第41話 それでも意思は揺らがない.....か
音無さんの一件が終わってから数日が経った。
その間はとても穏やかな日々であった。
それはもちろん音無さんも。
というのも、音無さんの敵らが自分より格下だと思っていた相手に反抗されると当然気に食わないと思う。
そして、今度は最悪な手で上に立とうとする。
なんてことがある可能性もある。
しかし、その対処は実のところ連中に会った時に済ませているのだ。
言ったことは簡単で「もし音無さんがお前達に自分の気持ちをちゃんと言えたならもう二度とあいつの前に現れないでくれ」というもの。
そして、音無さんがトラウマに勝ってから連中は忠実にその約束を実行してくれている。
当然だ、俺とあいつらでどっちの方が上かすでにわからせてあるんだからな。
そんな状況で俺の庇護下にいる音無さんに手を出してみろ。
すぐさまあいつらの幸せな学園生活は灰色へと塗り替わるだろう。
つーわけで、実に平和で光輝達の間にも特に取り留めないラブコメが行われている。
だが、そんな中でもハッキリさせなきゃいけないことが一つだけある。
時は安定の放課後。
窓の外で雨が降りしきる中、廊下から吹奏楽部の練習が聞こえてくる。
トランペットだったり、トロンボーンだったりな。
で、俺が教卓に手をついて見下ろす先には席に着いている姫島と音無さん。
まあ、簡単に言えば俺がやることは現状の整理ってところだ。
「よし聞け、諸君達!
お前らはこれから俺の指揮下のもとに情報を集めてきてもらう......のだが、その前に先に一つ確認しておかなければいけないことがある」
「確認したいこと?」
「まあ、紆余曲折あって結局俺から離れようとしない音無さんの立場に関してもだが、それよりも今の状況だ。
俺は自他ともに認める親友の恋愛を弄ぶクズであるが、それはひとえに光輝の幸せのためという信念に他ならない。
ここまでは理解できてるか?」
「はい、理解してます......ですが、私は影山さんをクズだと思ってません」
「フォローありがとう」
音無さんからお優しい言葉。
う~む、エロティックな妄想癖を除けばやはりいい子だ。
すると、そんな音無さんにハッとした姫島が続く。
「わ、私だってそうよ!」
「同調して(好感度を)稼ぎに来るな。静かにしろ」
「私にだけ辛辣!? あ、でも......意外と嫌じゃないかも」
「嫌じゃないかも」じゃねぇよ。嫌であれよそこは。
だがまあ、コイツの中身はダメだしな~。
一旦ここは流すか。
「ともかく、だ。俺は鈍感系主人公じゃないのでお前らからの好意的な言動には気づいている。
しかし、それに気づきながら俺はお前らの言動を基本的に無視してる。
それは少なからず俺とお前らが不釣り合いであるからだ」
「私達が不釣り合い? あなたにふさわしくなるには足りないってこと?」
「逆だな。俺が下過ぎるんだ。
お前らは“普通”にしていれば十分に周囲から好かれる存在であることは明白。
事前にこんな調査も行っていた」
そう言って一枚のボードに4つの円グラフが書かれたものを取り出した。
その見出しはそれぞれ「姫島縁をどう思うか」と「音無雪をどう思うか」というところだ。
「この縦2つに並んだ円グラフがそれぞれ男女からの意見を示している」
「今ものすごくサラッと流されたけど、何その円グラフ」
「見ての通りだ。で、この4つのグラフから見て取れるように―――――」
「いやいや、説明雑すぎない!?」
姫島がガタッと立ち上がり驚いた声を上げる。
なんだなんだー? 俺の情報網を駆使した合理的な説明にちゃちつけおって。
「話を聞け。これはいわばお前らの魅力度調査で、それぞれの結果からわかる通りお前らは十分な好意的な印象を受けている。
姫島はもともとクールビューティで通ってるしな憧れる女子も多いということで74パーセント。
特に男子に至っては88パーセントにまで達している。
約9割がお前に対して好意を示していると言っていい」
この結果に関しては調べる前からある程度の予想がついていた。まぁ。当然の結果と言える。
「言い換えれば、お前はこの学校のマドンナ的ポジションで姫島が好きな男子には将来的に金持ちになる素質を持つ奴もいた。
早めに手をつければ玉の輿も夢じゃない」
「手をつけるて。一体どこからその情報を持ってきているのよ......」
「俺のコネだな。
といっても、これはまだ同学年の中での話だ。まだ正確じゃない。
だが逆に、同学年でもここま好意的にみられているのも事実。
実際、もうこれまでに何人かに告白されてるんだろ?」
「そ、そうなんですか!?」
「え、えぇ。一応、5、6人からは......」
「凄いですね......」
姫島のモテっぷりに音無さんは感心した表情をした。
まあ、実際芋っぽかった中学から高校ではここまでモテるようになったのだから凄いと言えよう。
しかし、そう音無さんからの目線を受けながらも姫島は困惑気味。
ゆっくりと席に座ると不貞腐れるように呟く。
「いくら他の人からモテたって肝心な好きな人からモテなきゃ意味ないわよ」
まあ、言いたい気持ちはわかる。
だったら、なぜ今だに俺に固執しているのか。
協力関係となっている今としてはそういった感情で繋ぎ止めておきたい気持ちもあるが、俺もそこまで悪魔じゃない。
別に好きな人が出来たとなれば、ちゃんとアシストしてやるつもりだ。
だが、コイツは俺に拘っている。
俺が過去にコイツにそこまでの何かをした記憶はない。
単に俺にだけ印象が薄かった出来事があったかもしれないが......今は何とも言えん。
「で、ちなみにその男子の理由は?
どうせ可愛い彼女を作って友達にマウント作りたいとかでしょ?」
「いや、一発ヤりたいからだ」
「そこまでシンプルな回答だと逆に反論できないわね。
いやまあ、考えなくはなかったけど......」
「い、一発......や、ややや、ヤる......」
「はーい、そこの堕天使さ~ん。脳内の乱れを今すぐ止めなさい」
不味ったな。姫島相手だから思わず率直に言っちゃったけど、音無さんがいる時には遠回しに言わないと......いやまあ、どっちにしろ変わらなそうだな。
「んじゃ、次は音無さんの方なー」というと言葉を続けていく。
「音無さんのグラフを見てみろ。
男子の方では48パーセントとまあちょいと多い方だが、女子の方では80パーセントまで指示がある」
「それは一体どうしてですか?」
「まあ、簡単に言えばその容姿だな。
音無さんは小学生と張れるほどの身長の持ち主でついでに言えばまさに天性ともいえる童顔の持ち主だ。
つまりは女子の母性本能をくすぐるとでも言った方がいいかな。
もっと簡単に言えば『お人形さんみたーい! 可愛いー!』ってところだ」
「そうね、実際可愛いし、凄く抱きしめたくなるわ」
そういう姫路は少しだけ手をワキワキさせている。
女子のおっさん化現象......これがきっと音無さんの能力かもな。
いわゆる圧倒的弱小生物感を出して大きな女子のテリトリーに守ってもらう。
きっと音無さんがいじめを受ける前はそんな感じで守られていた。
しかし、一部の例外であるあの三人組はそれを良く思わなくいじめが発生した。
とはいえ、その実例の三人組には時折ものが消えたり、壊れていたりと怪奇現象が起きていたらしいが、それはきっと音無さんのことを大切に思っていた周囲の人達からのせめてもの抵抗であったのだろう。
「つまりは音無さんは女子に関してはもっと積極的に話しに行ってもいいし、その女子と仲良くなれば男子に話しかけてもいい。
この結果から言えば、二人に一人は好意的に示してくれるはずだ」
「ですが、私はモテたことありませんよ?」
「今のうちは、だな」
まあ、それは音無さんの影で音無さん親衛隊の存在があるからなんだけど......それは黙っておこう。
ちなみに、俺がこうして呼んでもその親衛隊から粛正されないのは当然信用を得ているからである。
すると、音無さんは何かを考えたようで目を閉じると不意に俺に聞いてきた。
「影山さんの言うことだから本当のことでしょうけど......影山さんはその......好意的な方に含まれていますか?」
うっ、やめろよその潤んだ瞳で見てくるの。
音無さんで怖いのがナチュラルに子猫みたいな雰囲気を出してくることなんだよな。
思わず流されそうになる。
「さて、どうだろうな」
「答えてくれないですか......ですがまあ、予想通りでしたけどね」
俺がそう言うと音無さんはケロッとした様子で落ち込むことなくやれやれといった感じであった。
あれ? 今のってもしかしてわざと?
そんな俺の気持ちをよそに姫路は聞いてくる。
「それでそんなことを突然言い出したってことはつまり何が言いたいの?」
「そうだな。ハッキリ言ってやろう。俺以外の男に鞍替えする気は――――」
「あるわけないでしょ」
「あるわけないです」
「......さいですか」
二人は食い気味にそう言ってきた。
それはもう誇らしげに。
何が二人をそうさせるのか。
俺にはまったくわからないが、この瞬間から俺は「もしかて俺もまた主人公じゃないよな?」と疑いを持ち始めた。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')