第61.5話 怪我の功名
――――音無雪 視点――――
「「「「「いっただきます」」」」」
皆が同じように手を合わせるとテーブルに並べられたカレーとサラダを美味しそうに食べていきます。
隣に座っている影山さんも美味しそうに食べてくれました。
ふふっ、そのサラダ私が作ったんですよ?
でも、さすがにそれを言える勇気はありませんね。
「影山君、そのサラダって実は私と雪ちゃんが作ったって言ったら驚く?」
そんなことを思っていると縁ちゃんからの思わぬ援護射撃。縁ちゃん、ナイスです!
こ、ここは私もすかさず言って......頑張れ私!
「ど、どうですか?」
「美味いと思うぞ」
「そ、そうですか」
はぁ~、その一言で緊張の糸が緩むように胸がスッと軽くなりました。
やっぱ好きな人に「美味しい」って言ってもらえると嬉しいですね。あ、カレー美味しい。
まぁ、そんな影山さんは目の前の瑠璃ちゃん、結弦ちゃん、莉乃ちゃんと陽神君によるラブコメというおかずでカレーを食べているようですが。
こういう所は相変わらずですね。
とはいえ、これが逆に影山さんらしいと言いますか。
にしても、先ほどの影山さんが火の番をしてる時に頑張ってアタックしてみましたが、やはり縁ちゃんもすかさずアタックしてきましたね。
まぁ、縁ちゃんの場合は本当にただ純粋に影山さんとイチャイチャしたいだけだと思いますが......あんなに簡単にできるのは少しずるいと思います!
でも、一番ずるいのは莉乃ちゃんですね。
影山さんは知らないでしょうが、最近莉乃ちゃん影山さんとのお菓子巡りの話しかしてないんですよ?
一体いつの間に集まってそういうことをしていたのかはわかりませんが、ハッキリ言って要注意人物です!
た、確かに、ちんちくりんな私に比べれば顔も美人で、スタイルが良くて、くびれあって、む、胸も大きいですが!
さすがにそれ以上は影山さん独占禁止法に抵触しますよ!
というか、そういう思わせぶりは本気なのかただの友情なのかわからないんです!
ここはどうにかハッキリさせたいところですが......正直、私にそんなことができるはずがなくて......。
ここ最近、本当に莉乃ちゃんは陽神君のことが好きなのか疑ってるぐらいですよ?
もし......もしも莉乃ちゃんが影山さんのことが好きだったら――――なんでちょっと嬉しく感じてしまう自分がいるんでしょうか!?
そりゃまあ、好きな人が他の可愛い女の子から好意を持たれてたら、私の好きな人がそれだけ魅力的な人ってことになりますけど~~~~~!
でも、それって普通は彼女特権の気持ちとかじゃないですか~~~!
私、まだまだ絶賛片思い中なのに~~~~!
やっぱりこれ以上ライバルが増えて欲しくないので莉乃ちゃんにはハッキリしてもらいましょう。
もし、そうだったら......潔く諦めましょう。
最終的に勝てばいいのですから!
とはいえ......やっぱり私が莉乃ちゃんに聞くのは無理そうです。そんな勇気どこにもない。
縁ちゃんは気づいてるのでしょうか、莉乃ちゃんの本心を。
むぅ、さすがにこれ以上は行動に移さないとわからないですね。あ、カレー美味しい。
そんなことを思っているとふと影山さんを挟んで反対側にいる縁ちゃんと目が合いました。
そして、ニコッと微笑んでも来ました。
ん? 何を考えてるのでしょうか?
そう疑問に思っていると縁ちゃんはそれを言動で示してくれました。
「そういえば、陽神君と瑠奈ちゃんは恋人同士なのよね?」
「え、あ、うん......」
「そうだけど......」
「でも、恋人らしいイチャイチャってあんまり見たことないと思うのよね」
その言葉に陽神君も瑠奈ちゃんも慌てたような顔をしています。
教室が別なので詳しいことはわかりませんが、あの反応的にそうなのでしょう。
あ、影山さんが険しい顔で縁ちゃんを見つめています。
あの目は絶対「何やるつもりだ?」って顔ですね。
うん? また縁ちゃんがこっちを見てきました?
私はコップを手に取って喉を潤していると縁ちゃんはスプーンでカレーをすくいながら告げました。
「二人が恋人同士ならこれぐらいはやってもらわないとね......はい、あ~ん」
「え、んぐっ!?」
「ぶふーっ!」
ケホッケホッ、衝撃的な光景で思わず吹き出しちゃいました。
幸い、周りに迷惑をかけずに済みましたが......え、あ、え!?
今、あ~んて! あ~んてしましたよね!?
「おーい、雪。吹いてたけど大丈夫か?」
あ、あのスプーンは縁ちゃんが口につけたものであって......それはつまり間接キスになるわけで!
さらにカレーも口につけていたわけですから、それを影山さんの口に入ったということは......こうお互いの唾液があああああ交ざり合ってえええええ!?!?
それはもはやディープキスなのでは!?(※音無雪の個人的見解です)
「ちょ、お前妄想してないだろうな? ともかく、いいから口元拭け!」
だ、だって、ディープキスなんかしちゃったらもう体の火照った男女がこう......あわわわわモザイクパレードがああああ~~~~~!
「雪!? 拭いてくんないと赤らめた顔と口もと濡らしてるのが相まってトリップしてるように見えるから!
それにお前、体操着も......っ!?」
落ち着いて! 落ち着いて下さい音無雪!
あれはあくまで縁ちゃんが陽神君と瑠奈ちゃんに見せつけるためであって.......なら、どうして私の目を一度見たのでしょうか。
「ねぇ、その......聞こえてる? 雪さん? 応答してください」
単純に仕掛けるだけだったら私を見るような行動はいらなかったはず!
だったら、あの行動はラブコメ行動を仕掛けること自体が目的じゃなくて、それはあくまでフェイク。
本当の目的は私にできないことでマウントを取りに来たってところでしょうか!
な、なら、受けてあげます!
きっと昔の私なら無理でしたが、トラウマを克服したnew音無雪であればいけるはず!
何より影山さんのそばに居続けるためには避けては通れない道なのでしょう!
「影山さん! 私もやりたいです!」
「その赤らめた顔と濡れた口で言うとすごく卑猥にしか聞こえないからやめてくれない!?」
卑猥? もしかして、私なんか変なこと言いましたっけ?
さすがに言ってないような......って冷たっ!
よく見たら足元が濡れてますね。
あ、そういえば周りの人にかからないように咄嗟に顔を向けた方向が下なんでしたっけ。
「ほら、ハンカチ貸してやるから口とジャージの方も拭けよ。さすがに......そこは不味いからな」
「ありがとうございます」
影山さんが顔を反らしながらハンカチを渡してくれました。
まずは口元を拭いて......あー、ジャージのズボンもだいぶ濡れちゃいま......ああああ~~~~~!?
た、体操服だった上が吹いた際にコップからこぼれた水で濡れてし、下、下着が見えてるううぅううぅうう!?!?
ってことは、影山さんは私の、わ、わた、私のを、私のをおおおおぉぉぉぉ~~~~~~!?
「はふぅ~」
「え、ちょ、雪ぃ!?」
「雪ちゃん、大丈夫なの!?」
羞恥心でオーバーヒートした私はそこから先をあまり覚えていません。
ですが、目覚めた時には見知らぬ天井があり、近くには影山さんがいました。
「ここは......?」
「教員用のログハウスだ。急に倒れたからみんな心配してるぞ。
まぁ、お前のことだから妄想しすぎたんだろうがな」
「わ、わかるんですね......」
「まぁ、少なからず一緒にいた時間はあったしな。
それに俺は人をよく観察するタイプだし」
そう言って影山さんは飾らずにいてくれます。
気を遣っているのか、遣う必要もないのかそれはどちらかわかりませんが、私にとっては心配してそばにいてくれただけでも嬉しいのです。
「ともかく、何を考えてたか知らねぇがほどほどにしとけよ?」
「はい、そうします。それで......か、影山さんは私のようなちんちくりんの下、下着を見てもドキドキしてくれましたか?」
「......ねぇよ。さすがにな」
「そうですか......」
やっぱり私には縁ちゃんや莉乃ちゃんのような身長もスタイルの大きさもむ、胸もない。
影山さんを引き付けるには圧倒的にいろんなものが足りないのですね......。
「ほら、立てるか?」
「はい。あっ!」
まだ足がしっかりとしてなかったのかバランスを崩して影山さんの胸に飛び込んでしまいました。
こ、これはなんというラッキーな......って少しは自重しないとまた倒れて......あれ? なんか影山さんの心音が早い?
「どうした?」
そう聞いてくる影山さんは普段通りの顔をしていましたが、耳の先が少し赤い......ふふっ、そっか~♪
「ありがとうございます!」
「なんか急に元気になったな」
「嬉しいことがあったんですよ。胸に抱きつくラッキースケベイベントが」
「別にスケベじゃないだろ」
私は影山さんから離れると先にログハウスの入り口に向かって歩きました。
さすがに赤らめた顔を見られたらもう一度倒れちゃいそうですし。
結局、莉乃ちゃんの心意を確かめるとかいうのはものの見事に頓挫しましたが、まぁどの道すぐにわかることでしょうし。
今はもう少し幸せな気分に浸りたいのです。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')