第47話 厄介な二人に紹介を
「何絆されてるのよ!」
「あ、あんな楽しそうなのはダメですっ!」
「......はぁ」
次の日の学校にて、朝のホームルーム前の時間から姫島と雪に責められていた。
しかし、全く心覚えのない俺はそれを頬杖をつきながら聞いている。
はて、絆されたとは?
というか、雪は違うクラスからわざわざよくやって来たな。
その成長した姿は自分のことのように嬉しいぞ(父性感)。
「何その全く分かってなさそうな顔」
「実際わかってないし」
「そ、その昨日みみ見ちゃったんです!
影山さんが女子生徒と二人で仲良く喫茶店で話してる所を!」
喫茶店で女子......あぁ、生野のことか。
というか、見られてたのかなんか恥ずかしいな。
それにこのどことなく物々しい雰囲気......もしかして修羅場ってる?
「やめろよ、その浮気現場目撃したみたいな言い方」
「「そうじゃない(ですか)」」
「ハモるな。そして、違うから」
「何が違うのよ! 言っておくけどね、あの現場を見た雪ちゃんは卒倒しかけたんだからね!」
「ちょ、なんで言っちゃうんですか!?」
姫島の俺に対する責め方は完全に雪を巻き込んだな。
雪が完全に見方からの攻撃食らって顔を赤らめたながら慌てている。
っていうか、雪も卒倒しかけたって......ちょっと依存度高くね?
いや、まだきっと恋は盲目ラインなのだろう。
今はまだそっとして置こう。
にしても、俺が他の女子と関わるとこいつらのジェラシーラインに触れるのか。
これは予め言っておかないとダメなのか。
いやいや、なんで俺がこいつらに合わせにゃならんのだ。
こいつらは俺という存在を誤認している。
俺がどれだけ低俗な人間かわかっていない。
しかし、今のこいつらに何を言った所で俺が思う正しい価値観に戻るとは思えねぇ。
クソ、もどかしい。
とはいえ、もう既にこうやって問い詰められてるのを無視したら余計に拗れる可能性があるな。
まあ、いずれはバレることだし、遅かれ早かれ紹介はしていたか。
「わかった。その女子が誰か話そう。といっても、お前らも知ってるはずだけどな」
「私達も知ってる? それって前に影山君がお友達と話していた女子生徒のこと?」
「ああ、そいつの名は――――」
俺が名前を言いかけた時、教室の後ろのドアがガラガラと音を立てて鳴るとともにクラスが少しだけざわついた。
俺はすぐさままだ光輝と結弦、乾さんが登校してきてないことを確認すると一先ず安堵のため息を吐く。
そして、教室にやって来た金髪ギャルはマブダチって感じで挨拶してきた。
「おっは~! 同志! 今日目覚めが良かったら会いに来てやったわ!」
「「ど、同志......!?」」
「おう、そりゃどうも。俺も丁度お前に会いたかったんだ」
「「あ、会いたかった!?」」
いちいちリアクションと顔がうるさい二人だな。
とはいえ、生野が来たことで周りの視線がこっちに集まってきている。
大抵の連中は俺が提供屋ということを知っているが、一部親の仇のような目をしている奴もいる......こわっ!
さすがの俺も提供屋としての名が傷つくようなことは避けたいな。
ここは場所を移した方がよさそうだ。
俺は「よし、取引を始めよう」とあえて大き目な声で言うと三人を連れて人気の少ない場所まで移動していった。
そして、俺は簡単に生野のことを説明していく。
その間、二人は生野のことを警戒するように観察していたが、「生野が光輝のことが好き」ということを伝え、生野からもその言葉に肯定があると二人は安堵の表情を浮かべていた。
正直、その表情に俺はどことなくいたたまれない気持ちになる。
そんなやや苦笑いしたような俺の笑みを生野はただ不思議そうに見つめていた。
「――――ってことで、俺は生野のサポートをする。
二人はまぁ、直接的な邪魔をする感じじゃなければいい」
「直接的な邪魔をする? え、二人は別に陽神君を恋愛対象として見てるわけじゃないし、どういう立場?」
相変わらず目聡いな。
だが当然、そのことについては二人には言及してある......なっ!
俺が目で訴えると二人は冷や汗をかきながら頷いた。
「私達はあなたをサポートする立場だと思ってくれていいわ。
まあ、あくまで自然な形で近づけるようエスコートするってこと」
「は、はい。 例えば、私達の紹介で陽神君を囲む輪に入りやすくしたりとか」
「なるほどね......にしても、あんたって提供屋であることは知ってたけど、“華凛姫”と“親指姫”を味方につけてるってどういうことよ?」
「ま、まあ、コネってやつだ。二人は借りがあるんだよ。俺にな」
華凛姫......姫島のことか。
前まではクールビューティで通っていたが、雪が「親指姫」と愛称がついた瞬間、姫島ファンクラブが慌てて対抗意識剥き出しで作った愛称だったはず。
まさかいつの間にか平然と浸透してたなんて。
「安心しろ、お前もすぐに“ビッチ姫”という相性が付くから」
「誰がビッチよ! っていうか、女子の前で変なこと言うなし!
そして、変なこと言わせんなし!」
「言ったことは謝るが、言わせたとは心外だ。
勝手にそちらさんが言っただけだろ?」
「ぐむ~~~~! 仲良くはなれそうだけど、あんたのそういうすまし顔はすごく腹立つ~~~~~!」
「ははは、すぐに慣れる」
生野が顔を赤らめながら反抗してくる。
おいおい、そんなに言うだったら少なくとも胸元開けたワイシャツとそのマニキュアは直して来いよ。
そんな俺と生野のやり取りを見ながらどことなく羨ましそうにジェラってるお二人さん。
こう見えても視線には敏感な方だから、そんな圧かけないで。
それから、多少女子同士で話をさせる。
まあ、させるって言っても勝手に始めたがな。
にしても、「女」という感じを三つくっつけて「姦しい」とはよく言ったものだ。
昔の偉い人、確かにそうだよ。
ホームルームが始まる予鈴が鳴ると教室の違う雪と生野は先に教室へと戻っていった。
俺と姫島は同じクラスなので一緒に廊下を歩いていく。
その間、廊下をすれ違った男子や女子からは「華凛姫だ」「やっぱクールよね」と聞こえてきて、その隣を歩く俺には男女ともにやや痛々しい視線を感じる。
確かに、隣を見ればちょっとムッとするほど凛とした姫島がいる。
「こいつ、実はただの変態です」と言ってやりたい。
「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「そうだな、整った目と鼻と口がついてる。まさに黄金律って感じでな」
「よくある返しかと思ったら普通に褒められた」
「つくづくお前は損な生き方をしてると思うよ」
「損?」
「ああ、お前に送られる熱い視線の中にはきっとお前に見合う人がいるだろうに。
こんな俺なんかに時間を食わされてる。
もっと有効な時間の使い方があったはずだろうし、その時間にもっと思い思いのことが出来たと思う」
「あら、心外ね。誰が損だなんて言ったかしら。
それに前にも言ったけど、私の気持ちをあなたが勝手に決めて欲しくないわ」
俺の言葉に姫島は怒った声色でもなく、ただ当たり前のことを告げたように自然な笑みを浮かべる。
「私がここまで変われたのは振り向いて欲しい存在がいたから。
じゃなきゃ、こんな風になっていないわよ」
姫島は俺の先をスキップしながら進んでいくと急にピタッと止まってこちらを振り向いた。
「身も心も染められちゃった証拠ね」
姫島はイタズラっぽく笑みを浮かべた。
廊下の窓から刺し込んできた光と相まって、どこか小悪魔的要素を感じながらも、天使のように純朴に見えた。
思わず脳内にカシャッと音がした気がした。
その目に焼き付けた光景を脳が勝手に記憶の中に保存してしまったのだろう。
俺は思わず直視できなくなった顔を俯かせ手で押さえながら、その不意打ちに少しだけ大きくため息を吐いた。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')