第67話 なるほど、新ヒロインか
俺が光輝の妹である沙由良に会ってから数日が過ぎた今日、いい加減手元に置いておくのもなんであるエロ漫画を持っていくことにした。
正直、気が進まないが沙由良の大事な私物である可能性も捨てきれない。
数日間は夏休みということで完全に逃避行動を持っていたが、さすがに俺も前に進まなければいけない時が来たのだと思う。
ということで、歩いて数分の所にある陽神家へとやって来ていた。
その家の風貌は俺の記憶している小さい頃から何も変わっていない。
変わっていたらそれはそれで変な感じだが......ともかく、その家を見ただけで子供の頃によく一緒にゲームした時のことを思い出す。
そん時もちっこい沙由良は遠くから眺めてたっけな。
玄関へ向かっていくとインターホンを鳴らした。
こうやってインターホンを押す動作をよくやってたなということだけでまた懐かしい。
そしたら、ガチャッと玄関を開けて言うんだ。
早くゲームやろうって――――
「は、早く沙由良んの大事なエロ漫画.......返して欲しいです......」
こんな恥じらいを持って赤らめた顔ではなかったな.....。
俺の思い出が汚れた言葉で上書きされていく......!
顔を赤らめてこっち見んな!
その普段のジト目が妙にとろんと溶けているようで傍から見たら勘違いされるじゃねぇか!
「そ、そうだな」
しかし、落ち着け。これ以上、変態どもに俺のペースを乱されてたまるか。
俺は僅かに上ずった返事のまま、例のアレを渡していく。
それを受け取った沙由良は嬉しそうに両手に抱えながら、聞いてきた。
「その......何かお詫びをしたいのですが上がってくれませんか?」
妙な上目遣いはやめてくれ。
しかし、お詫びか。特にこれといって......あ、そう言えばアレのせいで生野とだいぶ気まずくはなったな。
沙由良はそれに気づいているってことか。
まぁ、あの状況で俺と生野に見られない確率の方が少ないから当然と言えば当然か。
なんにせよ、沙由良がお詫びしたいという気持ちが本心なら受けてやるのも優しさってやつか――――と思ってた時期もありました。
「白濁液ぶっかけスペシャルです」
「練乳かき氷って言ってくんない?」
家に入って椅子に座らされると早速出てきたのが、自家製のかき氷機で作ったかき氷だ。
暑い日なので大変嬉しいのだが、なぜに練乳? なぜに言葉を卑猥にする?
「なんと、人によっては食欲増進する言葉と思ったんですが」
「なぜ俺をそのカテゴリーに入れた」
逆に食欲が減退したわ。
まぁ、出されたものだから食うけどね! 練乳うまっ!
「どうです? なかなかどうして自家製のかき氷というのは捨てがたいと思いませんか?」
「まぁ、氷一つで暑さもしのげるし、美味いしでコスパは良いよな」
「やや、そこに気付くとはさすが学兄さんです。
報酬としてこちらのおかずも贈呈しましょう」
そう言って差し出されたのは同人誌だった。
もちろん、ノット全年齢版である。
「これでお腹も膨れますね」
「膨れるか」
こいつ......久しぶりに会ったかと思えば、俺を何だと思ってんの?
しかも、この同人誌のチョイスが俺の好きなキャラっていう妙にツボを押さえてるところも腹が立つ。
俺は荒ぶる心を抑えつつ、久しぶりに見る陽神家を見渡した。
見るたびにここに訪れて遊んだ日がどれだけ楽しかったが思い出される。
「そういえば、光輝やご両親は?」
「兄さんなら出かけていますよ。両親は仕事でいません。つまりは二人っきりですね、学兄さん♡」
「妙に甘えたようなこと言ってもお前の表情がピクリとも動いてねぇから全然しっくりこない」
両手でハートを形作っているのはせめてもの意思表示と言うべきだろうか。
こいつ、昔からこんなに感情なかったっけ......あんまり関わってないから覚えてないや。
ともあれ、二人っきりというのはある種好都合だな。
どうせだからコイツの光輝に対するラブ度がどれぐらいか確認してみるか。
「お前のご両親って昔っから共働きじゃなかったっけ?」
「そうですよ」
「となると、光輝とほとんどの時間一緒に過ごしてるってわけだ。どうだ? やっぱり兄として頼もしいか?」
「ふ~む、そうですね......そうである時もあり、そうでない時もあると言える感じでしょうか。
ともあれ、さすがに着替え中の沙由良んをラッキースケベで覗く兄さんではありませんね」
そいつはどこのToL〇veるの兄だよ。
「だったら、そういうふとした頼もしさにドキッとする時もあるんじゃない?」
「ありますね」
「おぉ!」
「リビングで書いていたエロ漫画をそのまま放置してた時はドキドキが止まりませんでした。
少しだけ妙な興奮をしたのも覚えています」
「おぉ......」
思っている以上に聞きたいことと違う反応が返ってきた。
うちは妹と沙由良は全然タイプが違うからな。
これがこいつらの兄妹の距離感......なのか?
いや、なんか認めたくないな......。
妙な感覚を憶えつつ、かき氷をパクリ。美味い。
今の空気の唯一の癒し要素だな。
「そういえば、前の沙夜はどうでしたか?」
「どうでしたかって何が?」
「看病されたでしょう?」
あー、俺がしょうもなく風邪を引いたときか。
あの時は沙夜が無駄に強引で怖かったな。
風邪薬で座薬って。後々調べたら子供用だったし。
にしても、なぜ今更になってその話題を? まさか......!
「実はあの風邪薬は私の入れ知恵ですブイ。
兄妹の水入らずの時間は過ごせましたか?」
「過ごせるわけあるか! 過ごしたら過ごしたら問題じゃねぇか!」
あの風邪薬はこいつの仕業だったのか......!
沙夜らしくねぇとは思ったが、こうして黒幕が平然とブイサインしてるのが腹立たしい!
さすがの俺もアレに関しては下手すれば家族会議が発生しそうな案件だったので、文句を言ってやろうかと思ったその時、沙由良は独り言のように呟いた。
「それが本物の兄弟って奴なんですね......」
「どういう意味だ?」
思わずついて出てしまった。
恐らく先日生野が言った言葉が残っていたせいかもしれない。
しかし、これは明らかに踏み込みすぎたかもしれないな。
「あ、すまん。今のは気にしなくても――――」
「単純な話ですよ。私は兄さんとは血が繋がっていません。ましてやお母さんやお父さんとも。
昔から私だけ髪色が違うからわかると思ったんですけど、私ってイギリスのお祖母ちゃんを持つクウォーターなんですよ」
「そうだったのか......」
「それで事故で両親を亡くした私を引き取ってくれたのか、私の本当の両親と仲が良かったこの家族――――陽神家なんですよ。
ま、血が繋がっていずとも兄さんはもう兄さんですけどね」
正直、沙由良は随分とサラッと話したが、中々にヘヴィーな話だと思った。
そう聞くと沙由良の銀髪や西洋人形のような顔立ちはすごく納得いく。
どうして会って二回目の俺にこんな話をしたかはわからない。
もしかすると、俺は昔から光輝と仲が良い信頼できる人と認識していたのかもしれない。
そんな俺の渦巻く心中は聞こえは悪いが歓喜に震えていた。
それは当然沙由良の人生に関してではない。
むしろ、そこには同情すらできるだろう。
しかし、思ってしまうのだ。
その人生を背負っての光輝との出会いはある意味運命なんじゃないかって。
光輝の妹である沙由良は陽神家の家族の一人であるが、同時に血が繋がっていない他人でもある。
よく聞くではないか、血が通っていない兄妹が恋愛感情を持つ話を。
故に、俺はここに決めた。陽神沙由良を――――第4ヒロインにすることを。
「どうしました? 沙由良んちっぱいを凝視して。もしや! 揉みたいですか!? 有料ですよ!」
「なんでだよ」
しかし、その前にこいつの変態性を矯正しなければなぁ......。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')