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第76話 プロデュースは大事な役目

 朝早めから海にやって来ていて、もうお昼時。

 そんな俺達は全員でジャンケンをしていた。

 その結果、やはりと言うべきか光輝がまず買い出しとして決定し、その後に沙由良が決まった。


 当然ながら、ジャンケンの結果は天の采配。

 つまりはラブコメの神がしっかりとこの運命の流れを理解していたということだ。


 そんで俺はというと一時的なハーレム状態......となったわけだが、まぁ今更どうこうする仲でもないし、姫島と雪は少なからず近くに乾さんや結弦がいる状況では何もしてこない。


 とはいえ、その環境は周りからの視線が辛いので、俺は少し歩いた先にある岩の裏へと避難していった。


「ふぅー、順調順調」


 そう言葉を吐き出す。

 しかし、順調な流れのわりには随分と胸にしこりのようなものが残ってる気がする。

 ......いや、認めるべきか。十数分前に言われた沙由良の言葉が妙に引っかかってるのだ。


「俺の思い込みは失敗する、か」


 沙由良は何を思ってそう言ったのかはわからない。

 しかし、何の根拠もなく言うようなタイプじゃないのは確かだ。

 つまりは俺の言動からそう感じてそう言葉を告げてきた。


 そして、あの状況だと正しく俺が沙由良に対して自分の都合のいい思い込みをしているということになる。


 言葉にされてもあまりピンと来ないのは、沙由良が単に間違ったことを言っているだけなのか、それとも俺自身を騙すほどの思い込みなのか。


 だがもし、後者が本当だとすれば、それはある種の真実と言えるのではなかろうか。

 ま、それは単にそう信じてるってのと何も変わりはしないが。


「はぁ~~~~~~」


 心の浮き沈みが激しい。

 俺は光輝のラブコメ計画の他では純粋に海を楽しみに来たってのもあるのに。

 このままじゃせっかくの今しかない時間を無駄にしかねないな。


「いたいた。そんなとこでため息吐いてどうしたのさ」


「生野......」


 岩の出っ張りに座る俺に対し、生野が正面に立った。

 相変わらずモデルみたいな容姿......って生野を見るたびに言ってないかこれ?


「どうした?」


「どうしたって陽神兄妹が全員分のお昼買ってきたからあんたを探してたんだけど」


「そうか。わかった、ありがと――――おぅっ!?」


 そう立ち上がろうとすると突然生野に両肩を手で押し返された。

 その反動で再び岩に座るとその横に生野が座る。


「なんだよ」


「なんだろうね、少し話がしたくてさ。

 あんたのやりたいことわかるけど、少しは付き合ってくれてもいいんじゃない?

 ヒロインのメンタルケアとして」


 そう言って生野は自然な笑みを浮かべた。

 その優しく向けられた眼差しは何か別の感情がある気がする。


「だったら、姫島か雪に頼めばいいだろ」


「あたしの担当はあんたでしょ? よろしくするのは当然じゃない? プロデューサー」


「......わかった。俺は何に付き合えばいい?」


「あんたの話」


 僅かに目を見開いてしまった。

 相変わらず光輝を見ている目とは違うその視線は、まるで先ほどの沙由良と同じように心が見透かされてるようでざわつく。


「お前が俺をプロデューサーというならそれは俺個人の問題だ。

 モデルのお前は気にせず自分の魅力を存分に振るえばいい」


「だけど、あたしってば自分で言うのもなんだけど結構無知でね。

 どうやらプロデューサーなしじゃどう動いていけばいいのかもわからないみたい。

 いわばプロデューサー(あんた)はあたしの大切な後ろ盾とも言うべき存在。

 そんなあんたが不調だったら満足に振舞うこともできないわよ」


「少しは自立して欲しいものだが」


「嫌だね。あたしってばわがままだから。あんたを使い潰すまで離れる気ないわよ」


「そりゃ、困りもんだな」


 生野は変わった。僅かながら随分と前向きで明るくなった気がする。

 林間学校の時なんかは盛大なヘタレを見せたが、幸か不幸かもともと明るい方であったがさらに輝きを増した。


 どんどんと周りが光り輝いていく。

 その姿を見るたびに自分が影であると思わされる。

 だからかもしれない。

 自分が影であると自覚しているからこそ周りを輝かせてそれで悦に浸っているのは。


 まさに影役者の鑑と言えよう。

 だが、それは同時に俺の周りがいるステージには上がれないという証拠。

 俺という存在はあくまでモブであり、黒子であり、裏方なのだ。


 だから、さっきの生野の言葉には妙な胸にストンと落ちる感覚があった。

 主役になれない俺はあくまで枠外で十分なのだ。


「あたしが思うに、あたしって言うのはあたしだけじゃ輝けないと思う」


「何だ突然?」


「今のあたしの話よ」


 そう言って生野は言葉を重ねていく。

 波が押し寄せるたびに聞こえる音をBGMとしながら。


「あたしはさ、今のあたしが本当に好きかもしれない。

 考えてみれば、確かに昔のあたしの考えは随分と性悪だった気がするし、悪女ってあんたに言われたのも割に腑に落ちる」


「何が言いたいんだ?」


「単純なこと。私は昔の私より遥かに今の私が好きになった。

 だけど、それは決して私が一人で自己完結して出来た結果じゃない。

 ずっとそばにプロデューサーがいてくれたからよ」


 足首まで浸った海水が温く感じる。

 太陽によって温められたせいだろう。


「昔どっかで聞いた『人という字は二人の人間が支え合ってる』ってのは案外的を得てるかも」


「俺はどうにもその解釈には懐疑的だな。

 人が二本足で立派に立ってるっていう方が俺は好きだ。ちゃんと自立してる感じがするだろ」


「それはなんか卑屈でしょ。いいの、あたしの方で!

 そうすれば、今のあたしとあんたの関係性がしっくりするから」


 生野はそう言うと岩の出っ張りに両足をのっけて三角座りの状態になった。なんとも器用な。

 そんな姿を見ながら変わらない態度で返答していく。


「なんだ? 俺と生野で一人の人間だって言いたいのか?」


「うん、そうだよ」


 小豆を転がしたような波の音が聞こえなくなった。

 いや、聞こえてたのに意識だけ外したと言うべきか。

 両膝に頬をのっけた横顔から来る上目遣いはまさに童貞殺し(ギャルパワー)と言うべきものだ。


 まるで勘違いさせそうなその言い回しはさすがギャルなのだろう。

 ふぅ、俺じゃなかったらやられちゃうね。

 俺は先に立ち上がると歩きながら告げていく。


「くだらんことは言ってないでさっさと皆のとこ行くぞ。

 それにそういうセリフは然るべき時に然るべき相手に向けて言うものだ」


「......そうだよね。ちょっと言う練習してみたかっただけだから」


 気丈に振舞うような生野の声が背中から聞こえてくる。

 だが、その声はどこかハリがなかったような気がした。


 そして、俺が岩場から抜けようとすると生野が走って追いかけてきて、その横に並んだ。

 ふと横を見ればどういう意志の表れかわからないがその手には拳が作られている。


「あたし、もうヘタレないから。さっきのなし」


「はいはい、頑張れよ。俺はプロデューサーとして出来る限りの支援はしてやるよ。

 ま、お前にはもう俺の計画はバレてるし、言っておくと光輝の妹の沙由良も第4ヒロインとして扱おうと計画してるから」


「......え?」


 その言葉に生野が僅かにそう反応して、立ち止まったのか俺の横の視界から消えていく。

 ふと気になって振り返ってみると顔を俯かせて拳を震わせる生野の姿があった。


 まぁ、気持ちはわかる。ただでさえ、ライバルが二人もいるのにさらに三人目の登場は実に堪えるだろうな。だが、それこそラブコメのヒロイン―――――


「バカああああぁぁぁぁ!」


「デュグフッ!」


 いつの日かのトリプルアクセルを決めたのであった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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