第48話 ハプニングは「たまたま」起こるんだよ
生野が光輝グループに参加し始めてから数日、生野のヒロイン計画は意外にも順調な滑り出しを見せた。
というのも、生野が一回目のアタックで乾さんと結弦に対して変な敵対意識を持たせなかったのが幸運だったかもしれない。
そりゃあ、恋敵的な意味合いでは多少のわだかまりは発生するが、生野は噂に反して話してみれば案外の常識人。
そう、見た目がギャルなだけなのだ。全ては見た目が悪い。
ということで、生野にはとりあえず「光輝と話す回数を増やせ」とだけ言っておいた。
それだけで生野は結構勝手に上手くやっていく。
もともと人の心に入り込むのが上手いというか、警戒心を解かせるのが上手いというか。
ともかく、生野は具体的なアドバイスを送らなくても、それ以上のパフォーマンスをしてくれるのでこれ以上の逸材はいない。
ちなみに、姫島と雪にはそれぞれ担当している相手の情報収集をしてもらっている。
生野の前では「サポートする」とか言っていたが、別に生野のサポートはいらなさそうなので本来の仕事をしてもらおう。
そして、俺はというと久々の男同士の会話に華を咲かせていた。
「にしても、意外な奴にモテ期が来るもんだよなぁ。妬ましい」
「ストレートに毒づいてくるなぁ」
俺の邪気のこもった視線に光輝は辟易した様子でため息を吐く。
まあ、なんとも羨ましいため息でしょうか。
とはいえ、俺がこの状況を作り出してるから何も言えないんだけどね。
「で、結局お前はいつまでもこのままじゃいかんだろ?」
「それはそうなんだけど......俺も乾さんの家も周囲からの同調圧力? 的なものが凄くて結局何も言い出せないままずるずると。
正直、結弦にもずっと黙ってることは悪いと思ってるよ」
「でも、それはお前の個人的な問題じゃないからあんまり言うのは良くないと思うぞ?
確かに人手が欲しいのはわかるけど」
「ああ、わかってる。だから、せめてお前にこうしてせめての愚痴を聞いてもらってるじゃないか」
そう言いながら光輝は滅入ったように机に頭を伏せていく。
そんな光輝に「好きなだけ聞いてやるよ」と肩を叩きながら、思うことは一つ――――よし、改めて釘を刺し直せた。
光輝がこういった愚痴を言うのもちゃんと周囲に人がいないことを理解しての行動だ。
最近、何かと放課後に遅くまで残っていることが多くなってきたが、こういう主人公のメンタルケアのために時間を使うのも必要なこと。
そして、こういった普段よりも気が抜けている時にトラブルは発生する。
――――ガラガラガラ
教室のドアが開く音がした。入ってきたのは金髪のギャルである。
「あ、同志いた~......って、陽神君!?」
生野は慣れた様子で仇名を呼びながら俺を見るとすぐに机に突っ伏している光輝の存在に気付いた。
光輝は生野を見るとギョッとした反応をし、生野は俺を見るとキリッと睨んだ。
生野のあの感じ「陽神君がいるなら事前に連絡しなさいよ!」って感じだろうな。
まあ、確かに生野を呼んだのは俺だけど。
なんとまぁ、二人とも相手が俺だからって油断しちゃって~。
そういう時こそラブコメというのは“偶発”的に起こるものなんですよぉ~。
「え、学も知ってたのか? というか、あの呼び名の感じは?」
「そりゃ、知ってるとも。
この学校でた大抵の人は知っている有名な美人ギャルの一人にして、数多の男子の恋を盗んできた恋の泥棒猫『生野莉乃』だぞ~」
気持ち悪い親友っぽく体をクネクネさせる。
「光輝ばっか知り合いなのはずるいと思って頑張って話しかけてみたんだぜい!
ちなみに、あの呼び名は彼女のアイデンティティみたいなもんらしい」
「へぇ~」
俺の話を聞く光輝を見ながら、生野を一瞥すると「なにキモイこと言ってんのコイツ」みたいな顔されてる。
そう言えば、コイツは俺が光輝の前で猫被ってること知らなかったけな。
いやまあ、何度かしたことはあるのよ?
ただコイツは光輝以外眼中になくて覚えてないだけであって。
俺は椅子から立ち上がると丁度机と机を合わせた境目辺りに別の机から椅子を拝借。
それからサッと移動していくと生野の背後に回って、やや強引に肩を掴みながら押していく。
「え、ちょ、何!?」
「何ってお前と光輝を親密にする絶好のチャンスを作ってやってんだよ。ありがたく受け取っとけ」
「ま、まあ、それは嬉しいけど、心の準備が......」
「今更しおらしくなってんじゃねぇ。いつも通り童貞を落とすつもりでいけ」
「私、悪女みたいな言われなんだけど!?」
「しっ! 大きい声出すな。
それとお前が数々の童貞を玉砕させた時点で胸を張って言える。お前は悪女だ」
「酷いっ!」
ギリギリ光輝に聞こえない感じで生野に言葉を伝えていくと生野を俺がセットした椅子に座らせていく。
そして、俺が光輝の正面の椅子に座ると口火を切る。
「いや~、こうして仲良くなれたのも何かの縁だし、三人で話そうよ」
「僕は大丈夫だけど......」
そう言いながら光輝は生野を一瞥する。
まあ、その歯切れの悪さは当然だよな。一度振ってるわけだし。
だからこそ、この状況を作り出した甲斐があるってものだ。
光輝は俺と違ってクズではない。
そして女子と付き合った経験が今まで皆無だし、乾さんともちゃんと付き合ってると言えば嘘になるだろう。
となれば、光輝が告白してきた女子に対して思い悩むのは当然のこと。
それに光輝にとって告白というイベントはかなり大きい印象になってるはず。
つまりはどんなに取り繕ったところで正常ではいられない。
加えて、追い打ちをかけるようにたまたま他の女子がいないタイミングで生野と会ってしまった。
これは光輝の心に大きな動揺を与えているはず。
別に生野に肩入れするつもりは無いが、少しぐらいは波乱を巻き起こしたいのだ。
「私も大丈夫。時間はあるし」
生野も俺の提案に乗るような態度を取った。
そりゃあ、生野にとって光輝を射止める以外に割く時間はよっぽどのことがない限りないだろうし。
「んじゃ、早速話でもしようかな。
言い出しっぺの俺から出す話題は......うちの妹の誕生日に兄として何を送ったらいいかってことだ」
「へぇ?」
「あー、沙夜ちゃんの誕生日ね」
俺の話題に生野はキョトンとした顔をする。
きっと俺のことだから生野と光輝だけに共通する話題を出すと思ってたんだろうな。
提供屋ってバレてるし。
だが、そんなことはしない。それはリスキーだからだ。
人は誰しも隠したいことがあることはぐらかしたり、無理やり話を切り上げようとするだろう。
一度でもそうさせてしまえば、次にその話題を出すときのハードルが高くなってしまう。
それを初手からするなんてバカな真似をするほど俺の頭は弱くない。
だから、あえて俺と光輝に共通する話題を提示した。
今回の目的は別に光輝と生野を無理やり話をさせることではない。
まあ、面白い話題だったらするかもだけど。
生野を呼んだ理由は生野に俺と光輝のやり取りから光輝のプロフィールを知ってもらう。
俺は基本的に話しやすいような話題や状況を提供するだけであって、くっつくかどうかは全てその人の努力次第としてある。
故に、俺はあくまでフォローするだけ。
生野には俺との会話の間に光輝の好きな食べ物や趣味などをボロボロと口に出したり、光輝から出させたりするのでそれを聞いていて欲しいのだ。
生野は乾さん、結弦と比べればコミュ力というパラメータがかなり尖っている。
つまりは好意の相手の情報さえ与えてしまえば、その後は勝手に生野がそれらの情報を上手く駆使して頑張ってくれる。
ククク、これが上手くいけば第3ヒロイン計画はかなりの確率して確立したも同然になる。
さて......頑張れ、俺!
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




