第85話 まだ時間はかかる
考えさせられることは多々あるが、まずはある程度の事実を確認をすることにした。
というのも、現状で俺は今どれくらいの達成度で光輝のラブコメ計画を進められているかということだ。
現状でハッキリしているのは光輝に対して確実な行為を寄せているのは乾さんに結弦、そして霧江ちゃんの三人。
その中で追加メンバーとして失敗した連中が姫島、雪、沙由良の三人である。
この中で生野をあえて挙げなかったのがグレーゾーンであるからだ。
俺的には生野の好意は光輝に向いているものだと思いたい。
だがしかし、沙由良の言葉を借りるとすれば、それは俺の都合のいい思い込みである可能性がある。
俺は思い込みで失敗した。
現状で言っても姫島の好意は俺を過大評価した勘違いで、雪は男性恐怖症克服のための依存という解釈をしているが、これは俺があの二人に向けられた事実をどうにも認めたくない思い込みかもしれない。
だからといって、その好意をハッキリ拒絶できるほどの理由はないのが悩みだ。
沙由良のことだって心のどこかでは光輝ではなく自分に好意が向いているような気がしてた。
しかし、それは俺の都合に悪く、俺の低い自己評価と相まって沙由良はあくまで光輝に好意を持っていると“思い込んだ”。
その結果、沙由良は思い切った行動を出さざるを得なくなり、その行動を拒絶するまでの俺にハッキリとした理由がなかった。それがあの体たらく。
「はぁ~~~~」
俺はため息を吐きながらビーチパラソルの下で海を眺めていた。
二日目の海は同じ海であるはずなのに心が晴れない。
砂浜の周囲から聞こえるカップルや家族ずれの和気あいあいとした声やすぐ隣から聞こえる雪にサンオイルを塗ってもらって変な声を出している姫島の声すらもどこか幻聴のように聞こえる。
「ん、あっ♡」
聞こえる。
「ちょ、そこは♡」
......聞こえ―――――
「雪ちゃん、ダメ♡」
「うっさいんだよ! 人がちょっと思い詰めてんのに隣で喘ぎやがって!」
「しょ、しょうがないでしょ! 雪ちゃんが変に上手いテクで触るんだもの」
テクって......単にサンオイル塗ってるだけだろが。
「はい、どうにも影山さんに元気がなかったのでそういう劣等感を吐き出してもらおうかとちょっと頑張りました」
「頑張る方向性が違うと思うぞ。しかも、それだと元気になるの意味も違って来るから」
っていうか、ほんとにテクだったんかい。
はぁ、こいつらの近くにいると悩みごとを抱えてることが本当にバカみたいに感じるよな。
いや、それがこいつらなりの気の遣い方か?......だとしたら下手過ぎだろ。
「好きなら好きって言えばいいじゃない」
「は?」
うつ伏せで寝転がる姫島が不意にそんなことを言ってきた。
その言葉の意味が気になって思わず振り返る。
すると姫島は俺の視線に気づいてすぐに胸を隠した。
「ちょ、どさくさに紛れて横乳見ないの! 見るときは言いなさい!」
「キレ方がおかしいだろ......いや、そもそも何見た前提で話しを進めてるんだ」
はい、話が速攻で脱線しましたとさ。
おい、今の流れは真面目ムードじゃなかったのか?
すると今度は雪が胸を抑え始めた。
いやごめん、雪のは視界に入ってすらいない――――
「ごめんなさい......うっ、胸無くて......」
「え、ガチ泣き!? あ、いや、ないことはないんじゃないかな、うん」
そもそもないとは言ってないし。
それに過去何度か雪にくっつかれて柔らかい感触を感じたことが......ってこう思い出してると俺がただの変態みたいじゃねぇか。
確かに俺は健全なエロを嗜む男子高校生だ。
だからといって、過去の感触を思い出して鼻を伸ばすほど心は廃れちゃいねぇ!
一先ず雪を慰めるように頭を撫でると姫島が「ずるい」と言った目で見てくるが無視。
さっさと先ほどの言葉の意味を答えてもらおうか。
「で、さっきのはどういう意味だ?」
「どうも何もそのままの意味よ。ま、少なからず前までのあなただったらそこら辺は真っ直ぐだったんじゃない?」
前までの俺......ということは過去の俺の言動にヒントがあるということか。ふむ、なるほど、そういうことか。
「確かに前までの俺だったら時雨スキーの二次ヲタ推し推しで、結弦に関しても言わなきゃ伝わらないとか言ってたな」
「ホントそういう所は妙に頭が冴えるわね。
そういうのって大抵のラブコメは伏線のような言葉になって、後からそれがどういう意味が気づくっていうのがセオリーなのに」
「ということは、俺はあくまで裏方であり、わき役であり、モブであるということだ」
「確かにそれは陽神君の視点からすればそうなのかもしれませんが、私達の視点からすれば陽神君こそ裏方であり、わき役であり、モブですよ」
そう言う雪は発言だけは実に真面目そうなのに、やっていることは俺の手を頭に押さえつけながら頭をグリグリさせている。
まるで猫が自分のものとアピールするように体を擦らせてニオイをつけるように。
なんか小動物感が増してきたな。
あー雪さん雪さん? 割に人前に見せられない顔になってるから顔を上げるときは気をつけなさいよ?
「ま、ともかくあたし達視点からすれば目下ラブコメ中よ?」
「この会話がか?」
「えぇ、もちろん」
「終わり」と告げるように頭を軽くポンポンしてやると雪にしょげられた。
そんな顔するとついつい甘やかしてしまいたくなるが、ここはグッと堪えて手を引く。
すると姫島はサンオイルが塗り終わったのか雪はビキニを結び直すと俺の横に座った。
そうなると俺、姫島、雪という位置になったせいか雪はせこせこと移動して俺の隣に座ってくる。う~む、小動物感が!
そう思いながらなんとなく海を眺めているとなぜか二人も黙って同じ方向を見続けている。
海には楽しそうな光輝達の姿があり、例の光輝ハーレムズに混じって沙夜と沙由良も一緒に遊んでいた。
あのメンバーに入り込むとは相変わらず勇気のある妹だ。
にしても、昨日に引き続きちょくちょく生野と視線が合うのは気のせいだろうか......下手したら気のせいじゃないのかもな。
「......なぁ、お前らって俺に結論を求めてるんだよな?」
「そうね、求めてないというと嘘になるわ」
「私も初めてで怖いですけど覚悟してます」
「そうか、なら――――」
「けれど」「ですが」
俺が言いかけた言葉に割り込むように姫島と雪は言葉を入れ込んできた。
そしてそのまま言わせないように言葉を続けていく。
「今すぐにというのならば、それは求めていないわ」
「もちろん、それでも答えてくれた言葉が心の底からの気持ちであるならば受け止めますが、前みたいな軽い気持ちで言うのなら私達の意識は変わらないですよ」
前みたいな軽い気持ち......あぁ、「他の男に鞍替えしない?」みたいなことを言った時のセリフか。
「安心しろ、俺が言うセリフはそんな安いセリフじゃない。
ただ......どれくらい時間がかかるかもわからないが考えるから待っててくれって言いたかっただけだ」
「そう」
「なら、安心しました」
俺の言葉に二人は本当に嬉しそうに自然な笑みを浮かべる。
その笑みを見て俺は俺の中に妙な渦巻く感情が心にあることが気になって仕方がなかった。
俺はこの二人に挟まれてるから気まずくなってるのかと思い立ち上がるとそのまま砂浜に歩き出し、少し離れた所で振り返って聞いた。
「前にも聞いたが、そんな仲良くて大丈夫なのか?」
すると二人はどこに根拠があるのかと俺に疑問すら感じさせないほどに良い顔で言い切る。
「「大丈夫」」
それらの気持ちに関しては俺が干渉すべき領域ではないのかもしれない。
それはあくまでこいつらの問題だ。
だがまた、俺は俺で答えを告げる“加害者”の責任を背負う覚悟を持つ必要があるのかもしれない。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')