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第60話 夜の密会

 沢登りの後、俺はその後の学校行事で光輝のラブコメを見て微笑みつつ、その日の夜を迎えていた。


 俺達は男女で分かれて、さらに男子数人のグループで小さめのログハウスに寝袋で止まるということになっている。


 そして、その夜は教師が巡回しているが、まぁログハウスと別のログハウスの距離がそれなりにあるので、夜にこっそり出た所で存外バレることはない。


 何が言いたいというと、俺はその一日目の夜に琴乃から呼び出されていたのだ。

 場所は南側にある湖畔の近くの大きな岩。

 全く、明日も控えているというのに何の話であろうか。


 俺は明日の飯盒炊爨(はんごうすいさん)や肝試しの計画を頭の中で見直しつつ、待ち合わせ場所に向かっていくと丁度俺が来た反対側から生野が歩いてきた。


 そのことに驚いて立ち止まると生野も俺の存在に気付いて、スマホのライトをこっちに向けてくる。やめい、眩しい。


 しかし、なんでこんな所に生野がいるんだ?

 そして、肝心の琴乃がいない。これは......


「生野、誰に呼び出されたんだ?」


「誰ってことっち......琴乃だけど......」


 やはりそうか。今日の沢登りの最中での話の内容に辻褄が合う。

 琴乃(あいつ)は生野の好意の対象を光輝から俺に変えようとしている。


 なぜそうするのかはわからないが、当然あいつ......いや、あいつらの思い通りにさせるわけにはいかない。


 それにあくまで生野の好意の対象は光輝のはず、あいつが俺に好意を持っていたとしても友情の類だろう。


 男女の友情は成立しないとは月並みなほどによく聞く言葉だが、やろうと思えば出来ないことはない。

 実際に、俺は()()()()しな。

 もっともあいつを友人と呼ぶには癪だが。


 ならば、俺がここでの行動は一つ。

 生野に干渉しすぎず、干渉する時は生野の意識を操作する。


「実は俺もあいつから呼び出されたんだ」


「え、ことっちと面識あったの?」


「俺は大体の人と面識あるぞ。

 当然、お前を知るうえであいつのことも知ってる。

 まぁ、話したのは今日で初めてだが」


「ことっちがどうして同志を呼ぶのよ?」


「そんなの知らん。それに言っただろ?『話したのは今日で初めて』って。

 さすがに初対面の人間の行動をすぐにわかるほど有能じゃない」


 生野は何か思い当たる節がないか考えるような素振りを見せる。

 そして、諦めたようにため息を吐くと丁度俺と生野の中間ほどにある石に歩いていく。


「せっかくだから少し話さない?」


「......あぁ、いいぞ。俺も明日のことを打合せしたかったしな」


 干渉回避失敗。

 このまま何もないなら解散という流れにしたかったのだが、先に言われちゃ無理だな。

 ......いや、どうして無理なんだ? 普通に断れば良かったものを。


 まあいいか。実際に明日のことで打ち合わせしたかったのは事実だし、琴乃と姪という障害が出たせいで計画に支障が出るんじゃないかと不安がっているのだろう。


 俺が同じように石に近づいていくとアクティブなことに生野はその石を登ってそこに胡坐をかいた。

 そして、隣を座るように軽く石を手でたたく。


 なぜわざわざ登る必要が?

 さすがに生野の言動一つ一つわかるほど俺の頭も良くないか。

 そして結局、生野に合わせるように登ると隣に座った。


「時期も時期だから夜でもそれなりに暖かいね。

 それにほら、空の星チョーキレイじゃない?」


 そう星空を見ながら生野が口火を切った。

 確かにもう暦的には夏のせいか暗い空を飾る満点の星は見ていて気持ちがいいものだ。


「そうだな。悪くない」


「もう、どうしてそんな暗い方面からの言い方しかできないのさ。

 普通に『キレイだね』でいいじゃん」


「俺がそんな主人公らしいキザな言い方したらキモイだろうが」


「むしろ、そっちの方が変にカッコつけてるようでキモいんだけど」


 そんなもんなのか?

 さすがに陽キャ勢の考えてることは俺と合わないな。

 つーか、別にいいだろ言い方ぐらい。


「そんなことより、明日は午前中のオリエンテーリングが終わった後の昼飯に飯盒炊爨あるが、そん時に一組と三組が組めるようにセットしといたから」


「あんた、それどうやってるのよ?」


「それは企業秘密だ。

 だが、お前はそんなことを気にするよりも明日のそれに集中しろ。

 飯を作るなんかはいわば女子力をアピールする場だ。料理ぐらいできるだろ?」


「そりゃまぁ」


「後は料理できるアピールしつつ、出来上がった飯で『あーん』でもしてやれば上等だ」


「そ、そこまでやるの!?」


「当たり前だ。自分のことを好意に思っている女子がめげずにそんなことやってきたらさすがの誰でもドキッとするだろ。

 それにお前の点では一度告白してるおかげでその行動が相手側にとって勘違いと認識されずらい。十分な破壊力を持った攻撃になる」


「そう考えたらそうかもだけどさ......それってあんたの実体験なの?」


「は?」


「だって、あんたってひめっちやゆきっちから好意を寄せられてるのわかってる上で、二人はそれを理解した上でめげずにアピってるわけじゃん。

 だから、そういう言い方するのは実体験なのかな~って」


「いや、さすがに......」


 そう言いかけた時に俺の中にふと過去の記憶が蘇った。

 それは俺があの二人に対して、まるで日常の可憐に映った一瞬を切り取ったような光景を目にした記憶であった。


 まるでテレビの4Kのような解像度で残る、一瞬が永遠に引き延ばされたような光景は確かに俺の目を離さなくして、胸に渦巻く何かを感じさせるほどだった。


 もし、生野の言ってることがそれすらも含まっている言葉によるものだとすれば、俺はその言葉を否定できない。


「どったの?」


「わかんない。気にしたことがないからかもな」


 だから、はぐらかした。

 俺は自分自身でも必要な嘘以外の言いたいことは割にハッキリ言ってるタイプだ。


 しかし、生野のその言葉に対しては“その選択”をした。

 なぜかはわからない。

 否定できないなら肯定すればよかったものを。

 俺にとって二人の存在価値が変わって来てる?


 俺の言葉に生野は「あんたらしいわね」と星空を眺め、言い返すのみ。

 特に気にしてる様子がなさそうなのが唯一の幸いか。

 すると、俺の方を向いて聞いてくる。


「そういえば、あんたって未だに自分がひめっちとゆきっちと釣り合わないと思ってる?」


「......どういう意味だ?」


「どういう意味も何もあたしがあんたをお見舞いに行った時に自分でそう言ってたじゃん」


 そん時の黒歴史をここで掘り返すかこの女は!


「それなら別に変らねぇよ。

 俺は影だ。舞台を無事に進ませるための黒子。

 あの二人は確かに光輝のラブコメという物語からすればモブかもしれないが、俺よりも役割を与えられたモブだ。

 俺は気まぐれに主人公に話しかけるコマで出てくるモブでしかない」


「そんなこと言ったらゆきっち怒ると思うわよ?」


「別にいいさ。それであいつの目の曇りが消えるなら」


 雪の好意は依存を伴っている。

 自立さえしてしまえば、俺なんかを気にすることもなくなるだろう。

 そんなことを思っていると生野がなぜか不満げな顔で指を近づけて額にデコピンしてきた。


「痛たっ! 何すんだ!」


「何するもそれはゆきっちに変わって罰を与えただけ。『この鈍感主人公が』ってね」


「は?」


 生野はその場で立ち上がると腰に手を当てながら湖畔に反射する星を眺め始めた。

 そんな生野を俺は座ったまま見上げる。


「ちなみに、私だって怒るわよ」


「なぜ生野が?」


「確かに、陽神君に対しての好意とは違うけど、友達としての『好き』って好意ぐらいはあんたにだって持ってる。

 それで否定されちゃ、せっかく好意を持ってるあたしが悲しいじゃない」


「お前と雪を悲しませないようにその考え方をやめろってことか?」


「後、ひめっちもね」


 俺はその場に立ち上がるとふと気づいたあるワードを意識するように告げていく。


「......確かに、『友達』のお前としちゃそんな情けない『友達』を放っておけるわけないってことか」


「そうそう、友達は放っておけないからね」


「我ながらいい『友達』を持ったものだよ。これも男女の『友情』ってやつか?」


「ははっ、かもね」


 思わぬ生野の言葉により予想外の展開へと行きそうだったが、なんとか軌道修正出来た。

 俺と生野は「友達」。そこは変わることのない真理でなければならない。


 ちなみに、生野が言いたい俺の負の面の考えに対してはまぁ少しずつ考えていこう。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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