
「あんたが素直なんて調子狂う――――ってこれよくあたしに言うセリフね」
「......」
「何を気にしてるかわからないけどさ、話を聞かせてよ。友達としてさ?」
どこか気を遣ったようにも感じ取れるその一文。
いつもならその一文だけでも邪推しそうだが、今はただその気遣いが嬉しかった。
そして俺は自分のやらかしを淡々と生野に話のであった。
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