第62話 肝試し#1
午前中のオリエンテーリング、夕飯の飯盒炊爨と終わり、残すところは肝試しからのキャンプファイヤーイベントの連続ビッグイベント。
正直、これを逃す手はない。今度こそ姫島や雪に邪魔されずに無事に林間学校生野回を終わらせる!
そのために色々とこっちだって根回しをしてきたんだ。
そう簡単に頓挫させるわけにはいかない。
「つーわけで、俺はお化け役としてざ・ん・ね・んながらお前らと組むことはない」
「ぐぬぬぬ、そんなに嬉しそうな顔で言われるとムカつくわ。
せっかくのキャッキャウフフイベントだったのに......!」
「私もつり橋効果を期待していたのですが......残念です」
こいつらもだんだんとちゃっかりし始めたよな~。
どんだけ俺と肝試ししたかったんだが。お前らはもう十分俺に絡んできたであろうに。
これからの俺は忙しいの! 二人は二人で楽しんできなさい!
「で、そっちの方が準備OKなんだよな?」
そう尋ねた方向にいる生野はなんだか難しそうな顔をして手に持っている紙を見ている。
「ねぇ、このくじ引きって厳正なる審査を突破して作ったのよね?」
「ああ、そうだが?」
「一体どうやったらあたしと陽神君が組めるのよ......」
「そりゃ当然――――俺が審査するからなっ!」
「がっつり不正してんじゃないの。
はぁ、それでさっき私に箱の右上隅にある紙を取るといいことあるって言ってたのね......確かに不自然に箱に挟まってたし」
説明口調ありがとう。
ちょっと前にそんなこともありました。
「ま、案外ヘタレのお前に尊大な期待はしてねぇから気軽にいけや」
そう言いながら輝く笑顔のサムズアップ。
今俺の歯キラーン☆てしたかも。
「......そうね、頑張ってみるわ」
その反応に妙に浮かない顔で作り笑顔を浮かべながら返答した。
その妙な感覚に違和感を感じながらも、俺はあえてスルーすることを選択した。
俺も実行委員として仕事があるからな。
「それじゃ、俺もスタンバってくる。お前らもお前らで楽しめよ。
今日の肝試しは人生で一度きりなんだからな。
あ、夜道はライトあっても暗いから気をつけろよ」
「そういう意味ではあなたも同じよ。
でもそうね、お言葉に甘えて楽しんでくるわ。ぜひ驚かせてね」
「気を遣っていただいてありがとうございます。
やっぱり影山さんは優しいと思います」
「別に、単にお前らのせっかくの好意を蹴ったせめてもの言葉だよ」
これは本心からの言葉だ。気を遣ったというわけでもない。
だがまぁ、せっかく仲良くなったのにそっけない態度というのもおかしいであろう。
それをあいつらがどう受け取ったかはわからない。
しかし、少なからず姫島は微笑み、雪はニコニコしていたな......悪い気はしない。
そして、俺は予定通りお化け役として茂みにスタンバっておく。
ちなみに、今回の俺の衣装はスケルトンだ。
といっても、全身を包み込む着ぐるみタイプで黒い下地にフードを合わせてスケルトンのプリントがしてあるだけだが。
実際、こういう高校イベントのは子供だましって感じのゆる~いものだ。ガチにやる必要ない。
されどまぁ驚いてくれなきゃ面白みに欠けるので、暗闇を利用して一瞬でも俺の姿がスケルトンに見えれば御の字。そんなスタンス。
そして、俺は耳につけたインカムから俺の前の人から「人が歩いてくる」という知らせを聞いて、今か今かと待ち受けて驚かしていく。
そんなことを十数人か繰り返してると姫島と雪、乾さんの組が来た。
本来は二人組だが、クラスによって微妙に数が違うのでたまに三人組もできる。
一組は全体で偶数だけど、三組は奇数だしな。
そんな三人は姫島を中心に怖がりな二人が両サイドから腕にしがみついてる感じだ。
なんつーか、歩きずらそうな感じだな。
にしても、姫島って案外大丈夫な方......じゃなくて、あれは単にクールフェイスで恐怖を上塗りしてるだけだ。
手に持ってるライトが微妙に振動してる。
そっかそっか~三人ともビビりか~。
これは驚かせたらどんな反応するか大変興味ありますな~ククク。
俺はフードをかぶり、そのフードについているジッパーを締めれば準備完了。
フードを締めたせいで前は見えなくなったが、歩くスピードからタイミングは大体わかるし、後は茂みから現れるだけ――――
「血を寄こせ~~~~~!」
「きゃあああああ!」
「ぐふぅっ!」
茂みから飛び出た瞬間、腹部から謎の強烈なダメージ。この感じ蹴られたのか?
俺はその痛みに悶絶し、思わず腹を抱えながら地面をゴロゴロ。
夕食のカレーが色をそのままに口から出る所だった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 咄嗟に蹴っちゃってごめんなさい!」
「さっきも驚いて拳が出かけてましたけど、まさか本当に出ちゃうなんて......それも足で」
「ん? このニオイ......影山君?」
お前は犬か! ってツッコませんじゃねぇ......腹がジンジンする。
一先ず俺はチャックを開けて新鮮な空気を取り込んでいく。
俺の割とグロッキーな表情に姫島と雪も気の毒そうに見つめていた。
「その......大丈夫? ある意味知り合いだったから良かったものの......いや、良くはないわね」
「結構思いっきりお腹に蹴り入って少し吹き飛んでましたからね」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 怖いの苦手なんですぅ!」
「泣きながら土下座して謝らないで。
なんか俺が酷いことしちゃったみたいに感じるから」
とてもキレイな土下座姿勢を見せる乾さん。むしろ、どうしてそこまで美しいのか。
にしても、これは......アレだな。「てめぇ、ラブコメ主人公でもないのに調子乗んな」と天罰喰らったんだな。
ほら、あるじゃないか。時折主人公が喰らわずに全く関係ない親友モブがとばっちり受けるパターン。
これはまさしくそれだ。最近妙にラブコメの波動を感じまくってたからそのせいだ。
とりあえず、俺は乾さんを立たせると「気にしなくていいから」と声をかけ、姫島と雪に「(乾さんに)気を付けて楽しんで来い」とだけ言って見送っていく。
しばらく心配そうに見つめる姫島と雪であったが、俺の顔を立ててくれたのかそのまま行ってくれた。
俺は何事もないようにインカムで次の人に報告とそれとない注意だけ送っていくと再びスタンバる。
正直、乾さんには驚きだが、これで逆に光輝が傷つかなかったと考えれば儲けもんであろう。
それにしても、痛かった~。逆に言えば、それほどにいい蹴りであったともいえる。
にしても、後は数人通れば俺も他の役員との交代に入る。
まぁ、さすがに戻っても肝試しする時間はないが――――あ?
俺の耳に一つ報告が入った。
なんでも一人の男子生徒が次々に先に歩いているグループを追い抜いているというもの。
おいおい、荒らしか? まだ光輝達も来てないってのに荒らされて中止とかねぇぞ。
......はぁ、仕方ない。俺の所で止めるか。
これ以上雰囲気をぶち壊しにされても......ってあれ? あの姿って光輝じゃねぇか?
茂みからよく見るとやっぱり光輝だ。
慌てた様子で何かを探すようにキョロキョロ見回してる。これは緊急事態くせぇな。
俺は姿を現すとフードを取って俺が影山学であることをアピールした。
「おーい、光輝どうした? そんな慌てて」
「ハァハァ......それが、んく、結弦が......ハァハァ......」
「落ち着け。一旦深呼吸だ」
俺がそう促すと光輝は一度深呼吸して話してくれた。
「結弦がいないんだ。どこにも。あいつ怖がりだから見つけてやらないと」
「ちょっと待て、結弦? お前のペアは生野だったろ?」
「それが......」
「ちょっと待て」
光輝の話を聞いていると再び俺のインカムに報告が入ってくる。
今度はなんだ......ってはぁ? 生野がいなくなっただぁ!?
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