表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/237

第63話 肝試し#2

 結弦と生野が行方不明。

 その別々から聞いた話は心に衝撃を与えるには十分すぎた。

 生野と結弦がいない? 何がどうなってそうなるんだ?


 っていうか、そもそも光輝と組んでいたのは生野だったはずだ。俺がそう仕組んだからな。

 にもかかわらず、光輝から言われた名前は結弦......なんでそんなことになった?


「光輝、お前のペアは生野じゃなかったのか?」


「生野さん? いや、肝試し会場の入り口で合流した時には結弦だったけど」


 光輝の反応からして嘘をつているようには見えない。

 となると、生野は意図的に結弦と紙を交換したってことか?


「ともかく、あんまり騒ぎにならないためには俺とお前がその二人を探すしかない」


「そうだね。どっちがどっちを探す?」


「それはお前が生野――――」


 そう言いかけた時、俺は一つの情報を思い出した。


 今回の肝試しというイベントは人数上全員が肝試しをするとあまりにも長時間になってしまう。


 そのため、俺のような一部の実行委員に加え、“公平”なくじ引きでクラスから何名かのお化け役が選出され、その人達は肝試しには回れなくなってしまうのだ。


 それはもはや学校が夜の森で入れる時間を決めているので、さすがの俺でも無理だ。

 そして、結弦は運悪くお化け役に選出されてしまったというわけだ。


 その結弦と生野が交代した。

 加えて、お化け役の配置はお化け役の役員にしかわからない。


 こんな状況でも光輝が生野を助ければ何かのフラグが立つんじゃないかと妙な期待をしている俺がいる。


 だが、さすがにこんな緊急事態でそんなことはできないし、生野のいそうな場所を光輝に向かわせて光輝も迷ったら本末転倒だ。


 動揺した心を落ち着かせよう。

 そして、生野にはなぜこんなことをしたのかキッチリ問い詰める。


「光輝は一度肝試し会場に戻ってくれ。

 生野が交代した結弦のお化け役での位置には目星がある」


「わかった。悪いな、こんなこと頼んで」


「気にすんな。俺とお前の仲だろ?」


 そう言うと光輝は笑って返事をしてくれた。

 小学生の頃からどこまでも変わらない強い眼差しと優しい心。

 強い光の前ではやはり俺は影だと思い込まされる気分になる。


 そんな光輝が困っているというのなら、俺は助けなければなるまい。

 光が強ければ強いほど、影は濃くなって俺の存在意義が満たされるように感じるから。


 俺は光輝と別れるとインカムで俺の前後の人に事情を説明しながら、脳内での結弦のお化け役の位置を思い出していく。


 お化け役というのは確かに心細いものがある。

 暗がりの森で懐中電灯一つ持ち、歩いてくる参加者が来るまでじっと待つからな。


 懐中電灯はつけててもいいが、全く明かりのない場所での光は自分の位置を示すようなものなので、基本的につけないことが望ましい。

 故に、全く知らない場所でほぼだった一人で暗がりに居続けなければいけない。


 インカムは右耳と左耳で自分の前後のお化け役と繋がっているが、基本的には参加者が通過した時の連絡用でさらにそのお化け役と面識がある人の方が少ないだろう。


 高校生活が早くも7月になったとはいえ、大半が自分のクラスの人物や部活のメンバーぐらいしか知らないだろうし。


 つまりは結局ペアでお化けを組んでる人以外は夜の森をボッチで過ごさなきゃいけない。

 そんな状況で生野がいなくなったとの情報が入った。

 まずいつの間に生野が結弦と代わったのか。


 それすらの連絡が回ってこなかったのは、お化け役が体調不良で欠員が出たというわけでもなかったからかもしれない。

 単純な当事者同士の同意の上での交換だったからかもしれない。


 まぁそれはいい。

 しかし、その後にどうして生野の連絡が途絶えるのか。

 交代したとなれば結弦が簡単にインカムの使い方を教えるはず。


 余程のバカじゃない限りインカムを使えないことはない。

 つまりはインカムを落としたとかそんな感じでアクシデントが起きたと考えられる。

 それを探してるうちに気が付けば夜の森で道に迷ったって感じか?


「推測ばかりじゃわからねぇこともあるし、ここからは自力か」


 お化け役であった結弦の配置場所に辿り着くとその周辺を見渡してみる。

 案の定、生野の存在を示す光は見えない。


 だいぶ奥の方へ歩いたのか?

 それとも懐中電灯すら使えなくなったか?

 もし後者だとすれば生野も踏んだり蹴ったりだな。


 ふぅー、もう少し落ち着け。

 ここで俺がパニックになった所で見つかるのも見つからない。

 逸る気持ちもわからなくないが、走って探し回った所で非効率だし、なにより俺も(ミイラ取りが)ミイラになる。


 生野のこれまでの性格からの行動パターンを思い出せ。

 あいつが動きそうなところは......今のは?


 思考を巡らしながら周囲を見てみていると一瞬だけ森の奥で光の点滅があった。

 当然、見間違いもあるが、いくしかない。

 あー学校行事じゃなけりゃスマホで一発なのにな!


 森の中をかき分け、突き進んでいく。

 光が見えることは先ほど以来なかった。

 どうやら懐中電灯も壊れてる様子だな。


 懐中電灯で光を当てながら、帰り道が迷わないように木に×印をつけて進んでいく。

 茂みや枝が行く先を大分邪魔するが、それを強引に押し返しながら辿り着いたその場所には――――白装束の恰好で生野がうずくまっていた。


「どうしぃ......」


 三角座りで小さくなれるだけなって、今にも泣きそうな弱々しい声で俺を見た生野はそう呟いた。

 耳を見てみると左右どちらともインカムがなく、懐中電灯も芸術的なほどに明らかな壊れ方をしている。


 恐らく、大片俺が予想した通りの結末なのだろう。

 もう十分すぎる不幸を受けたこいつにこれ以上の叱責は必要ない。


「悪かったな、光輝じゃなくて。ともあれ、無事でよかった」


 そう差し伸べた手を生野は手に取る。

 そして、生野を引っ張りあげるとその勢いで生野は思いっきり抱きついてきた。

 なっ!? 急に何して......ぐはっ!


「こ"わ"か"っ"た"よ"お"お"お"お"お"! うっ、うぅええええぇぇぇぇん~~~~!」


 生野は俺という安心材料を得てしまったせいか堰を切ったように泣き始めた。

 その抱きしめる腕は何が何でも放さないという意志を示すように力強い。

 にしても......や、やめろ......腕がなんかミシミシ鳴ってるからー!


「大丈夫! 大丈夫だから! もう帰ろう、な? だから、放して~~~~!」


「嫌だ! 放したらどっかいっちゃうもん!」


「どこもいかねぇから! っていうか、探しに来たのにお前を置いていくわけねぇだろ!」


 ぐがぁ~! う、腕が......腕が折れるううううぅぅぅぅ!

 っていうか、なんでこいつは俺の首周りじゃなくて、腕ごとホールドしてるんだよおおおお!

 くっ、こうなったら仕方ない。

 許せよ、生野! 秘技、横っ腹指突!


「ひゃぁっ!?」


 腕を強引に動かしながら、両手の親指を立てるとそのまま生野の横っ腹に突き刺す。

 その瞬間、生野はくすぐったさと驚きで俺から離れていき、その間に俺は少しだけ距離を取った。


「な、何すんのよ!」


「よく言うぜ、人の両腕をサバ折りで破壊しようとしてたくせに」


「してないわよそんなこと! ......はぁ、なんか急に涙が引いたわ。ははっ、まさかこんな慰められ方するなんて」


「慰めなんて全然してないけどな。

 お前が普通に抱きついて泣き止む立ったら棒立ちもあり得たが、腕はあかん腕は」


 なんで生野がそこまで強い力を持っているのか謎過ぎるんだが。

 ともあれ、無事で何よりだ。それは本当に......ん?


「生野、右足庇ってるように立ってるけどどうかしたのか?」


「あーこれね、移動してる最中にこけて挫いちゃったみたい。でも、大丈夫だから。歩ける歩ける!」


 そういう生野の顔は全く気にしてなさそうに笑いに務めている。

 しかし、明らかに脂汗が浮かんで無理をしてるのは一目瞭然。

 はぁ、こういうのは俺の柄じゃないと思うんだが......仕方ない。


 生野に背を向けてしゃがむと生野に告げた。


「仕方ねぇな。乗れよ」


「は? 大丈夫だって――――」


「反論は聞かん。お前は大事なヒロイン様だ。

 これ以上無理して傷が悪化したらどうするつもりだ?」


「それは......わ、わかったわよ。乗ればいいんでしょ!」


 生野は恥ずかしさをキレ気味の言葉でごまかすと俺の背に乗る。

 太ももの柔らかさが手にダイレクトに伝わってくるが、意識を逸らせ。

 そして、俺は生野を背負ったまま来た道を戻っていった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ