第49話 今回は俺に落ち度があります
「でさ、最近妹のずぼらさが凄いんだよ。
いやまあ、飯作ってくれるのはありがたいけどね?
それ以外がなんというか適当で。そっちの妹が羨ましいよ」
「沙由良はそっちとは逆かな。あ、でも料理はなんか今勉強中らしい。よく味見させられる」
俺と光輝は話し始めてから妹談義をしていた。
互いに妹を持つ身であるためか妙にそこら辺の話が合うのだ。
まあ、これまでに何度か話したこともあるし。
にしても、光輝は相変わらずのシスコンらしい。
うむ、さすが主人公の心得を持ってると思う。
まあ、覚えてるのはだいぶ昔だが光輝の妹は人形みたいに可愛いかったように思ったのは認める。
俺と光輝が話し始めてからしばらく経つが本当に生野は一言もしゃべらずに聞いている。
スマホを弄ったり、興味なさそうな態度をする様子もなく、ちょくちょく「話をしっかり聞いてますよ」と合図ばかしの相槌を打っていた。
それにそれは光輝に限った話ではなく、俺の方にも聞き耳を立ててるのが意外だった。
まあ、俺達は俺達で別の強い仲間意識があるからだろうけど。
しかし、いつまでも聞いてるだけじゃつまらんだろう。
これまでの会話でいい具合に光輝と話してるうちに情報を引き出させたところだし、そろそろお前も参加していいぞ。
「そういえば、生野さんは兄弟か姉妹みたいな存在いるの?」
「あ~、実は私も妹がいるのよ。だから、聞いてる間すっごくわかるなーと思って」
「なら、話に参加すればよかったじゃん」
「だって、あんた達すっごく楽しそうに話すんだもの」
まぁ、そりゃ光輝はシスコンだし......って待て。「あんた達」?
「俺もか?」
「そうよ。あ、こいつ絶対シスコンじゃんって思ったもん」
「......そうか」
なんつーか妙に恥ずかしい。
別に妹とは仲が良い自覚はあるけど、俺がシスコン.....だと!?
しかし、生野が嘘をついているようには思えない。
そもそもここで俺に対して嘘を言うメリットはないし。
だとすれば、本当にシスコンだということか。
朝に妹の好きなスムージー作ってやったり、一緒にゲームやってやったり、勉強見てやったり、料理手伝ったり、髪を乾かしてやったりも全てそういう判定か。
うーむ、これはこれから顔に出ないように気をつけないとな。
少なからず、姫島に知られたらなんか弱み握られたみたいで癪だ。
「でもまあ、家族愛に溢れてるということで悪い事じゃないはずだ。
あ、そういえば、そっちの沙由良ちゃんだっけ?
妹から同じクラスの男子に告白されたって聞いたんだけど相変わらずモテるみたいだね」
「「......っ!?」」
俺はこの場の主導権を握り返すためにあえて適当なことを言ってみせた。
するどどうだ。見事に二人が食いついたぞ。
俺の言葉に体をビクッと反応させて、何かを思い出したかのように顔を高揚させている。
まあそりゃ、二人には恥ずかしい話でしょうからな。
そして、俺は何も知らないふりでいく。
「え、どうしたの? 急に黙りこくって」
「「い、いやなんでもない!」」
「どう見ても何かあった反応でしょうに」
内心でニヤニヤが止まらない。
しかし、ポーカーフェイスだ。
中学の時に無表情クールキャラってなんかカッコいいなと思って練習してた成果がこんな形で活かされてくるとは。
そんなことを思っていると机の下で足に蹴られたような痛みを感じた。
正面からではなく斜めの方向......生野か。
そして案の定、そいつからスマホの方でレイソが来た。
『ちょ、なんでその話題出すし!?』
『面白いからだ』
端的に返して生野を見たら顔を真っ赤にしながら睨まれた。
それに対し、鼻で笑ってやる。
残念ながらお前は俺の傀儡だよ。
すると生野が反撃とばかりに光輝に俺の秘密を告げて来る。
「ねぇ、陽神君知ってる? こいつ、超がつくほどの甘党だって。
弁当ないときは大抵菓子パンで、一人で出かけてスイーツ巡りするほどなのよ!?」
「え、ほんとに?」
おいおいおい、何してくれちゃってんのコイツ!?
俺がスイーツ巡りしてるのバラずんじゃねぇよ!
言っておくけどな、女性客多い店に入るのって度胸いるからな!
その恥ずかしさに打ち勝つ勇気をお前はバカにするように言うんじゃねぇ!
「何言ってんだ。お前だって俺がいない時にたまたま見つけた人懐っこい猫に対してニャン語使ってたじゃねぇか!」
「は、はぁ!? つ、使ってないし!
『こんな所で何してるニャ?』とか『可愛いニャン子ね、あんた~』とか言ってないしー!」
「語るに落ちるとはこのことだなぁ!
お前が実際に出した具体例の時点でもう言ってることは明白なんだよ!」
「言ってくれるじゃない! だったら、あんただってパフェ食べてる時に『俺、お菓子の家に一度でいいから住んでみたい』とか言ってたじゃん!
あんな恍惚の笑みを浮かべてさ!」
「だあああああ! なぜバラす!?
それにそれについてはお前だって同意してたじゃねぇか!」
「してないっつーの!」
「いや、してた! お前のデザート食った時の身悶えるような態度はしっかりと脳内に焼き付けてありますぅ!」
「それならあたしだってそうよ!」
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて」
光輝のなだめる声に耳を傾ければ、いつの間にか俺も生野も席を立って机に前のめりになりながら言い合ってた。
しかも、傍から見ればチョーどうでもいいことを。
......あれ? なんか勢い任せに置いてきたはずの羞恥心がものすごいスピードで後ろから追いかけて来るぞ?
あ、やばい追い付かれる。
でも、実際俺らしくないヒートアップした言い合い......しかも、これって傍から見れば単なるイチャイチャじゃね?
落ち着け。冷静に一旦椅子に座って深呼吸して先ほどの会話をリピートしながら客観的に判断......うん、イチャイチャしてるように思えますね。
相手の恥ずかしい秘密をバラしてマウントを取るようにケンカしてる二人が思っても、その聞いている内容は特に全く深くもない......待て、まだ何か重要な何かを見落としているような。
そう思っているとまさに俺が危惧していたようなことを光輝は告げた。
「なんか二人とも仲良いね」
「......っ!」
その瞬間、俺は結構な失態を犯したと猛烈な衝撃に襲われた。
そうだ、この不毛な言い争いもといイチャイチャ......どう見ても光輝からは俺と生野の仲の良さが目に映ってしまう。
付き合いたてのカップルが二人でやるようなどうでもいいケンカを光輝の前に見せつけたのだ。
そう思われても仕方がない。
だが、これは俺の計画としては大きなしくじりだ。
俺の計画では光輝が振った相手である生野に対して負い目を感じてることで成立していた。
それはつまり光輝が生野が落ち込んでいると思ってたからだ。
しかし、今のやり取りで生野はある程度持ち直したと思われても過言ではない。
そして、最悪はまさに光輝が言ったセリフ。
俺と生野が“仲が良い”ということ。
確かに悪くないが、それで変な解釈をされるのは問題だ。
これは早急に解決しなければいけない問題だ。
かといって、闇雲に嘘をついても言葉に説得力が出ない。
ここは一つ甘党同志を用いて――――
「そ、そうかな~。私は別にそうは思わないわよぉ?
まあ、仲良くしてやってる感じは出ちゃったかな~。
前に“近くのお店でパフェ食べに行ったし”」
.......ばっっっっか野郎! それをわざわざ口に出すんじゃねぇ!
せっかく臭わせもあったが上手く隠し通せると思ったのに!
こいつ、テンパって思考回路がダメになってやがる。
仕方ない、ここは緊急離脱!
俺はすぐさま生野のレイソからメールを送った。
その通知音に生野は「ちょっとごめん」と一言入れると生野は俺のだとわかりすぐに俺を見た。
それに一瞬目線を合わせると後ろのドアの方へ視線を送る。
つまりはこの教室から出ろということだ。
「あ、ママからだ。そういえば、心配性なのよね。ってことで、そろそろ帰るわ!」
「そ、そうか、気をつけてな」
「じゃあね」
そう言って生野は教室を出ていった。
そして、生野から「後日反省会ね」となぜか上から目線の文章がやってくる。
俺のスマホは基本バイブにしてあるので音が出る心配はない。
その文章をチラッと見ると俺は光輝に告げた。
「悪いな。なんか前まで仲良かった雰囲気あったのに急に二人とも態度おかしかったから......余計なおせっかいだったよな」
「そういうことか。なら、問題ないよ。生野さんが元気なかったのは僕のせいだし」
「俺に手伝えることがあるだったら手伝うけど」
「今はないよ。ただ僕は相変わらず思うことがあるんだ」
光輝は立ち上がり、机の横に掛けてあったスクールバッグを肩に掛けると俺を見て告げる。
「学は凄い奴だって。そんな学と友達やれてることはすごく誇りに思う」
「......持ち上げ過ぎだ。帰るか」
「そうだね」
光輝に続いて俺も買える準備をし、散らかした机を元に戻していく。
その机を片付けて家に帰るまで間、信用してくれてる光輝に対してずっと妙な罪悪感が拭えなかった。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')