第82話 失敗フラグが成立した気がする
雪の一件があってから俺は「お前らも遊んで来い」と姫島達を他所へ向かわせていく。
相変わらずマッサージチェアに揺られながらのんびりしていると隣に霧江ちゃんがやってきた。
「やぁやぁお兄さん、随分とおモテのようで」
「俺は影山学だ。是非とも学お兄ちゃんと呼んでくれ。
ともあれ、モテているのは俺よりもそちらの幼馴染さんだと思うけどな」
「ま、確かにね」
俺の言葉に霧江ちゃんは光輝の方を見ながらそう返答してきた。
現在光輝達は絶賛盛り上がり中で、光輝と結弦、乾さんと生野とでエアホッケしてる。
ほぅ、ラブコメも楽しいが、若干はだけた浴衣に目が吸い寄せられるのは男として仕方ないよな。
「あいつ、俺が女子との縁を求めてるのを知っていながらそばであんな風に女子に囲まれて楽しんじゃってるんだぜ?」
という設定だ。
「だけど、学お兄ちゃんも随分な感じだったけど」
お、まさか本当に呼んでくれるとは。
ただのお調子者の戯言のような感じだったんだが......これはこれでなんか問題ありそうだな。
「あれは単に俺をからかって楽しんでるだけだよ。
あ、あとやっぱ普通に呼びやすいように呼んでくれ。なんかむず痒い」
「わかった! じゃあ、学さんでどうかな?」
「いいね、一気にフレンドリーになった感じで」
霧江ちゃんというキャラ自体が随分と友好的な人物でこちらとしても大助かりだ。
これだけ友好的なら少し踏み込んでも問題ないだろう。
「霧江ちゃんは光輝とは当時は結構仲良かった感じなのか」
「まあね、わがままなあたしに付き合ってどこまでも遊んでくれたから。
あんな優しいこう君があれだけモテるのはある意味自然な事かもね」
「だったら、多少は気まずいんじゃないか? 今の状況というのは?」
そう言うと光輝へと向けていた視線を俺へと向けてきた。
その目は僅かに驚いたように見開ている。
そして、すぐに観念したのか若干不格好な笑顔で告げてくる。
「あ、わかっちゃった?」
「随分と白状が早いのな」
「別に学さんに言った所ですぐに私達の関係がどうにかするわけじゃないし、それに光輝は今乾さんと付き合ってるって話だし」
霧江ちゃんはそう言いながらも光輝に変わらず熱いまなざしを送っている。火を見るよりも明らかな横恋慕。
確かに俺が出来ることはあくまで光輝との接触回数を増やすことで、それによって起こるイベントはあくまで光輝次第だ。
だけど、どうやらこの子に関しては俺の手伝いすら必要ないぐらい諦めの悪い目をしている。
恐らく、この子は自分の気持ちにどこまでも真っ直ぐなのだろう。
そして、こういう人物は正しくラブコメ世界においては欠かせない重要キャラの一人。ま、ヒロインだから当然だよな。
だから、もしこの世界にラブコメ神でもいるのなら、この子はまず間違いなく再び光輝の近くへとやってくるだろう。それはもはや確信に近い。
俺はもうとっくに止まっているマッサージチェアから降りるとそのまま娯楽施設を出ていった。
特に理由はない。ただまだ僅かに夕食まで時間があるので、未だ火照っている体を夜風で冷やしたかったのかもしれない。
娯楽施設兼温泉がある場所は本館の方から僅かに離れているのか、その間には屋根のある通り道がある。
その通り道の横には丁寧に手入れされた庭園が広がっていて、新緑が夕陽に染まって紅葉のように紅く染まっていた。
夏の夜と呼ぶにはまだ陽が出ている時間だが......もはやそう考えるのは野暮であろう。後で夜の海とか行ってみるかな。
「う~~~~~~ん、かはーっ! ほぐれた体で思いっきり伸びをすると気持ちいぃ――――」
「沙由良んアタックー!」
「がはっ!」
背中から中々に強い衝撃が。
その衝撃のほとんどが腰に集まって今ちょっとだけグキッて音がした気がする。
ズレてないよね? 俺の腰。
「どうですか? 一撃必中必殺の沙由良んアタックの威力は? 付属効果として相手をメロメロにします」
「十分な威力だったよ! っていうか、メロメロじゃなくてイライラじゃない? っていうか、まず謝ろうか!」
「いいえ、この沙由良んアタックは頭の悪い人にしか効かないはずなので、つまりはそういうことです」
「つまりはどういうこと? 遠回しにバカにしてるよな?」
相変わらずマイペースが過ぎる沙由良に思わずため息を吐きながら、痛めた腰を擦っていく。
すると、沙由良が近づいてきてそっと腰に手を当ててくる。
「誰にやられたんですか? まさか敵に? 今さ沙由良んエンジェルパワーで癒してあげます」
「なんてあからさまで酷いマッチポンプだ」
「これで学兄さんのボッチという心の傷は癒えました」
「治したの腰じゃないんかい」
さすがの沙由良ワールドだな。
全くこっちの主導権が握れねぇ。
さすがにマイペースが過ぎると思うが。
「で、沙由良は俺に何の用だよ」
「たまたま学兄さんが娯楽施設から抜け出すのを見まして、沙由良んセンサーが『ボッチ、孤独死、危険』と反応しましたのではせ参じた次第です」
なんて余計なお世話が過ぎる行動なんだ......!
「どんだけ俺が弱い人間だと思ってんだよ。俺はむしろ一人の方が好きな人間だぞ?」
「そうなのですか? ということは、一人が好きなのにわざわざ大勢と関わっていくことに悦を浸るドM――――」
「全国にいるボッチに謝れ。勇気を出して関わってる奴もいるんだ。それにそのドMは特殊過ぎるだろ」
「さすが沙由良んハートに刺さるツッコミをお持ちで。やりますね、それこそ我がライバル」
「お前はキャラがブレブレで掴みどころがなさすぎる.......」
今日も今日とて沙由良は沙由良んらしい。
っていうか、こいつはこいつでしっかり光輝にアピールしているのだろうか。
「そういえば――――」
「そういえば、お風呂の件は学兄さんの仕業ですよね?」
質問しようとしたところで逆に質問されてしまった。
ま、こいつには当然分かることだったか。
「そりゃな、光輝が女子に振り回されてるのを見るのは気分がいい」
ラブコメ的な意味で。
それに対し、相変わらず目の多少の開きすら変えずに、まるで驚いたかのような仕草を取る沙由良は告げてきた。
「まぁ、なんと学兄さんはSっ気でしたか。ふむ、むしろいいと言いますかアリですね」
「何がアリなんだよ」
「次回作の同人誌のネタとして。やはり元となる人がいると行動や発言にもリアリティが違いますからね」
え、次の作品に俺がヤリメンズとして登場すんの?
「学兄さんはそこまで気にしなくてもいいですよ。あくまでこっちのことですから」
「自分がモデルとなるかもしれないなんて聞けば反応するわ!
まぁ、それでもファンであることは変わらないけど」
「それでこそ学兄さんです。アイラブユーを送ります」
「はいはいどうも」
「むぅ、なんですかそのおざなりな態度は」
「言う相手が違うだろが」
「......またそれですか。ならば、長期戦となる前に早めに関係性を整理しなければいけませんね」
「やれやれ、仕方ない人だ」みたいなジェスチャーを無表情でやっていることに多大なる違和感を感じつつも、あえてその言葉に対しての返答をスルーした。
どうにも嫌な予感......最近天気予報並みに高確率で当たる俺の勘が多大なる警鐘を鳴らしているからであったからだ。
そんな俺に対し、沙由良は一言。
「では、夕食後の時にでも海で話をしましょう。そっちの方がムード値も高いですからね」
それだけ告げると沙由良はふらっと皆の所へ戻っていった。
どうにもこれは失敗の予感しかしないのはきっと気のせいではないのだろう。
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