第68話 大体始まりは予定通りにいかない
沙由良にアイツが忘れていったエロ漫画を返した二日後、俺は別の目的で音無家にやって来ていた。
インターホンを鳴らすとガチャリと雪が出てくる。
「影山さん、ようこそおいでに......」
そう言いながら雪は俺――――ではなく、その後ろにいる姫島の姿を見た。
「ようこそおいでになりました......」
「そこまで露骨に落ち込まれるとさすがに悲しいわ。
でも、これは私が勝手に来たんじゃなくて影山君から呼び出されたからよ?」
「そうなんですか?」
まるで小動物のような目で尋ねてくるな。
とはいえ、姫島の言ってることは本当なので否定する要素はない。
俺が姫島の言葉を肯定するように頷くと「せめて連絡ぐらいは欲しかったです」と言いながら招いてくれた。
なんか俺の連絡不足みたいな空気流れているが、しっかりと連絡は入れてるからな? 二文目に。
ただ一文目の「今度家を訪ねていいか?」という質問の後に送ったその文に一向に既読が付かないだけであって。
まぁ、玄関の扉を開けた雪の恰好が明らかに家の中で過ごす感じの服装じゃないことから大方察しはつく。
俺の言葉を聞いておめかしやら部屋の片づけやらをしてたんだろうな。
それらの感じから未だ俺への好感度は下がっている感じはなさそうだ。
はぁ、そろそろ一か月経つんだがまだ言葉での説得力は効果を表さないだろうな。
雪に案内されるままにリビングへ招待された。
整ったその空間には至る所に本棚が陳列している。
どうやら家族ぐるみで本の虫という感じみたいだ。
ちょっとしたミニ図書館みたいだ。
にしても、リビングに入っても人の気配がしない。
となると、ご両親は不在......か。
ま、日にち指定は雪がしてきたから、いないのは当然か。
雪に促されるままにソファに座るとその横に姫島が座った。
そして、テーブルを挟んで雪が正面に座る。
「それで急に呼び出してどうしたんですか?」
「そういえば、その要件を聞こうとしても答えてくれなかったわよね」
「まぁ、どうせ集めるだったらこうして口で言った方が早いしな」
とはいえ、こうして何もわからないのに呼んで来てくれてる辺りはありがたいな。
ま、こいつらは俺と夏休みでも接触できるなら会いに来そうなもんだけど。
そうとわかりながらも、一応感謝はせねばな。
さて、前置きとは良いから早速本題に入るか。
俺は大きめのカバンからノートパソコンを取り出すと膝の上に置いた。
「それじゃあ、始めよう――――第1回チキチキ好感度調査報告会~! ドンドンドンパチパチパチ」
「「.......」」
テンションの差が酷い。
「好感度......あぁ、前にいつだか私達の調べてる情報をもとにいわゆるギャルゲーの好感度パラメーターを作るとか言ってたわね」
「そう、その通り。これは一か月に一度開催する予定のいわば情報交換会でもある」
「それじゃあ、私達に前に渡したそれで『ラブコメしてると思った部分の行動をメモってこい』と言ったのはそういうことなんですね」
「その通り。それを数々のギャルゲーを攻略してきたギャルゲーハンターである俺の厳正なる公平な判断で点数化してそれをパラメーター換算する」
「正直、あの言葉がここまで本気だとは思ってなかったわ......」
おいなんだ、その若干引き気味の目はやめろ......じゃなかった、いいぞもっとやれ。
それで俺への好感度を少しでも下げるのだ。
とはいえ、ここで急に離脱されても困るので、一応今回に見合った報酬をやらねばなるまいな。
「わかってる。お前らの言いたいことは仕事をしたんだから報酬をくれということだよな?
安心しろ、俺に出来ることならば大抵のことはやってやる」
「なんですって!?」「本当ですか!?」
二人が声を揃えて反応してきた。
う~む、そこまで露骨に反応されると逆に困るというかなんというか......アメ与えすぎてないよな?
「そ、それじゃあ......ラブコメで大抵サービス回として出現するバニーガールコスをやっていいというの!?」
「お前、バニーガール着たいの?」
お前、前もそうだがバニーガールに対して全然恥じらいもってないな。
つーか、それ着てどうする気? 見せつけてくんの? それはそれで困るんだけど。
あ~一気にツッコんでのどか湧いた。麦茶のも、麦茶。
「いいえ、ただのバニーガールじゃきっと今までのラブコメと同じだわ。
だから、私はあえて――――逆バニーガールの衣装を着てみようと思うの」
「ぶふぅー!」
「影山さん!?」
ゲホッゲホッ、突然こいつは何を言い出してんだ!?
逆バニーってそんなもんただの痴女じゃねぇか!
普通それって女子からやりたいとか言う?
言うのはきっとR同人誌のヒロインぐらいだよ!?
クソ......こいつの変態性がいつの間にか進行している。
もう俺で矯正できるレベルを優に超えているような。
あ、ありがとう雪、タオル助かったわ。それと汚してすまん。
「何がどうしてそうなった?」
「私が以前からバニーガールに興味あったのは知ってるわよね?」
「知らんがな」
「だけど、昨今のラブコメ漫画を読んでみるととりあえずバニーガールをヒロインに着せておけばいいみたいになってるじゃない?
だから、逆転の発想としてヒロインじゃない私達がバニーガールを着ればいいと思って。ついでにバニーガールも逆転して」
「お前のはモブが勝手にバニーガール着てるだけだから!
それとバニーガールを逆転させたらラブコメの域を超えてるから!」
確かに最近だと「漫画のためなら」とか「エグ〇ロス」とかそう言ったニッ〇ルライトを常備させたヒロインが登場する漫画も多くあるし、ジャ〇プでもそれに近いものは全然あったし気持ちはわかるけどね?
だからってそれだと逆転の発想が全然逆転してねぇんだよ! 逆転してんの衣装だけ!
「どうせだったら雪ちゃんもなにかコスプレしてみたら?
例えば、ほら全身を覆える動物パジャマみたいな」
それって前に俺が姫島の家に行った時に着させられたやつか......。
「それってコスプレって言うのか? パジャマ類だろ」
「う~ん、それもそうね」
そう言って俺と姫島が顔を合わせて話していると雪が衝撃の一言を放った。
「だったら、その衣装を逆転させればどうなりますか?」
その直後、俺と姫島は雷に撃たれたような衝撃と共に固まった。
ど、動物パジャマって確か、全身を覆えてフードも被ってしまえば表に出るのは手足の先と顔だけ......そ、それを逆転させるなんてそんなの......ただのド変態じゃねぇか!?
こ、この子、すっごいニコニコした顔で言ってるけど、その意味理解してるかしら!?(※混乱につき、オカマっぽくなっております)
やらしい子! この子、こんなやらしい子じゃなかったと思っていたけど、どう考えてもその発想はないわよ!
い、いえ、落ち着きなさいわたくしぃ! 彼女はまだ事の全てに気付いてないはずよ!
「ま、まぁ、落ち着くのよヴァナ~タ」
「影山さん、口調がおかしいですけど......」
「ご、ごほん、落ち着け俺。
雪は逆転なんてさせなくても十分に可愛いから案外大人っぽい人が似あう婦人警察コスとか意外性あっていいと思うぞ?」
「な、なるほど......それを逆転ですか......」
だから、なんで逆転させるのこの子は!
肌面積多い恰好を逆転させたらほぼ全裸だから!
「思い切って水着とかどうかしら?」
姫島、ナイスだ!
布面積多いのを逆転させて変態性が増すなら、逆に元から布面積を少ないのを提示すれば解決......しねぇ!
結局大事な部分は露出してるからそんなの逆バニーと変わらねぇ!
こうなりゃ、雪が自分の言ってることに気付いて暴走する前に俺が決着をつけるしかない!
俺はソファを立ち上がると雪のそばへと歩いていく。
そして、その隣に座るとそっと手を取って、赤らめた雪に目を合わせた。
「雪は別にコスプレなんかしなくていい。そのままでいいんだ。そのままが一番いい」
「こ、この恰好がですか?」
「あぁ」
よ、よし、一先ず危機は去った――――
「この服装を逆転する......」
「なんでその意識まだ残ってるん!?」
「逆転......服がある場所がない......っ! か、影山さんは裸ニーソが好きなんですね......」
「違うんだああああああ!」
モジモジとする雪のそばで床に四つん這いになりながら俺は悔しさに叫んだのであった。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')