第65話 夏は出会いの季節
林間学校が終わり、今日は念願の夏休み初日である。
そのため俺は絶賛ソファーでぐで〇ま状態。
うは~暑さで溶けるぅ~。
「へい、兄ちゃ! そんなとこでぐでってないでもうちょっとシャッキとしてよ!」
「我が妹よ、随分と元気がいいな。
兄ちゃはもう暑さでどうにかなっちまいそうだ」
「そんな兄ちゃには私のとっておきの回復薬を与えてやろうではないか。デデーン、じゃりじゃりくーん!」
そんなどら〇もんもとい沙夜えもんよ、秘密道具のように出さなくても。
っつーか、今の声の再限度高っ。
にしても、こいつさっきまでクソ暑い中どこ行くのかと思ってたらコンビニだったのか。
よくまぁ、暑い日に外出る気になるわ。
自宅で快適ライフを過ごす気にはならんのか。
ともあれ、アイスを買ってきてくれたことにはマジ感謝。
「にしても、お前は随分とたくさん買ってきたな」
沙夜の手首にはこれほどかというぐらいにエコバッグがパンパンになっている。
なんか母さんに買い物でも頼まれてたのか?
そんな質問すると「あーこれね」とエコバッグの中身を見せてきた。
「全部アイス」
「マジか」
覗いてみれば確かにアイスのパッケージしか見えない。
これ全部一人で食うつもりなのか?
もしかして、俺のじゃりじゃり君てこの中のお情け?
だらけてこれと言った感情もわかないままボーっと沙夜の顔を見てれば、沙夜は八重歯を見せながらニシシッと笑っている。わーいい笑顔。
「それはそうと、はいこれ」
そう言って差し出してきたのは一枚の紙。
ふ~む、なになに......ってこれ買い物リストじゃねぇか。
「任せたぜ兄ちゃ!」
「いや、そんな渾身のサムズアップされても......」
「私のことはいい、兄ちゃは買い物に......買い物に行くんだ。ここは私が守る!」
「よし、任せろ! 兄ちゃが全てを終わらせてきてやる――――っていくかバカ」
「はははははっ、さすが兄ちゃノリが最っ高!」
そりゃどーも。
「ま、それはそれとして行ってきて。もう外出たくない。暑い」
「冷め方急だな」
「アイスもわけてあげるからさ、ね?」
仕方ない。ここはいっちょ行って来てやりますか。沙夜の頼みでもあるしな。
にしても、さすが妹だな。俺の扱いをわかってやがる。
っていうか、あれだけのアイスの量を見たら俺ももっと食いたくなるでしょうが!
......はっ! まさか沙夜のやつそれが狙いか!? やるな孔明!(※ただのバカです)
というわけで、俺は外へと繰り出した。
せめてもの移動短縮としてチャリを使ったが、サドルの部分が陽にあたってたせいかくっそ熱い。ケツ焼ける。
それに漕いでも正面から来るのは熱風で、スーパーに辿り着く前に俺の体が日光で溶けるか灰になるんだが。
俺は出来る限り無心になりつつ、漕いでいき、スーパーに到着。あー涼しい~。
そして買い物を済ませ店から出ると急な蒸し暑さに俺の回復した体力がすぐさま猛烈に削られていく。
これははよ帰ってアイス食おうと思ったその時、後ろから声をかけられる。
「あ、同志じゃん!」
「げ」
「『げ』って何よ。失礼ね」
「ほら、夏休みってなんか友達に会ったら気まずくなるじゃん? それだよ」
「いや、わからんし」
こんなクソ暑い中でもギャル様生野は元気そうだな。
にしても、膝上までの丈のデニムパンツをホントに履く奴がここにいるとはな。
こいつスタイルはホントいいな。美脚だし。
「ほんとモデルみたいだな」
「そう? まあ、でも確かに前にスカウトされたことあるし、名刺も持ってるけど」
それはスゲーな。ま、納得と言えば納得だけど。
「にしても、声をかけてまで何の用だ?」
「え? あ、それは......その......」
生野か被っていた帽子のつばを指で摘まむと顔を隠すように傾けた。ん? 何? どういう反応?
「ほ、ほら、あたしって友達に会ったら声かけるタイプじゃん!?」
「知らんがな」
「そ、そうなの! だから、別にあんたにたまたま会ったから嬉しくて声かけたとかじゃ全然なくて......」
「なにそのツンデレムーブ」
「ち、違うし!」
そういう割には顔真っ赤ですが。
まぁ、コイツにとっては俺は唯一のスイーツ好きの男子であるからな。
もしかしてこれからどこかの店にでも寄るのかと思ったんじゃなかろうか。
......ありだな、それ。
「なぁ、これからどっか甘いもん食いに行く?
っていうか、そのために声をかけたんだろ?」
「え?......そ、そうよ!
同志がこんな暑い中でかけてるなんてよっぽどのことで、それこそ鉄の槍が振るぐらいだからなんかあったと思ったからそんだけ!」
「早口でまくし立てるなって」
え、俺が暑い日に外出るのってそこまでの異常行動だったの?
コイツから俺の評価ってどうなってんだ......まぁいい。
確か今ってどこもアイスの新作とか出てそうだよな? どこから行こうか。
「ま、歩きながら考えるか」
「そ、そうね」
なぜこいつはさっきから微妙に言動が不審なのか謎だが、別にそこまで気にすることじゃないか。
俺は家に近い方向にある店にしようと考えながら歩いていくとその後ろを生野が静かについてくる。
そして無言のまま数分が経ち、土手のある道にやってきてしまった。
片方の端には川があり、太陽光を反射しているせいか金箔を散りばめたようにキラキラしている。
その土手の近くには川で遊んでいる子供たちがいて、こんな暑い中で随分と元気だ。
まあ、そんな子供たちのことは別にどうでもいい。
問題は生野はどうしてさっきから無言なのかということ。
生野の歩きに合わせて自転車を押して歩いているのだが、これって案外辛いんだぞ? 何よりハンドルが熱い。
チラッと後ろを見てみれば、生野と目が合うものの生野がすぐさま俯いて目線を反らす。
どうしたのこいつホント。林間学校終わって夏休み始まるまでの間は別に普通に元気だったのに。
「どうした? 調子悪いならやめるが」
「いや、別に! 調子悪いとかじゃなくて......あんたといるせいか緊張してドキドキするというかなんというか......」
後半が聞き取れない。
俺の聴力は良い方だがさすがにそこまで小声でごにょごにょ言われるとさすがに聞き取れん。
「顔が赤いけどホントに大丈夫なんだな?」
「大丈夫よ!」
「だったら、いつも通りにして欲しいんだが」
「いつも通り......ってなんだっけ?」
「天才バカ〇ンってわかるか? それのレ〇レのおじさんだ」
「あんたから見えてるあたしってどうなってんの?」
無駄に元気としか言いようなかったんだが......なんかそのしおらしさって調子狂うんだよな。
前のイジリ甲斐のある方が楽しかった。
そう思っていると生野は突然「あ~あ」と言い出した。
「どうしたホント」
「あんたの前で緊張するのはバカらしいってこと。
それに案外バカの方が上手くいくってあんたが言ってたしね」
急にテンションのふり幅がおかしい。
さっきのしおらしさはどこへやら明るい表情に戻った。まだ若干顔は赤いが。
「ほら、さっさとお店で涼むわよ!」
「だったら、今くっつくのはおかしいんじゃないか!?」
生野は俺の腕に自信の腕を通していくとそのまま胸を押し付けるようにくっついてきた。
そして、もう片方の手で真っ直ぐ指をさす。
待て待て、くっつくなよ! 熱いんだから! それに柔らかいし!
あ、熱い、柔らかい、あつ――――柔らけえええぇぇぇ!
だ、ダメだ。落ち着け。俺は今はクールなモブでいるべきだ。
光輝のギャルゲヒロイン様に欲情してはならぬ。
顔には出さず心の中でその葛藤を続けていると不意に後ろから声をかけられた。
「むむ? これはこれは......兄さんではありませんか」
「兄さん?」
俺の言葉を代弁するように生野が呟きながら、生野に合わせて振り返る。
するとそこには銀髪の緩く纏めた三つ編みを肩に乗せ、ピクリとも感情を見せない表情のまま奇怪なポーズをする少女がいた。
「やっと会えましたね、学兄さん」
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