第80話 これこそラブコメ支配人の見せる技!
「お~ここが旅館か。でかいな~」
思わず声が出てしまうほどに見上げる正面にはそれは立派な旅館が。
今からここに二泊三日と考えると純粋にテンションが上がってくる。
俺の言葉に負けず劣らずで全員が各々の言葉を口から漏らしていく。まぁ、そりゃそうなるわな。
高校生だけでこういう旅館に泊まれるとは正しくラブコメ様様の光輝様様だよな。
俺達は中に入っていくと女将さんに案内されて俺と光輝は男子二人の部屋で、女子は乾さん、結弦、生野の三人組、それから姫島、雪、沙由良、沙夜の四人組で分かれたらしい。
俺は光輝と二人っきりで抱えていた荷物を下ろしながら話しかける。
「なんだかこうして二人って時間も久々だな」
「そうか?」
「そりゃお前、乾さんに結弦に生野さんと侍らしておいてよく言うぜ」
「別に僕は侍らせたつもりは......そういう学こそ姫島さんや音無さん、それに最近だと沙由良とも仲いいじゃないか」
光輝からの言葉を耳で捉えながら歩きつかれた足を癒すように座椅子に座っていく。
ま、そんな言葉が返ってくるだろうことは大方予想できてたよ。
「そりゃ俺だって光輝の学園ハーレムにかこつけて女子と親しくなりたいではないか。
ま、お前の妹に関してはわからないが、姫島さんと音無さんの二人に関してはどうにもお前さんの恋愛の方がご執心らしい」
「そうかな......? そんな風に見えないけど」
そんな風に見えないって、俺は一体姫島と雪との絡みに関してどんな風に言われているのか非常に問いただしたいところだ。
しかし、そんなことを聞いてしまえばまるで俺がその言葉を意識してるみたいで余計な拗らせを生む可能性が否定できない。
俺はあくまで影であり、俺の影響で光輝に余計な波風を立ててはいけない。
つまりここでする選択は良い感じにはぐらかし、別の話題へと移行すること。
「気のせいだって。もしかしたら、俺が女子様と仲良くしたい気持ちが強く出ちゃってるだけかもな。
それはそうと、もう夕方だし皆で夕食を食べる前に風呂入らね?」
「いいね。そうしようか」
上手く誘導に乗ってくれたみたいで何よりだ。ふぅ、良かった。
とはいえ、光輝にこういう印象を持たれるということは少なからず目に付く範囲でそう思われる行動を俺がしてしまってるということだ。
恐らく、いやほぼ確実に原因はあいつらにあるのだが......まぁ、心の中でもさすがに悪く言わなくていいか。
俺と光輝は互いに予め用意されていた浴衣やバスタオルを持って旅館にある温泉へと向かっていく。
そして、俺達は脱衣所で真っ裸になって温泉に浸かった。ふぇぇぇぇ、きもちぇぇぇぇぇ~~~~。
「身も心も溶けるぅ。全身がほぐれるぅ」
「はぁ~、温泉って最高だよね」
互いの声がほぐれている。なんだか脳死状態でしゃべってるみたいだ。
「海も楽しかったし、温泉も入れてまさに光輝様のおかげだよな」
「あれ? 学って沙夜ちゃんのために自腹切ったんじゃなかったっけ?」
「この思い出に比べればそんなもんプライスレスさ☆」
キラーンとでもSEが入るようなサムズアップからの歯見せ笑顔をしていく。
本音を言えば、かなり痛かった。今月買うはずだったギャルゲを諦めたし。
しかし、これも全ては我がソウルメイトにして至高なる友である光輝のため。
俺を斜に構えたガキから救い出してくれたお前への恩はこれからも継続だぜ!
「――――あ~~~、気持ちいい~」
「全身が溶けるようね」
「なんでもこの温泉は美肌効果があるらしいよ」
「ならば、潜るのが最適解ですね」
「私がいる限りそんなことはさせないわよ」
そんなこんなしていると声が聞こえてきた。
順に声は乾さん、姫島、結弦、沙由良、生野である。恐らく雪と沙夜もいるだろう。
ま、男湯入るその隣は女湯だったし、竹でできた壁で隔ててるだけだから聞こえてくるのは偶然か。
......いや、俺達が入るこのタイミングで丁度女子が大集合するのは偶然か?
確かにいくらシャワーで海水を落としたとはいえ髪についた潮をちゃんとキレイに落としたいってのもあるし、夕食を済ませる前に入りたい時間帯でもある。
だが、偶然というだけで片付けるには他に誰も一般客の声がしない(男湯にもいない)というのは出来過ぎている。
故に、俺はこれは必然であると捉えた。ならば、ラブコメ支配人いざ参る!
「......光輝、今聞こえたよな?」
「ん~~~~? 何がぁ~~~~~?」
「女子様達の声だよ」
そう言うと溶けていた光輝の脳が急激に目を覚ました。
「......はっ、まさか!」
「そう、そのまさかだ」
「覗きか!」「盗み聞きだ!」
ん~~~~微妙に惜しい。
「さすがの俺でも覗きはしないって。人様の彼女の裸を見たら殴られそうだし」
「倫理的にも殴られるよ」
「でもでも~、壁越しに響いてくる会話をたまたま聞こえてしまったならセーフだよね。
まぁ、どこぞのおぼっちゃんはどうにも自分の彼女や幼馴染、ギャル娘の裸が見られると思ってしまったわけだけど」
「そ、それは......」
「まぁまぁ、仕方ないと思うよ。男としての欲望だもの。
だけど、そのワードがすぐに出るということは少なからずそう想像してしまったわけでありますよなぁ?」
「ぐむぅ~~~~~~っ!」
おほほほ、なんとも可愛らしく顔を赤らめて唸るではありませぬか。
いや~、たまには光輝も弄らないとね。あー反応が新鮮で楽しっ!
にしても、この言葉の誘導が上手く引っかかってくれてよかったな。
ま、光輝が「覗き」と口に出すかは半分賭けだったけどその賭けに勝つ。これこそラブコメ支配人。
そしてまたまだ続くよマイターン。あははははは~。
「それではいざゆかん花園へ!」
「あ、ちょ待て!」
俺は軽快なステップで温泉からあがり女湯の壁へと近づいていく。
そして、その場で耳をそばだてる。
だが、俺の目的は本当に女子の会話を聞くためじゃない。
その行動を止めようとする光輝にある。
「さてさて~どんな会話を――――おっ!?」
「こらこら待て待て待て! いくら親友とてその行動はダメだ!
だからこそ、僕は親友としてお前を止めなきゃいけない!」
「そこまで親友と言われると照れるな。だが、断る! 時には男たるもの親友より選ばなければいけない時がある!」
「そんなカッコつけた風に言うんじゃないよ!」
「あ、こら羽交い絞めにすんじゃねぇ! わかってんだからな!
お前だってホントは聞きたがってること――――いや、覗きたがってることを!」
「だから、違うって言ってんだろ! た、確かに考えはしたけども! でも、やっぱダメだ!」
「ほほぅ『やっぱ』?」
「と、当然ダメだ!」
俺は順調に言葉を重ねていく。その際、俺が言葉を発する度に少しずつ声を大きくしていった。
するとどうだろうか、俺の煽りに触発された光輝は怒りと羞恥心でヒートアップして隣の女湯に十分聞こえる声で話してくれるではないか。
となれば、当然――――誤解が生まれる。
――――ドンッ
壁を叩く音が聞こえた。
そして、聞こえてくる声は恥じらいを持ちながらもどこか冷たい乾さんの声。
「最っ低」
「「ご、ごめんなさい......」」
ミッションコンプリート。これで光輝は女子と話す時やや気まずい空気になる。
しかし、好意を持っている女子からすれば、光輝の発言は十分に女の子としての魅力を感じてる証拠になるので、その空気は甘酸っぱくなる。
その一方で、俺の事情を知ってる連中からすればこれはすぐさま俺が仕掛けたことがわかるはず。つまりは実質俺への被害はゼロ。
というわけで、その甘酸っぱい空気先の未来は光輝が紡ぐストーリー。
俺は後ろから残った空気を美味しくいただきますよ。
その時、自分の目的が成功していた俺は油断していた。その数時間後に訪れる悪夢を。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')