第79話 まさか.......な
「旅館と言えば浴衣よね。やっぱり湯上りってだいぶ印象変わるのかしら?」
「後、浴衣のまま卓球をやってはだけるっていうチラリズムも生まれますし、浴衣攻めは大分強いかと思います」
「チラリズムってあんたらね......でも、よく聞く話じゃお風呂上りのニオイにドキッとするらしいし、案外悪くなんじゃない?」
「そこら辺どう思うかしら?」「そこら辺どう思いますか?」「そこら辺どう思うのよ?」
「いや、そんなこと聞かれても......」
海水浴が終わり、夕暮れよりちょい早い時間帯に俺達は旅館へ向かっていた。
というのも、今回で海に誘ったのは俺だが、丁度光輝達から福引で当たった旅行券を使おうという話題が出たのだ。
しかもその旅行券というのが光輝と乾さんがデート中に当てたものらしくて、二等の2名様に配られる旅行券を連続で引き当てたらしい。
一枚の旅行券につき最大で4名まで呼べるとのことで、二枚使って8名。
ただまぁ、俺達の人数は9名なので俺は自腹だぜ(泣き)。
とまぁ、そんなわけで今はまさにその旅館に向かってるわけだが......姫島に雪、加えて生野までそんな返答しづらい質問をするんじゃないよ。
「あら、ラブコメの支配人さんなら簡単に答えられると思ったけれど、まさか支配人あろうものがそんなものもわからないとは言わないわよね?」
「煽りスキルが上がったもんだな姫島ぁ」
まるで主導権を握っているかのような不敵な笑みがムカつく。
すぐ近くに光輝達の姿があるが......案内のために少し前を先行してるから普通に話す分には聞こえないか。
沙夜&沙由良も二人の話題で盛り上がってる様子だし、はぁ。
「ま、確かに普段知らないって案外効いたりするかもな」
「と言いますと?」
雪が深掘りしてきた。もぅ、そんなことしなくていいの!
「なんというか印象を変えるっていうか......そもそも自分の同級生の異性が風呂上りなんてシチュエーションが未知の領域だ。
だから、その未知に触れた瞬間は誰であろうと動揺するだろうな。
故に、その動揺の隙を突けば一気に好感度は上がりやすいはず」
「へ、へぇ~、そうなんだ......」
「あくまで俺個人の意見だから鵜呑みにはするなよ」
俺の言葉を聞いて生野が明後日の方向を向きながら気にしないふりをしながら、がっつり気にしてるようにこちらをチラチラ見てくる。
いや、お前は気にして良いんだよ。相手は鈍感王の光輝なんだからな。
ま、それをどう活かすかは当然お前次第だけど。
「つまりは私達がやる分にはワンチャン影山君に効果があると」
「そして、それにドキッとした影山さんとふいに二人きりになり」
「あれよあれよとひと夏のアバンチュールを迎えると」
「だけど、リビドーはそれだけに収まらずたまたま目撃してしまった子も巻き込まれ.....あわわわわ3ピ―――」
「ねぇ、あんたら近くに本人居る状況でよくそこまで妄想できるわね」
「俺の居たたまれなさを考えてくれ」
っていうか、雪の妄想って妙に多人数プレイ多くない?
え、もしかして雪って多人数希望? それをリアルで求めてるとしたらかなりヤバいぞ。
にしても、こいつらはもはやいつでもどこでも正常運転だな。
さすがに光輝達が近くにいるんだからよしてくれ。
そして、すぐそばの海岸から見える茜色の海を見てその腐ったドピンク脳内を浄化しろ。
「そんなこと言って本当は莉乃ちゃんも考えたんじゃないの?」
「え?」
「安心してください。考えることは悪い事ではありません。爛です」
「なんか妙な意味ついてない?」
「奇遇だな。邪な匂いがしたぞ」
雪が清々しいほどに良い笑顔をしている。
だけど、絶対あれは変態側の思考をしてるに違いない。
なんだろう......最近雪がおかしな方向に進み始めてる気がする。
前はあんなに妄想が少し過激なだけの恥じらいを持った女の子だったのに......今や平然と口にできるまで堕ちているよ。ま、あくまで身内ネタみたいな感じだけども。
ともあれ、俺は雪の男子代表の話し相手としてこれから雪が必ず関わっていくだろう異性に対して、その性癖が爆発しないか今から心配だ。
「で、したでしょ?」
「まだ続ける気?」
「大丈夫です。こちら側どんな答えでも受け止めます。ありのままを見せてください――――文字通りの」
「雪ちゃんがそっち側に堕ちて欲しくなかったわ......!」
うんうん、わかるぞその気持ち。生野も苦労してるんだな存外。しばらく優しくしてあげよう。
ともあれ、結局二人の顔面圧力に屈した生野は俺の方をチラ見しながら雪に耳打ちしていく。
さすがの俺でも内容までは聞き取れなかった。
しかし、雪が非常に満足げな表情からある程度のことを察したが......それ以上は嫌な感じがして考えないことにした。
さすがにこうもインモラルな話が続くと胸焼けするので俺が話題提供。
その話題として出したのは沙由良のことだ。
「そう言えば、沙由良とはもう仲良くなったんだな」
「沙由良ちゃん? 正直、あそこまで話が合うとは思わなかったわ。逆に言えば、光輝君とは正反対ともいえる人物ね」
「雪はどうだった?」
「とても話が合って今度二人で合う約束までしちゃいました。
なんでも目標は漫画家兼イラストレーターになりたいみたいですから、私がもし小説家になったら挿絵してくれるそうです」
「雪の夢って小説家だったのか?」
「そういえば言ってませんでしたね」
へぇ~、雪の夢が小説家か......ま、予想しようと思えば出来なくはなかったな。本の虫だし、妄想は好きみたいだし。
その雪が沙由良と仲良くなる、か。
もしかしたら、将来生まれる大物タッグのまさしく仲良くなる瞬間を目撃してしまったのかもしれないな。
もはやこの場合どちらの単語にも「エロ」という隠しワードが付くが......この場合においてはさしたる問題でもなかろう。
「となると、雪はもう試しに書いたりしてるのか?」
「そ、それは......その......はい」
そんな恥ずかしそうに告げる雪に生野がそっと肩に触れながら告げた。
「隠すことないじゃない。ここではありのままを受け止めてくれるんでしょ? さっき自分で言ってたじゃない」
「そ、そうですよね。確かに書いたりしてます。
ただまぁ、メンタルが豆腐なので自己満足で終わってますが」
ま、そんなことだろうと思った。
ただそういうのは実行しなければ何も始まらない。
結局、この世界は行動することでゼロからイチになるしな。
「今時じゃネット小説でもそういう投稿できる場所があるから安心しろ。
んで、そういうのは最初は自己満足でいいんだ。少しずつ読者に寄り添っていけばいい。
別にいきなりガッツガツにテッペン取ろうってわけじゃないんだろ?」
「はい。まだ試し書き段階なので」
「なら、まずはその話をどこまで続けられるか試してみればいい。
考えたものを書き出すという最初の大きな一歩が踏み出せたんだ。
今度必要なのは根気だ。まずはその自分に足りないものを身につけてから考えればいい」
「......わかりました。頑張ってみます!」
雪の瞳に炎が宿ったのか少しだけ鼻息を荒くして両手でガッツポーズをしている。
何ともわかりやすい。その純粋な気持ちが雪の魅力的な部分か......ってなんか言っててキモいな俺。
「にしても、まさか最初はインモラルなから話題から始まったこの話が影山君の話題チェンジがあったとはいえ、こんな良い話に収まるとわね」
「全くよ。っていうか、そのインモラルはひめっちが原因でしょ」
「なんのことかしら。記憶にございません」
「白々しいわね、もぅ」
と言いつつも、生野も姫島の扱いに慣れているのか深くは捉えていないらしい。
それでいいぞ生野。姫島は適当に扱うのが一番だ。
にしても、確かになんだか良い話風に終わったな......割とどうでもいい話題から始まったのに。
ま、なんであれこれが俺と俺の周囲のペースってわけか。ははっ、ほんとふざけた連中。
......あれ、もしかしてこの状況俺楽しんでる?
読んでくださりありがとうございます(*'▽')