表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/237

第54話 全部風邪のせい

 うーむ、これはどういうことだ?

 俺はプールの件で風邪を引いて今日は大人しく優雅にほぼ寝たきり生活をしていた。


 そりゃまあ、寝ることぐらいしかないから暇だったけど、妹の謎の奇行もあったがどうしてここに生野が?


「調子はどうよ......って、何その本物かどうかを怪しんでいるかのような目」


「いや、実際怪しんでるし」


 こいつが用もなく俺のところにくるはずがない。

 いくら俺と生野の付き合いが良くなったからって、まさかここまでされるような近い距離になったわけではない。


 となれば、疑うには十分だ。

 まあ、悪い方向にはしないと思うけど。

 俺のこと知ってるし。


 俺のそんな目線に生野はベッドの横に机の椅子を持ってきて座ると辟易とした様子で返答してくる。


「ひっどいわね~。あんたって私に対してそんな信用ないわけ?」


「ないわけではない。が、少なからずここまでされるような仲ではないと思ってる」


「え、私達って同じような味覚を共有する同志なんだよね? 理由ってそれ以上にいるの?」


 平然とした様子で答えてきやがった。

 それがまるで当たり前のように。


 あーあれだ、こいつはギャル特有の細かいことは気にしない理論だ。

 自分が一度「友達」と認識すれば、あくまで友達としての付き合いをする。

 そこに異性や趣向の違いによる壁は存在しない。


 これが童貞殺し(ギャルパワー)という奴か。

 特にヲタク質の奴が敵意を持っているギャルにそう言われるとコロッと傾いちまうアレな。


「......まあ、好意として受け取っておく」


「もぅ、全く素直じゃないな~」


 そう言って生野は肩を叩いてくる。

 お、結弦よりはソフトタッチ......ってそうじゃねぇ。叩くな。

 それからこのセリフは風邪で熱に浮かされてるだけだ。


「とりあえず、色々買ってきたわよ。スポドリにゼリーとか。後あるだろうけど、一応買ってきた風邪薬――――」


「オーマイメシア!」


「ちょ、急になによ!?」


 神か! このギャルは神か! ここで飲み薬タイプを買ってくるとか! はぁー、マジ神!(←語彙力死亡中)


 にしても、やっぱりコイツの根は真面目っていうか、面倒見が良いっていうか。

 ともかくあの変態二人よりは接しやすいタイプだな。


 俺は生野の手を取ると手をブンブンと振ってやった。

 簡易版の喜びの舞だ。

 しかしまあ、さすがにしんどいな。

 長くは続かねぇか.......ダウン。


「ちょっと大丈夫なの?」


「ああ、少なからず俺の貞操は守られた」


「(頭が)大丈夫じゃなさそうね.......」


 生野は何とも言えない目で見てくる。

 なんか含みのある言い方だった気がするが......やめろ、こっちにもいろいろあったんだ。

 主に先ほど妹に襲われかけたとか。


 それから、俺は眠くもならず暇だったので生野と話した。

 生野は相変わらず俺を「同志(ともだち)」と認識しているらしく、特に退屈そうな態度もせず学校のプリントを渡してくれたり、今日あった学校の出来事を教えてくれた。


 ......俺は本当に熱に浮かされているんじゃないか?

 俺とあろうものが光輝の第3ヒロイン様と距離が近くなりそうな親密イベントを発生させてしまっている。


 まあ、別に誰の目があるわけではないが、少なからず沙夜には誤解を解かないといけないな。


 そんな他愛もない話をしていると生野は急に自分の太ももに頬杖をついてじーっと眺め始めた。

 何してんだ? 無駄に開けているワイシャツから谷間がめっちゃ見えてるんだけど。


「あんたってさ、どうして二人に応えてやらないの?」


 その言葉を聞いた瞬間、一回息を吸うのを忘れた。

 それほどまでに衝撃的な質問だ。

 俺は()()()思考を巡らせると質問に質問で返した。


「それは.......どういう意味だ?」


「どういう意味って......あー、私の口から言っての良いのかしら?

 でも、コイツの口ぶりからして気づかないってわけじゃなさそうだし、ね?」


 確かに、俺と姫島、雪はややこしい関係だ。

 だが、わかることはその二人は明確に俺に好意があるということ。

 さすがに気づかない生野ではないか。


「......」


「......あの二人があんたのこと好きみたいだからよ」


 俺の沈黙を肯定と捉えたらしい。やはり妙な所で目聡いな。

 あー、こんな所で思考を巡らせることになるとはな。

 ダメだ、ちょっとボーっとしてきた。


「......知ってる」


「やっぱりね」


 あ? 今、口を滑らせなかったか?

 普通に「初めて聞いた」みたいなことで濁そうかと思ってたが......不味いな、冷静な判断ができてない。


「あんたって――――」


「俺は......周りが思ってるほど良い人間じゃないんだ。いや、誰もそんなこと思ってないか。

 だけど、俺は結局俺のままだから、俺ぐらいは俺を好きでいようと自分の気持ちに正直にいようと思ってる」


 なんだ? 口が勝手に滑るようにして言葉が漏れていく。

 あぁ、しかも漏れてるのは最悪な自己嫌悪。


「だけど、同時に俺は自分が汚い奴だともわかってるから......俺は姫島と雪に好意を向けられても正面を向けれないんだ。

 自分の存在の汚さが二人の光で浮き彫りにされるようで、『影』であることがハッキリするようで」


「あんたが光輝君を一種の学園ハーレムにしているのもその自分が『影』であるせい?」


「......かもな。俺にとっては光輝は太陽だ。

 斜に構えたガキとここまでつるんできてくれた大切な存在だ。

 だから、あいつには後悔しない幸せな選択肢を掴み取って欲しい。

 そのためには俺は『影』としてあいつの幸せになり得る選択肢を増やすだけだ」


 不味い、思考能力がどんどんと失われていく。

 さっき暴れたのも原因かもしれない。

 うわごとが口から漏れ出て仕方がない。


「それってあんたの敷いたレールを陽神君が気づかずに動いてるように思えるけど」


「確かに今の時点ではな。

 でも、最後にどの幸せを選択をするかは光輝だ。

 お前もその選択しとして俺が存在させたに過ぎない。

 どうだ? 汚い人間だろ?

 最初の質問に戻るが、だからこそ俺はあいつらとは釣り合わねぇんだ」


「それは本人にも言ったの?」


「言ってやったさ。『他の男に鞍替えするつもりはあるか?』って。

 そしたらすぐに『あるわけない』って返ってきたさ。

 俺なんかにそこまで執着する理由はないだろうし」


「はぁ~~~~~~~~」


 熱に浮かされるままにらしくもなくしゃべり続けていると生野が急にあからさまな大きなため息を吐いた。

 そして、姿勢を正すと艶めかしく足を組んでビシッと指をさす。


「あんたの方がよっぽど鈍感ね。それから根暗!」


「......は?」


「いや~、まあわかってたけどね? 違うってことぐらい。

 でも、甘党だったり、泳げなかったりと話していてもやけに馬が合うから『もしかして男版のあたし?』とか言った時もあったけど、やっぱりあたしはあたしで、あんたはあんたね。

 それも特にネガティブかポジティブかで」


「何が言いたい?」


「あんたの方がもしかしたらよっぽど主人公向きかもってことよ」


「......? 何を言ってるんだ?

 俺は鈍感でもないし、難聴でもない。言いたいことはハッキリと言ってる。

 主人公的特徴を当てはめてない」


「それが今時だったらもうとっくに廃れてるわよ、そのラブコメ」


 「全くもう......」と言いながら生野は立ち上がると大きく伸びをする。

 ワイシャツが短いのが僅かにへそチラしてるのだが。


「私、そろそろ帰るわ。あんたの思わぬ本音が聞けたし。来た甲斐あったわ」


「それを脅迫材料にでもする気か?」


「すぐにそんな発想に至る私の信用って......まあいいわ。

 ただまぁ最後に一つだけ言っておくわ。ちなみに、本心だから」


 その時、換気のために空けていた窓から僅かに強い風が舞い込んだ。

 その風は生野の髪やスカートを揺らすとまさに決め台詞を言うシチュエーションの如く演出していく。


 その舞台のままに生野は邪気のない笑みで伝えて来た。


「私はあんたのことは好きよ。もっと仲良くなれそうだし」


 それだけ伝えると生野は帰っていった。

 見送りは沙夜がしたのだろう。

 一階から話し声が聞こえる。

 さすがに会話の内容はわからんが。


 その聴覚が先ほどの会話を声のトーンを鮮明に記録し、恐るべき視覚が映像の再限度を限りなく高めていた。

 最悪だ。あの二人と同じ。


「言う相手がちげぇよ、バカ野郎......」


 沙夜が二階へ上がってくる。

 ノックもせずに豪快に扉を開けると様子を訪ねてきた。


「さあ、兄ちゃ。さっきの人の話を聞かせて......っと、顔が赤いけど大丈夫?」


「熱に......浮かされただけだ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ