第58話 林間学校始まりました!
俺の裏勉強会もとい暴露会から時間は過ぎて七月に入り、早めの学期末テストを終えた。
それまでの日々は特に代わり映えはなし。
定期的に勉強会が開催され、生野は無事に夏休みを獲得した。
そして、ついに始まる俺の前期での最後のビッグイベント――――林間学校が。
「――――ってことで、特別に用意してあげました! せいぜい楽しんでね」
「学、お前ぇ......!」
移動中のバスの中、某ラブコメ漫画の内容を再現するように座席を操作して光輝にはバスの最後尾席に座ってもらい、そこの両隣に乾さんと結弦に座ってもらってる。
結弦は言わずもがな、乾さんも光輝に対して大分心を開いたのか照れたような表情でそっぽ向いてる。
時折こっちを睨んでくるが知ったことじゃない。
「では、移動時間までの間ごゆっくり~」
「学、他の男達が目線だけ僕を殺せそうなんだけど!?」
それがラブコメの主人公の宿命だ。
せいぜい重く受け止めながら最高にラブコメしてくれ。
俺はバスの通路を歩いていくと運転席側にある一番前の座席に座った――――諦めたような表情で。
「嫌ね、隣でそんな顔されるのは。そもそも男女で座席にしたのはあなたの責任よ?」
「わかってる。そうじゃなきゃ、光輝達の座席に対して上手い口実が見つからないし、他の男子達のヘイトが溜まる一方だ」
「でも、男子だって友達同士でいたかった人達もいるでしょ?」
「いないよ、奴らはある意味男らしい男達だよ?」
「?」
姫島に指摘されるよりも先に男子達は買収済みである。
何とは言わない。ただ渡良瀬と名撮の情報を与えてやっただけだ。
もちろん、そういう意味では女子も同じ。
もっとも、女子のは名撮だけだが。全く、モブはチョロいぜ。
「とはいえ、俺の隣が姫島である必要はなかったがな」
「いいじゃない。実行委員として同じの方がいいでしょ? それにあなた的にも」
「まぁ......けど、お前らに手伝ってもらうことはあんましねぇと思うぞ。もうすでに大方の根回しは済ましてる」
「全く用意周到なこと。なら、私達も陽神君にならってイチャイチャしましょうか」
「しない」
「ケチ」
そう言いつつも、結局バスが尽くまでに時間がかかるので姫島とは割に話した。
やっぱりというか、ちゃっかりというか周りの目があるのか大分セーブした内容になった。
しかし、時折相手が俺であるせいでリラックスした様子で学校のイメージとは離れた言葉を言いそうになった時はカバーしてやったが。
後部座席から聞こえてくる人目もはばからないイチャイチャを聞きながら一時間半、俺達は「自然の家」にやってきた。
学校あるあるの最初の挨拶やら教員からの連絡・注意事項を聞き終えると早速最初の行事が始まる。
「よっす、同志」
「おはようございます、影山さん」
「風邪引かずに来たみたいだな。特に生野」
「なんであたしだけ名指しだし」
「お前、今回の重要性を知らないのか?
学校イベント、それすわなちラブコメイベントと言っても同義だ!
つまりは本来であれば神の采配であるはずのそのイベントは誰のメイン会となってもおかしくない!
その神をも恐れぬ所業にて俺はお前というヒロインを仕立ててやろうというのだ!
気合を入れろ、気合を!」
「なんかテンションおかしいんだけど」
「絶好調ね」
「楽しそうです」
「あっれ~? お二人ともそっち側......いやまぁ、考えてみればそっち側よね」
生野が若干引いた感じで俺を見てくる。
全く、お前のためにわざわざ仕込んでやったというのに。
「いいか? 最初にやる沢登りだが、本来は俺達一組と二組が組むはずだったのを俺がお前達三組と組むようにしてやったんだぞ? お前のために」
「それってどうやってるのよ」
「おっと、それ以上は企業秘密だ。
ただ俺にはたくさんのコネがあるとだけ言っておこう。
ともかく、お前は光輝を落とすつもりで行け」
そう生野に告げた瞬間、姫島と雪が食いついてきた。
「ちょっと、それは聞き捨てならないわね。
あなたが生野さんをメインとしてあげようとしてるのはわかる。
だけど、今回のメインは結弦ちゃんよ。
申し訳ないけど、あなたの仕込みが完璧じゃない部分は全て結弦回にさせてもらうわ」
「待ってください、二人とも。
こういう最初のビッグイベントは主人公が最初に出会ったメインヒロイン、つまりは瑠奈ちゃん一択です。
瑠奈ちゃんは好意に対してはぶっきらぼうになることが多いですが、根は良い子で可愛いんですよ?
もはや瑠奈ちゃん回しかありえません」
こいつら、スゲー推しヲタクになってんじゃん。だがまぁ、それはそれで好都合。
「ね、ねぇ、さっきからあんたら何言って――――」
「ほほぅ......? 言ってくれるじゃねぇか。
だが、根がピュアっピュアで見た目詐欺やってる生野だって負けちゃいいねぇぞ?」
「誰が見た目詐欺だし!」
「こいつはギャルという性質上フランクが取り柄だが、それが逆に仇となって光輝に上手く近づけても話せない。
しかし、そのヘタレが逆に推せるとは思わないか?
ギャルのくせにという言葉が漏れ出てもなお有り余る可愛さと時折見せる勘の鋭さに、噂程よりもよっぽど純情な心!」
「......ちょ」
俺が熱弁してる一方で、先ほどまで同じように熱を持っていた姫島と雪は俺の言葉を聞きつつも、その視線はそっと俺から外れていく。
「生野は結局のところ真面目なんだよ。
俺はビッチ呼ばわりしてるが、まああんなのは実際ただの冗談だ。
こっちに対してわかりやすく反応してくれるから言ってるだけであって、その赤面した表情は並みの男子ならまずドキッとしてもおかしくない」
「......」
「か、影山君? もうその辺にしてあげて?」
「バカ言え、最初にお前らが始めた戦争だぞ? やるなら徹底的にだ。
少なからず、生野のヒロインとしての魅力はまだ言えるぞ」
「あの、その、その戦争の飛び火が......莉乃ちゃんのライフがもうゼロです」
「ん?」
その言葉に俺は生野の方を見てみる。
すると、生野が耳の先まで漏れなく真っ赤にしていて、まるでゆでだこのように顔から蒸気が出てた。
その表情は独特で目つきは鋭く怒ってるような感じなのだが、口元は緩んでいるようにも見える。
ふむ、これはこれは......。
「ほら、ギャルの赤面した所って良くない?」
「ゼロの上から攻撃してオーバーキルさせましたね」
「鬼畜ね。ある意味羨ましい言葉責めでもあったけど」
そんなことを言われても俺は純粋に生野の推せる部分を言っただけなのだが。
っと、そうこうしてると生野に反応があったな。
「し......」
「どうした、生野――――げぼらっ!?」
「死ねええええぇぇぇぇ!」
俺の首がグギリと音を鳴らし、まるでその場でトリプルアクセルをするような勢いで体が回転、そのまま着地できずに地面に他叩きつけられた。あ、う......何故......?
生野の声でこっちに注目を集めてしまった。
そして、集まれば当然俺の方に視線が映る。
やべぇ、完全に悪目立ちした。
「こういうのなんて言ったっけ? 窮鼠猫を嚙む?」
「莉乃ちゃんの場合もう既にライフがゼロだったので、ゾンビ人を噛むですかね」
「どうでもいいから、俺のこと労わって」
「「自業自得です」」
そう言って二人はこの場から離れていった。
その言葉に若干嫌みのような怒気が籠っていたのはなぜだろうか。
いや、そこまで俺も鈍感じゃないからわかる、わかるけど......納得はしたくない。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')