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第83話 夜の海は怖い#1

 お風呂を済ませ、夕食を済ませ後はのんびりゆっくり夜の海でも見に行こうか――――と思っていたかったのがついさっきの気持ちで、今は確信に近い悪寒を抱えながら夜の海へと向かっている。


 俺が気にしてるのは当然ながら沙由良の言ったセリフに関してだ。

 もし俺が鈍感主人公であればこの後告げられるだろう沙由良のセリフに驚き赤面と言った形になるだろう。


 しかし、俺はモブでありそんなセオリーは通じない。

 というか、どうしてこうなったのかと考えざるを得ない。

 まぁ、要するに失敗するという賭けにチップを全振りしてるのだ。


 さすがの俺でもあれだけの前フリをされれば嫌でも気づく、沙由良の本心というものを。

 そして今はその語られる真実を確かめに行くのだが......すっごい気が重い。

 楽しみな夜の海がこんなに怖い思いをしていくことがあるだろうか。


 目的の場所に近づいていくほど潮のニオイが増してきて、波が揺れる音も聞こえてくる。

 どこか心地よさを感じるその音色に対して、俺の心は荒んでいるようにその音を拒んでいく。


 しかし、この場で逃げるのは男の恥であろうし、なにより沙由良が本当に来ているのであれば、あいつを夜に一人にしておくわけにはいかない。


 結局のところ、俺に「行かない」という選択肢はどこにもないのだ。悲しいことにな。

 重い足をなんとか前に出しながら歩いていくと俺よりも先に沙由良の姿があった。

 俺が出るときにはもう姿がなかったが......やはりもう着いてたか。


 仕方なくため息を吐く俺に沙由良は気づくと相変わらずの無表情のまま、その抱えた感情を溢れ出させるように両手で大きく手を振ってきた。


「やぁやぁ、学兄さん。来てくれると思いましたよ―――――痛て」


「アホ、一人で勝手に夜をうろつくんじゃねぇ」


 沙由良はまだ中学生だ。そうじゃなくても女子であり、夏であるから夜でも明るいとはいえ一人で夜を歩かせるのはどうかと思うからな。

 その罰としてのチョップ。これは当然の報いだ。


「もしやもしや沙由良んを心配してくれたのですか?」


「まぁ、そりゃな。光輝の妹に何かあったら俺はあいつに顔向けできねぇし」


「また兄さんですか......」


 沙由良は頬を膨らませてそっぽ向いた。

 まるで「不貞腐れていますよ」とアピールするように。

 そんな沙由良の反応を横目に見つつ、俺は早速本題を切り出した。


「で、話ってのはなんだ?」


「ムードのかけらもないですが......まぁいいでしょう。それは沙由良んの本心についてです」


 沙由良は表情を元に戻すと全てが退屈そうに見えているその目で海を眺めた。

 その目を一瞥すると俺も海を見る。


「お前の本心か。俺的にはお前がブラコンであれば助かったんだがな」


「やはりそんな感じでしたか。ですが、私は別に兄さんのことは嫌いではないですが、恋愛対象で好きというわけではありません。

 私が好きなのは学兄さん――――影山学さんという一人の男性だけです」


「......はぁ」


「何故、私の告白をため息で一蹴を!?」


 いやまぁもうなんとなくわかってたよ。

 さすがに姫島、雪と似たような雰囲気を感じてたからな。

 俺が沙由良に対しての思い込みを沙由良自身が訂正しようとしてた。

 その時点で沙由良にとって俺が抱える気持ちは邪魔でしかなく、ということはそういうことだ。


「なんていうか。どーしてこうも上手くいかないんだろうと思ってな」


「......学兄さんは私と兄さんをくっつけたかったのですか?」


「ま、あわよくば」


「どうしてですか?」


「そっちの方が選択肢が増えると思ったからだ。光輝の幸せの選択肢が」


 海を眺める俺に対して、沙由良からの視線をなんとなく感じる。

 だが、とても目を合わせる気にはならなかった。


 その俺の気持ちが伝わったのか沙由良も俺から視線を外して再び海を見ると不貞腐れたように呟いた。


「やっぱり兄さんは嫌いです」


「おいおい嫌いになってやるなよ。血の繋がりがないとはいえ家族だろ?」


「えぇまぁ、とはいえ一定の嫌いはありますね。

 どうして兄さんばかりにそういう好意が集まるのかと。

 そもそもの話、学兄さんは一体どこから勘違いをし始めたのですか?」


 どこからって、それは恐らく俺が沙由良と初めて会ってファミレスで話した時に、光輝のことを尋ねたらムスッとした反応をしたから......だよな。

 そのことを沙由良に話すと「しょうがない人ですね」的なため息を思いっきり吐かれた。


「私がそういう反応をしたのは兄さんごときに彼女なんて存在が出来ることにちょっとムカついたんですよ。

 ただでさえ、結弦さんに好意を向けられているのにそれに気づかず」


「まさかの怒りの反応だったのか」


 それに気づかずラブコメ脳全開の俺は今までそう思い込んだ行動をし続けたわけ、か。

 空振り三振してるのにまだバッターボックスに立っていたのか俺は。


「そもそも世の中にいる兄と妹という関係性において、妹を必ずしもブラコンであると考えるのがおかしいんですよ」


「いや、それは......けど、お前は光輝家と血の繋がりがない他人なわけだし、兄妹とはいえそういう感情を持ったりしないのか?」


「確実な否定はできませんが、少なからず私が他人であると聞かされたのは兄さんが『兄さんである』と認識したその後でした。

 ラブコメではよく実は他人であったと知った瞬間、ブラコンが恋愛感情に発展するなんてことはありますが、現実では血の繋がりがなかろうと兄としての認識が強ければそれは『兄』です」


「それ以上のことはなにもないと?」


「当たり前でしょう? そもそもラブコメの世界では妹が当たり前のようにブラコン描写されてますが、普段の兄さんの様子を知っていてそれでも好意を抱くなんて一種の変わり者だと思いますよ」


 なんかラブコメの定義を全否定されてる気分だ。


「......だけど、お前だって光輝に助けてもらったことはあるだろ?」


「そうですね、野犬に襲われたのを助けてもらったり、足を滑らせてくぼみに落ちそうになった所を助けてもらったり」


 思ったよりエピソード濃いな。


「それなのにそういう感情は抱かなかったと?」


「だってその時にはもうすでに兄さんでしたから。

 一定の好意がなかったとは言いませんが、それ以上の好意があったとも思えません。現にこうなのですから。

 それにどんな相手を好きになろうが、それは好きになる私に決める権利があって当然ですよね?」


「......そうだな」


 正直、とても頷きたくなかったが、今の俺に返せる言葉はなかった。

 そして、漫画にあるようなラブコメを現実に叩き起こそうとしてやっている今の行為は奇跡の上で成り立ってるとも理解した。


 いや、そもそもそれが当たり前なのだ。

 「天から美少女が降って来ないかな」と思ったところで当然のようにそうなるわけがなく、むしろ女子と付き合いたいという願いすらそういう行動しなければ叶えられないのが現実。


 ただ願うだけでそうならないからこそ、俺はモブとしてこれまで行動していたじゃないか。

 それが序盤のビギナーズラックを引きずったまま最近まで俺の認識は見事に現実と架空をごっちゃにしていたみたいだ。


 つまり言いたいことは、俺の沙由良ヒロイン計画は完全に破綻したということだ。

 これについてこれ以上は語る必要もあるまい。


「はぁ、少し自分の行動を振り返らなければいけねぇな~」


「で、結局沙由良んのもはや告白と言ってもいいこの状況はどうなったのですか?」


「とはいえ、裏方であっても全くの非干渉は無理だしな」


「え、無視ですか?」


「ともかく、光輝達にはバレたくな――――いっ!?」


 その瞬間、俺は突然沙由良から顔を引き寄せられ――――キスされた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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