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第38話 俺は出来た人間じゃない

 時は土曜の晴天なり。

 梅雨のせいで若干ジメっとした空気に覆われているが、梅雨の時期には珍しい快晴だ。

 まあ、明日からはまた雨らしいけど。


 んで、俺は現在ある予定のために公園で待ち合わせ中、とりあえず予定した時間の十分前ぐらいに着けば打倒......っともういるじゃん。


「おはよう。悪いな、急に呼び出して」


「お、おはようございます! と、ととんでもないですぅ!

 お、およ、お呼びしていただいただけで胸が張り裂けそうで――――」


「おーっとストップ、ストーップ。一旦、落ち着こうな。言葉が変になってるぞ」


 そう言って俺は音無さんをなだめた。

 そう、俺の待ち合わせ人物とは音無さんのことだ。

 勝負しようとケンカ売った手前、それ仕掛けるためにも音無さんの存在は必須ってことで呼んだのだ。


 ただまあ、当の本人は俺が「悪いことをしますよー」と事前に言ってあるにもかかわらず、水色の服に白いスカートにピンクリボンのついた帽子と随分と可愛らしい恰好で......。


 これは完全にデートのために決めてきたって感じだな。

 なんというか.......可愛いんだけど、普通にこれから俺のやることに罪悪感が湧いて仕方ない。


 でも、俺は悪役(ヒーラー)だ。

 ラブコメの主人公において、主人公の友人とは基本“影”でなければならない。

 いわば勇者を目立たたせるための魔王。


 そして、時にはいかにも平然を演じて主人公にラブコメイベントを発生させる。

 まあ、勝手に発生するに越したことないんだけどな。


 ともあれ、その上で音無さんという存在は立場的にあまりにも不安定だ。

 だから、音無さんにはこの勝負で負けてもらって、俺とは疎遠になってもらいたい。


 ただまあ、音無さんが負けた場合はさらに深い傷を負うことになるだろうな。

 だから、そう言った意味では音無さんには純粋にトラウマを克服して欲しいので勝ってくれってことになるが、それでは俺の縁は切れない。


 俺もだいぶ博打好きのようで音無さんには負けた上で心に傷を乗り越えることを願う。

 まあ、トラウマ抉って負けて立ち直るなんてほぼゼロなんだけどな。


 それとは別に、確かに音無さんが負けた上で傷つかない方法があるにはあるんだけど......恐らく実現性はないだろうな。


 姫島はそれらを考慮した上で俺に“負ける”って言ったのか?

 まあ、そう考えればあいつの答えは相当頭が回った言葉だと思えるが......妙にそれだけじゃ説得力にかけるような?


「スーハー、だいぶ落ち着きました。それで今日はどこに行くんですか?」


「んまぁ、そうだな。とりあえず、予定の時間までは特に決めてないんだよな。

 強いて言うなら本屋に寄ろうと思ってたぐらいだけど」


「何か買いたいものがあるんですか?」


「いや、特に。ただまあ、そう言うのって見てるだけでも案外面白いじゃん?

 ふいに何か自分の興味を引くようなものが見つかるかもだし」


「わかります! では、行きましょうか!」


「だな」


 俺達はモールに入っていくとエスカレーターに乗って二階に上がり本屋を目指す。

 特にデートっていう感じじゃなかったから、こういう時モールってスゲー助かる。


 本屋に到着すると相変わらずの圧倒的本の量でそれを見た音無さんはまるでお菓子の家にやって来た子供のように目を輝かせる。

 ほんとに本の虫だな。


「いいぞ、好きな物見に行って。時間決めて戻ってくればいいし」


「それは......その......う~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」


「すっごい唸るじゃん」


 音無さんは興味ありそうな文庫分野に目を向けながらも、腕を組みながら何かを考えるように......いや、どっちかって言うと何かと葛藤するように唸っている。


 そして、ちょっとばかしの時間で音無さんはカッと目を開くと俺の方に向けた。


「私はずっと影山さんについていきます!」


「何それ? どういった経緯からの発言?」


「今日は影山さんからお誘いしてもらったし、私は影山さんのことをまだまだ全然知らないので好きなことを知りたいんです!」


「ちょ、もうちょい張り切りを抑えような......」


 音無さんが完全にやる気モードだ。

 まるで本を読んでるみたいに俺のことしか見えてない。


 ちょっとー音無さん? もう少し声のボリューム下げてくれないと周りの視線が......くっ、ラブコメの波動を感じる!


 クソ、ラブコメ神め! 音無さんの夢に出て妙な暗示とかしてないだろうな?

 俺が音無さんにこれ以上好かれる要素はあってはならないんだって!


「ま、まあ、俺の趣味で良ければお好きに.......」


「はい!」


 とまあ、結局俺がこれからやろうとしていることに負い目があって強くは出れずに押し流されちゃうんだよなぁ。


 それに音無さん、ホント俺がいると周囲に人がいて平気でしゃべれんじゃん。

 もう俺で行けるなら俺よりも人畜無害生物の光輝君もいけるよ?


 そして、俺達......というか、主に俺が好きなように動いていく。

 詰まれているラノベから漫画に至るまで知ってる漫画の続巻を手に取ったり、知らない作品をタイトルで拾ったり。


 そんな俺の完全好みを音無さんは興味あり気に眺めている。

 仕舞には俺の読んでるラノベにも手を出したり。

 まぁ、俺の好きな作品を好きになってくれるのは嬉しいんだけどね。


 とまあ、そんなことを気にしながらも気が付けば平気で一時間半が経過していた。

 それに気づいた俺はスマホで時間を確認する。

 集まったのが10時だから今は11時37分......セーフ。


「とりあえず、ひたすら歩き回ってたからどっかで休憩しない?」


「わかりました」


 音無さんの了承を得ると俺達は一階に降りていき、そこにあるファストフードのモックへと向かっていく。


 俺が誘ったので音無さんの昼は奢ることにしよう。

 そんで俺が先に注文を済ませると音無さんは俺と完全同じメニューを注文した。

 「別のでもいいぞ」と言ったが、本人は頑なに俺と一緒のでいいとのことだ。


 空いてる席に座るとちょっと早めのお昼休憩。

 ふぅー、久々に座った気がする。


 少し時間が経ったところで小さな口でリスのようにハンバーガにかじりついている音無さんに聞いてみた。


「音無さん、当然だが最後の忠告だ。

 本当に俺と勝負するつもりか?

 今ならまだまだ試合放棄という形で余計な傷を負うこともないんだぞ?」


 俺は真面目にそう言った。

 そう、これが俺の唯一互いが丸く収まる方法だ。

 勝負を提示した俺の勝負を音無さんが試合放棄という形で負ける。

 そうすれば、音無さんは傷を負うこともなくなり、俺は音無さんとこれまでって感じになる。


「します。影山さんには......影山さんの前では弱いままでいたくないんです」


 ま、こうなるわな。知ってた。

 だから、思った通り実現性なんてない。

 俺への好意を示すだけで火の海に飛び込めるなんて正直どうかしてると思うよ。

 俺も人のこと言えねぇけど。


「俺は自分でできた人間じゃないって自覚してる。

 だから、嫌なことも平気でできる。

 それがたとえ女子であってもだ」


「影山さんはいつまで自分を“影”だと思ってるんですか?

 月並みなセリフですが、影山さんが生きている人生の主人公は影山さんなんですよ?」


「悪いな。俺はその言葉はどうにも好きになれない。

 だって、成功するのは努力した自分じゃなくて、努力してない他人なんてことがほとんどだからな。

 もちろん陰で努力とかしてるかもしれない。

 けど、俺が知らないんじゃそれは努力してないと同じ。

 それに成功する奴は結局何しようと成功するんだよ」


「影山さんは陽神さんのような状況を羨ましいと思ったんですか?」


「......まあ、ラブコメ好きのヲタクとしちゃそれなりに。

 でも、光輝がそうなることは薄々予感してたし、もとより俺には似合わないとも思った」


「影山さんはもっと自分を好きに―――」


「あっれ~~~~? あそこにいるのってもしかして音無じゃね?」


 音無さんの言葉を遮るようにわざと聞こえるように発せられた声。

 その声に音無さんは目を見開き、急激に体を委縮させる。


 そして、音無さんの背後から忍び寄る女子三人組は音無さんの顔を確認するように近づいて来るとバカにしたように告げた。


「えー! ほんとに音無じゃん!」


「しゃべれるようになってるし」


「何より男連れって。え、彼氏? 高校で変わりましたって? マジウケる」


 さあ、音無さん。勝負の始まりだ。

 お前が勇者であるなら、俺という悪にどう立ち向かう?

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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