第69話 意味深な会話だけ残すな
テーブルの上に置いたパソコンのキーボードが押された音が鳴り響く。
それほどまでに静かというわけではないが、無駄しかしてない前置きが過ぎれば割に真面目に仕事をしていた。
「――――で、よくこの結弦が光輝をチラ見した回数とか憶えてたな。非常に助かると言えば助かるんだが......」
「私の観察眼を侮らないでくれるかしら? こと盗み見るだったら私は負ける気がしないわよ?」
「縁ちゃん、それただの変人にしか聞こえないよ?」
惜しいな雪。姫島は「変人」ではなく「変態」だ。
ともあれ、本当に仕事してくれてるかは正直怪しかったが、ここまでキチンとやっていてくれたとはな。
正直、数値化しやすいし、それでどのぐらいの好感度パラメータが上がってるかわかりやすい。
パソコンの画面に映る乾さんと結弦に関する光輝に対しての好感度パラメータは、50パーセントを基準として乾さんが67パーセント、結弦は83パーセントと言った感じ。
ま、結弦に関しては正直妥当な線だが......乾さんに関してはもう少し変化が欲しいところだな。
姫島が「現状二人の好感度ってどのくらい?」と聞いてきたので、パソコンの向きを変えて見せた。
その間に俺は一旦休憩の伸び~......あー首を左右に曲げるだけでゴキッて音鳴ったよ。
さすがに猫背過ぎるのかな。もう少し胸張ろう。
「意外と乾さんのパラメータって小さいのね」
「結弦さんももう少し高いと思っていました」
「もちろん、それが正確な値とはいえない。
だから、多少の上下変動はあるが......大きくは変わらんだろうな。
乾さんに関しては相変わらず友達としての距離感が大きいし、結弦は相変わらず乾さんに気を遣ってる感じだし」
姫島はテーブルに置かれた冷えた麦茶の入ったコップを手に取ると一口飲み、聞いてきた。
「それってやっぱり結弦ちゃんには(秘密を)バラしてるのが原因じゃない?」
まぁ、それは一理ある。
あの時は結弦の離脱を防ぐためだったとはいえ、今はそれが逆に足かせになってる感じだ。
「結弦が乾さんに対して気を遣ってる」というのは、恐らく光輝と乾さんの“本当”の関係が公になるのを防いでる可能性があるからかもしれない。
ま、単にヘタレなだけかもしれないが。
俺は頭の後ろに手を組みながら疲れたようにソファにぐでっと寄り掛かる。
来た当初はソファに座って作業していたが、どうもやりずらく今は雪に許可を取って床に座りながらソファ自体を背もたれにするように使ってる。
正直、これがテーブルの高さ的にも一番楽に作業できるのだ。
だがまぁ、その影響で俺の両脇に姫島と雪も一緒に座っている状況はいただけないのだが。
距離が近いのを気にして欲しい。
くっ、すげーいい匂いが両方からするっ!
そんな俺の様子を知らない雪はふと聞いてきた。
「そう言えば、この画面からだと莉乃ちゃんのことを書いてないですけど......莉乃ちゃんは評価してないんですか?」
もっともな疑問だな。
生野に関しては......正直絶妙にわからないといった感じだ。
生野は好きな人にはヘタレといった印象だったのだが、林間学校明けから先日会った印象から明らかに光輝と俺に対する反応が変わっているのだ。
まだ夏休みが始まる前の学校の時では随分と慣れたように光輝へ話しかけに行っていたのに、俺に対しては若干固いというか......よそよそしいというか......。
そう思ったら時折馴れ馴れしい時もあるしほんとよくわからん。
それが顕著に表れたのが先日のたまたま生野と会った時であろう。
あいつは光輝に好意を寄せているはずだ。
だから、俺とは友情関係が保たれてる......はず。
あれか? ギャルってのは妙にプライド高い所あるし、俺に助けられたことに対して恥ずかしがったりしてる?
ともあれあの出来事以来、生野が妙に垢抜けた雰囲気になったのは確かだ。光輝に対しても――――俺に対しても。
「生野は乾さんと結弦と出会ってまだ長い日が経ってないからな。情報がまとまり次第こっちが勝手に作っておくから」
ということにしとこう。
ま、なんか生野だけ書いてないと俺が生野に対して変な意識を持ったと思われかねないからな。
しかし、俺がそう言ったにもかかわらず、なぜか疑うような目線を送ってくる二人。
「本当にそうなの?」
「そうって何が?」
「莉乃ちゃんに関しての好感度パラメータを書いてないことですよ。
それに莉乃ちゃんは本当に陽神君が好きなんですか?」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ」
「人聞きは悪くないと思うけど。私達しかいないし」
「ともかく、だ。生野に関しては安心しろって。
お前らが思うような結果にはならないし、なったらなったで俺が困る」
「だといいけど」「だといいですけど」
こいつら全然信用してねぇ......! 俺が生野に特別何かしたか?
したとすれば、それは林間学校ぐらいで、確かに風邪引いた時に会いに来たがそれは生野からのアクションであって俺からではない。
「あーやだやだ、鈍感主人公ってこういうことを言うのね」
「全くです。相手の言葉を信じるのはいいですけど、それを鵜呑みにするのは違うと思います」
「これはあれね、他人が他人へと向けている好意には気づくけども、他人から自分へと向けられるパターンは気づかないやつ」
「正直、気づいていもいいと思うんですけどね。
むしろ、多感な時期である今は男子の方が気づくのが普通じゃないんですか?」
「ほら、影山君の場合って自己肯定感高そうで低いから。
そういう人って、いざ持ち上げられると不意にコロッと行くタイプよ」
「影山さんが相手に尽くすタイプであるが故にそうなったら厄介ですね」
こ、こいつら......黙って聞いていれば散々なことを言ってくれるじゃねぇか。
何お前らが俺のことを知った気になってくれちゃってんの?
......と、言いたいところだが、俺の思考は至ってクールだ。うん、落ち着け。
この状況で無理に反抗したところでアウェーな環境は変わらないし、それで俺が持ってる秘密で脅してマウントを取り返すの違うだろうからここは我慢だ。
となれば、ここでの最善手はこいつらが興味を引きそうなネタ。
それ即ち第4ヒロインの登場の件だ!
「ごほん、お前ら静粛に。これより重大発表がある」
「まさか第4ヒロインが見つかったとでも言わないでしょうね」
姫島、こいつ......せっかく盛り上げようとした気分が白けてしまったがまぁいい。
「よくわかったな。そして聞いて驚け。そのヒロインの相手は光輝の妹――――陽神沙由良だ」
「「な、なんですってぇー!?」」
ははっ、良い反応だ。それこそ良い反応......だけど、なんで二人して頭抱えてんの? ちょっと動揺しすぎじゃない?
「最近思っているのよね......そのヒロインってあっちじゃなくてこっちなんじゃないかって」
あっち? こっち?
「その気持ち非常にわかります。これ以上増えて欲しくはないですけど、私達の数じゃ無理ですしね」
「まぁ確かに、現状で第4ヒロインを確立させようとすると手が空いてないよな。
特にお前らは面識がないわけだし。う~む、ここは一番関係の近い俺が行くべき――――」
「「それはダメ!」」
なんか両側からものすごい抗議受けた。
つーか、顔近いから! つーか、腕に胸当たってるから!
顔は熱く......ないな、よし。
むしろ、クーラー効いてるとはいえ密着のせいで熱いが。
「とはいえ、お前らが知らない以上どうにもできないだろ?」
「それはそうだけど......」「それはそうですけど......」
「ま、安心しろ。生野との距離感については確かに大きな誤解を生んでしまったが、沙由良の方は俺の妹と同い年だから生野ほど関わる機会もないさ」
とはいえ、中三であるから今の夏休みを利用して、沙由良の光輝に対する好感度を改めて調査しなければいけないが。
そんな俺の言葉が届いたように二人は諦めるように息を吐いた。
そして、二人は見つめ合って互いに言い聞かせる。
「これは覚悟しといた方がいいわね」
「もとより惚れた弱みというやつですからね」
正直、何を言っているかさっぱしだったが、少なからずこれにて第1回好感度調査報告会は終わった。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')