第81話 新たなヒロイン
「いや~、気持ちよかったな~」
「途中お前のせいで僕が怒られるフラグが成立したんだけどな」
「ま、美少女に怒られるんだからもはや役得じゃねぇか」
「くっ、この屈託のない笑顔を殴りたい」
と言いつつ、拳をグッと握りしめるだけで留まる光輝。
さすが美少女三人に囲まれても鉄の理性を誇っているだけのことはある。
俺だったらワンチャン一発殴ってたかもしれないからな。
そんな俺達は現在風呂上りで通路を移動中。
夕食まで軽く時間があるので、近くの娯楽施設に寄ってみることにしたのだ。
そんな時、背後から謎の少女の声が響いてくる。
「おーい、こう君ー!」
振り返ってみるとその少女は海の時に一度見かけた褐色少女であった。
ボーイッシュな黒髪に笑顔な口元から八重歯がチラリと顔を覗かせている。
そんな少女は俺の存在に気付くと俺達の近くでピタッと止まって挨拶してきた。
「こう君のお友達ですね! 私【流川 霧江】って言います! ちなみに一個下の幼馴染です!」
おさな.....第二? いや、第一? どっちだ?
「光輝、説明プリーズ」
現状で俺の情報はゼロなのですぐさま光輝にこの子の詳細を尋ねる。
すると、光輝は簡単に教えてくれた。
「霧ちゃんは昔小さい頃に僕の家で遊んでいた子なんだ。結弦より前のことかな。
といっても、僕達も再開したのはさっきぶりで霧ちゃんが女の子だとは思わなかった」
「まぁ、それは正直仕方ないと思うね。でも、あたし的にもこう君はお兄ちゃんというより友達のこう君って印象の方が強いから別にいいんだけど」
「ほう......なるほどな」
光輝の野郎、一体どんな人生していればそんな女の子と仲良くする機会が出来んだよ。
確かに情報屋としての俺の方が知り合いの女子の数は多いが......それが儚いマウント取りと思えるほどに光輝の奴は勝手にホイホイと引き寄せていくじゃねぇか。
ま、それが主人公たる資質であると思うけどな。
だからこそ、これからとても面白くなるとも言えるのだが。
「そうだ! これから娯楽施設で少し遊んでいくんだけど、一緒に遊ばない?」
こんなチャンスを逃すわけにはいかない。この子の内情を読み取らなければ。
そう思っていると俺の言葉は光輝に阻止された。
「ダメだって。霧ちゃんは今働いてるんだから」
「働いてる? ってまさかこの旅館って......」
「霧ちゃんの家兼旅館だよ。で、霧ちゃんはこの旅館の若女将」
「どうだ凄いだろ!」
そう言って霧江ちゃん(と呼ばせてもらおう)は輝かしい八重歯をチラ見せしながらブイサイン。
どうにも言動がサバサバした様子だが、これはこれで新キャラなので問題なし。
とはいえ、この流れだと俺の内情聴取の時間がないままになってしまう。
ここは俺らしく強引に行かせてもらう!
「え~~~、一緒に遊ぼうぜ~~~? せっかくの褐色美少女と出会えたチャンスを逃したくない!」
「ごめん、こういう奴なんだ。許してやってくれ」
「ははは、別に問題ないよ。それに丁度休憩時間だし、いいよ遊ぼう!」
「(内情聴取チャンス)やったぜ!」
それから俺達は娯楽施設にやってきた。
そこには定番の卓球台や対戦できるアーケードゲーム、UFOキャッチャーと十分に楽しめそうな場所であった。
こういう場合、いきなり相手の腹を探ろうとするのはご法度だ。
失敗するリスクが高いし、何より知らん相手に心を土足で踏み込まれたくないだろう。
たったさっき俺という存在は霧江ちゃんにとって光輝の友達と認識された。
だけど恐らく、霧江ちゃんの視界からすればただの友人Aとしか思われてないだろう。
だから、まずは普通に話せるための環境づくりを行う必要がある。
そのために必要なことは――――全力で楽しむこと!
「光輝、風呂上がりでまた汗はかきたくないだろ?
だから、お前との勝負はこのアーケードゲームでしようと思う」
「いいよ。昔もさんざんやったしね」
「腕は鈍っちゃいないよな?」
「どうだろうね。ただ負ける気はしないな」
俺の視線が光輝の視線と合いまるでバチバチと火花を散らしているみたいだ。
少なからず、光輝の闘志によって俺はそう見える。
でまぁ、実際アーケードゲームの腕なんてあまり関係ない。
こういう勝負で本気で遊ぶ、それが相手の心を一番柔らかくするのに手っ取り早い。
誰だって一緒に遊んでいる相手が楽しそうにやっていれば、よっぽどのことがない限りその相手の感情を疑うことはない。
警戒するというのは相手を知らないが故の防衛本能。
となれば、俺というバカをここで思う存分知ってもらおうではないか。
そして、俺と光輝は勝負を始めた。それは白熱した。
互いに相手の読み合いをしながら時には必殺技を叫びながら。
気が付けばそのまま十五分が過ぎていたので、俺はやりたそうにウズウズしていた霧江ちゃんと代わってその様子をマッサージチェアに体を揺さぶられながら観察。
あわわわわわ、気持ちええぇぇぇ~~~~。
そんな時間を過ごしていたら女子チームの声が聞こえてきた。
しかし、完全にアウトオブ眼中なので目にくれる必要もなし――――む、突然目が真っ暗に。
「どこの誰の沙由良の手でしょう」
「俺が知っている沙由良は一人しかいないはずだが」
両手で目が塞がれている......のだが、あれ? 沙由良の手ってこんな小さかったっけ?
目の周りから感じる違和感を確かめるようにその手に重ねてみた。
するとその手から一瞬ビクッとした反応を感じた。
この小さい手に短い指先......ふむふむ、なるほどな。
重ねている手の指の柔らかさを確かめてみるように軽く圧をかけて見たり、長さを測るように沿わしてみたり。
「学兄さん、手つきがやらしいですね」
お前じゃねぇだろ、この手。
とはいえ、確かに女子の手を不用心に触りすぎた。
そう思って手を放そうとすると俺の手が誰かの手によって押し付けられるように重ねられた。
そしてすぐにまた新たな手が加わったような圧力を感じる。
おい、なんだこれは!? 目が潰れる!
「何やってんのよ?」
「......俺が聞きたい」
どこか冷めたようにも聞こえる生野の声がした。
どうなっているのかは正直理解しがたいが、恐らく俺の目の上には俺の手を含めて四つの手が重なっている......うん、ほんと理解しがたい。
「学兄さんのために難易度上げてみました」
「余計に重なってる分、むしろ難易度下がってんだよ。
俺にこんなことできるのは姫島、雪、沙由良の三人だけだろうが」
っていうか、沙由良は何ナチュラルにこっちに混ざってるわけ?
知らないのか? 「変態混ぜるな危険」って言葉。
「ではでは、一番最初に学兄さんの手に触れたのは?」
「雪だろ? 手の大きさでわかる」
その瞬間、目の圧力が一気に解放された。
目を開けてみるとすごいスッキリ。
風呂上がりのせいか雪の手が熱くてなんかホットアイマスクやったみたいになってんなこれ。
「で、どうせ正解だろ?」
そう思ってマッサージチェアの後ろを見てみると顔や耳、手とそれはそれは真っ赤に染めた雪の姿がそこにはあった。
雪も脳内がオーバーヒートしているんか、口をパクパクさせて目は遠くを見ながら放心状態だ。
そんな表情をしているのは恐らく風呂でのぼせたとかそんなことではなく、恐らく俺の変な触り方がよろしくなかったと思われる。
そんな時ふと雪の脳内はこういう時どうなってるのか気になった。
雪は基本ドエロな妄想癖があるが、こういう脳処理が追い付かなかった時というのは一体何を考えてるのかと。
「雪、一つ自分の脳内に起こっている事象を言葉にして見て」
「影山さんが......〇〇〇して×××のピ――――でズガガガからのバキューンバキューンを◇◇◇で――――」
「OK、全てを理解した。今すぐ口を閉じてくれ。お願いだから」
聞くべきじゃないなこれ。
幸いだったのが雪のことを知っている連中だけがその絶え間ない淫語を聞いたことだが、雪が回復して以降しばらく誰も雪とは目が合わせられなかった。
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