表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/237

第51話 え、この回まだやるの?

「それじゃあ、まずどこまで水泳の知識を確認していいかしら?」


「まあ、構わんけど」


 突然の乱入者姫島による俺の水泳特訓講座が開かれた。

 もっともこいつに下心がないかは謎だが。


「とりあえず、授業も出てることだし大体はわかるわよね?」


「まあな。腕をグルグル回すクロールに、カエルフォームの平泳ぎに、バンザイするバタフライに......両手を全力で引っ掻く犬かき」


「何とも雑な認識......それと犬かきを泳ぎとして認識していいのは小学生までよ。

 で、結局どうして泳げないの?」


「なんか全ての泳ぎにおいて水中に潜っていくんだよ。

 序盤は出来てると思ったら、気が付けば水の中でもがいている」


「それは割に重症ね......」


 姫島は割に可哀そうな目で俺を見てくる。やめろ、そんな目で見るな。


「言っておくけど、真面目にそうだからな」


「だから、バカになんてしないわよ。とりあえず、見せてもらえる?」


 ということで、俺は姫島の前でクロールをすることになった。

 正直、こいつの前で恥をさらすのは相当に嫌なのだが......腹をくくるしかないか。


 そして、俺はクロールをした。それを姫島は横から見ている。

 案の定、俺の体はなぜか水中の方へと進んでいき、プールの底に手がついたので慌てて浮上。


 それを見て姫島は......


「何というか......滑稽ね」


「やっぱバカにしてんだろ。だから、嫌だったんだ」


「半分冗談よ」


 半分思ってんじゃねぇか。


「でも、真面目な意見としてもう一度見せてくれない?

 大丈夫よ、もう笑わないから。何だったら、笑ったらポロリするから」


「お前側のリスクでかっ」


 つーか、それってお前のさじ加減でポロリすんじゃねぇか。


「べ、別にいいのよ? わざとやっても」


「真面目にやれ」


 若干望んでるみたいな視線送んな。顔赤らめんな。体よじらせんな。無駄にエロイんだから!


 そして、俺はもう一度やってみる。

 それを姫島は今度は潜って観察し始めた。

 俺が再び浮上すると姫島も浮上して俺に告げてくる。


「あなた、どうして目を開けないの?」


「え、怖いじゃん」


「ゴーグルもあるのに?」


「そんなこと言われたって怖いものは怖いんだ。そもそもゴーグルつけてたって水入ってくるし」


 そう言うと姫島は「ちょっとゴーグル見せてもらっていい?」と聞いてきたので、俺は一先ず姫島を信用してゴーグルを外そうとする。


「そのままでいいわ。ちょっと調整してあげるから」


 姫路はそのまま俺の後ろにやってくると手を伸ばしてゴーグルの調節部分を見始めた。


 それで何か変わるのか?......と、無理やり思考を正常に持ってこようとするがやっぱ無理! 乳圧が凄い!


 な、何だこの感覚は......!?

 背中からや、柔らかい物体がものすごい圧をかけてくる!

 姫島は気づいてないのか!?

 いや、さすがに胸に何か当たったら気づいてもおかしくないだろ!


 だが、姫島は「今調節するからきつ過ぎたら言ってね」と気にも留めていない。

 くっ、なぜ俺が姫島ごときに動揺せねばならんのだ!


 ここは我が天使の時雨ちゃんに浄化してもらいつつ、心に平穏を......心頭滅却、おっぱいもまた柔らかし......って違ーーーう!


 だ、ダメだ......姫島の妙なエロイ体つきから俺の煩悩部分が刺激を受けたままになっていたせいで、俺の脳内が姫島同様に変態に埋め尽くされそうだ!

 ここは緊急離脱!


 俺は「もう大丈夫だ」と姫島から離れると自分の顔に水をかけて僅かに火照った顔を冷ます。


「すーはー、さて水中で目を開けてみる。水が入って来なければ大丈夫なはずだ」


「何故の深呼吸? まあいいわ。なら、確認してあげる」


 俺が水中に潜ると同時に姫島も潜った。

 するとすぐに姫島から肩が叩かれる。

 わかってる。目が開けられてないってことだろ。


 勇気を振り絞ってそっと目を開けた。

 水は入って来ずに、無重力のように長い黒髪を揺らめかせた姫島の顔が正面にあった。


 姫路は笑いながら手でOKのポーズを作っていく。

 その何も気づいてない笑顔の表情に自分の羞恥心がバカらしくなり、俺もだんだんと冷静になってきた。


 まあ、目が明けられればこっちのものだ。

 後は泳ぎを改善すればなんとかなる。

 そう思って浮上しようとしたその瞬間、俺の足がプールの底でツルッと滑った。


 しかも、その滑って体が倒れていく方向は正面方向。そう、正面方向。

 加えて、前かがみに頭が沈んで、その目指す先は二つの爆裂しそうに水着が張った姫島の胸。

 あ、これ水中で避けるの無理......。


 俺の顔は一瞬、枕に顔をうずめた時以上に柔らかい感触を全面に受けた。

 反動ですぐさま体勢を立て直しながら水中から顔を出す。


「悪い、足を滑らした」


 ここは冷静に。

 俺は何も気づいてないふりをするのだ。

 触れたのは一瞬。

 さすがの姫島も気づいては―――――


「む、むむむ胸に......か、顔が、かか顔ががががががが」


 まあ、無理ですよねー。

 姫島が顔を真っ赤にしながら目をグルグルさせている。

 これは完全に思考がショートしてるな。


 普段エロイ言動してるくせにいざこうなるとピュアというか、ポンコツというか......まあ、今回は全面的に俺が悪いんですけどね!


 クソう、なんだよ。

 先日の生野の件といい、今回の姫島への事故の件といい、俺がラブコメしてどうすんだ!


 俺は今一度自分の立場を肝に命じながら姫島の思考が戻るまで待った。


――――数分後


「も、もう! 急なんだから! 一言、さ、触ってみたい的な? 言葉を言ってくれれば? やってあげたみたいな?」


 思考が巡り始めた姫島は俺に対して優位になったせいか、まるで水を得た魚のようにイキり始めた。

 顔は真っ赤なのに、妙に「仕方ないな」みたいな顔がされてちょっとウゼェ。


 とはいえ、俺がそれに対して何か言えることもない。

 強いて言うとすれば「悪かったからさっさと泳ぎ方を教えてくれ」ぐらいだ。


 そして、序盤はウザさが残ってたものの、中盤からは真面目に泳ぎを教えてくれた。

 どうにも俺は根本から泳ぎ方がダメらしい。

 色々とばたついてるとのこと。


 「走ってる姿は普通なのにね」と姫島に鼻で笑って言われた時は若干イラッとしたが、今の俺は教えてもらう立場。

 礼儀はわきまえよう。


 そういうわけで、俺は姫島の手を掴みながらバタ足で前に進む練習を始めた。

 ぶっちゃけ初歩中の初歩みたいな教えから始まって俺の羞恥心がなかなか拭えなかったが、これは泳げない俺が悪い。


 ちなみに、その教えの時ビート板を使わなかったが、どうしてビート板を使わないかというとそれが姫島先生の教えだからだ。

 まあ、その時に見た姫島の絶妙に浮ついた顔は言わずもがなだろう。


「まだ数分しか経ってないのに上達が早いわね。それも頭がいいからかしら?」


「どうだかな。確かに一つの競技を極めたプロは他の競技をやらせても上達が早いとかなんとか聞いたことはあるが、俺はそこまでの人間じゃないし」


「......まあ、自分のことどう思っているか知らないけど、私から見たらそう感じるってことよ」


「そんなもんか?」


「そんなもんよ」


 姫島は笑って返答する。自然な笑みだ。

 他の生徒には見せない俺だけに向けた笑み。

 どうしてその表情を見て「自然」と思えるかは正直俺にもわからない。なんとなくだ。


「どうする? まだ続ける?」


「悪い、もう少し付き合ってくれ。俺もたまにはカッコつけたい」


「そう言う頑張り屋さんの所がすでにカッコいいわよ」


「......そう言うのって小声で呟くものじゃないのか?」


 聞くのもおかしいけど。

 それに対して、姫島はさもあらんとした様子で返す。


「なんとなく言った方がいい気がした。ただまあ、思い返すと......少し恥ずかしいわね」


「今更恥ずかしがるのか......」


 相変わらず、こいつの羞恥を感じるポイントはわからん。

 ただまあ、わかるとすれば自分にはもったいない奴だということぐらい。


 直接言うと調子に乗るから心の中でまだ練習に付き合ってくれることに感謝しつつ、練習を再開しようとすると他所から二つの声が聞こえてきた。


「お、同志じゃん!」


「か、影山さん!?」


 その声に視線を向けるとそこにいたのは案の定、生野と雪であった。

 その瞬間、「俺のプール回まだ続くの?」と思わずにはいられなかった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ