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第36話 勝負をしようじゃないか

「さて、わけを聞かせろ」


「なんか取り調べみたいね」


 時は放課後。今日はとっくに家に帰っているか音無さんの最終レッスンもとい調子を聞く程度であったが、そんなことより遥かに大きい問題が発生した。


 まあ、その問題に向き合うためにも今は机を合わせて正面に姫島が座っており、俺と姫島の横をキョロキョロと目を忙しなく動かしながら座る音無さんがいた。


「時刻はお昼の12時50分頃、俺達の教室にて誰もが楽しく昼食を取る中事件は発生した」


「まさかの寄せ」


「被疑者は姫島縁。楤場高校に通う高校一年生。

 彼女は被害者であるこの俺の仲間でありながら、俺しか知らない計画を破壊しようと画策。

 結果として、ほぼ俺の計画は頓挫しかけている。間違いないか?」


「そうね、間違いないわね」


「これは重大な裏切り行為であるぞ!」


「あなた、そこでキャラブレるの?」


 おっと、ツッコまれてしまった。

 まあ、あんまし刑事ドラマとか見ねぇからこの辺にしといて......いつも通り行くか。


「で、お前はいつから俺の計画は知っていた?」


「知らないわよ。でも、あなたがやりそうなことはわかるわ。

 なんせ結弦ちゃんの時も手伝ったほどだし」


「なら、なぜ邪魔をした?」


「そうね......強いて言えば嫉妬かしら」


「オブラートに包むことなくド超級な我欲を見せたな」


「それに可哀そうじゃない」


「誰が?」


「音無さんが」


 どうしてここで音無さんの話が出てくるんだ?

 いやまあ、確かに俺の欲望のために第3ヒロインになれ......ってのは可哀そうって話か。

 てめぇの都合で勝手に決めてんじゃねぇってな。


 だが、これにはしっかりとした音無さんに対するメリットを考慮した上で考えたことだ。

 音無さんは現状慣れた人にしか話すことは出来ないし、やはり大勢で囲まれた状態で声を出すことは難しいと思われる。


 それに男子に対する耐性を俺基準にされるのも今後に影響が出かねないだろう。

 ならば、光輝という俺よりもちゃんとした男に影響を受けた方が、男という生き物の見方も変わってくるはず。


 それに光輝であれば俺以上に音無さんの願いに対して協力を惜しまないし、いざとなれば結弦と乾さんという強力な助っ人を呼べる。

 これ以上にない適役だ。


 ここまで考えてみれば、わざわざ俺がやらずとも光輝に回した方がメリットがたくさんある。

 まあ、音無さんの気持ちを考えてないと言われればその通りなのだが。


 ならば、聞いてみようか。ただし、俺はあくまで悪役(ヒーラー)として。


「音無さん。前にも話したけど、俺は音無さんが社交的になるという上で俺以外の男子にも接して欲しいと考えているんだが、それは音無さんにもメリットがあっての提案なんだ。

 音無さんはこれまで男子と接してきていない。高校に入って俺が初めてだという。

 そして、あくまで俺になれたと言っても、それは数多いる男の一人であって参考にもならない。

 だから、光輝という人物を知って――――」


「別に反面教師にならなくてもいいんですよ?」


 音無さんの言葉にまるで真意を見抜かれたような気がして思わず口が止まった。

 すると、今度は音無さんがしっかりとした口調で言葉を紡ぐ。


「確かに、影山さんの言っていることは一理あると思います。

 私の都合のためならばその方がいいのでしょう。

 でも、だとしても、わざわざ自分が悪役になる必要はないのではないですか?」


「......俺がいつ悪役と?」


「なんとなくです。

 でも、少なくとも今は陽神さんという人物を必死に立てようとして、その太陽が神々しく輝いているのを示そうとして、自分が影になる必要はないと思うんです。

 影山さんが本当の所で何を考えているかはわかりません。

 ですが、私にとってはもう影山さんも太陽なんです......いや、影山さんこそ太陽です」


「......」


「雪ちゃんも大胆なこと言うのね」


「え......あっ!」


 姫島の指摘に音無さんは何かに気付いたように顔を赤らめて縮こまるように顔を俯かせていった。


 その一方で、俺は音無さんの観察眼で見事に自分の心が看破されていて、もはやぐうの音も出ない状態であった。


 何か言い訳しようにもその考え得る先々で音無さんが論破するような感じがして下手に手が出せない。

 どうやら俺は俺にとってとんでもない相手の封印を解いてしまったらしい。


 少なくとも、もう第3ヒロイン計画は頓挫したに等しい。

 それだったら、音無さんをこっち側の陣営に引き入れた方がいいと考えるべきなのか。


 恐らく、音無さんは俺に対してとやかく言うつもりは無いのだろう。

 ただ一点として、うぬぼれでなければ音無さんにとっての最高は“俺”であるということを主張したいのであろう。


 これは依存させると考えた俺へのラブコメ神からの罰なのであろうか。

 計画通り依存してくれたが......俺が思っている以上に強く出てしまっている。


 いや、きっと音無さん本人だけではこのようなことにはならなかったのだろう。

 恐らく、最後に足りなかった一押しをさせたのが――――姫島(お前)か。


 俺は思わず頭を抱えた。

 その様子を見て慌てた様子の音無さんに、「自業自得よ」と意気揚々とした態度の姫島。

 はあ、音無さんも姫島と同じく自然消滅待ちになるってことか......。


 .......ん? ちょっと待てよ?

 ふと考えれば姫島のやってる行為って完全に敵に塩を送る形なんだよな?

 こいつは一体何を考えてるんだ?


 そんな風に見てるとふと姫島と目が合った。

 まるで俺の考えを読み取ったかのように優しく微笑んで告げる。


「私は正々堂々と行きたいのよ。

 それにこの三年間はきっと貴重な三年間になるんだとしたら、自分の気持ちに正直にさせないともったいないじゃない」


「......もったいないか。中学三年間を芋女として過ごしてきた人の言うことは違いますな~」


「もう、少しは素直に受け取ってくれてもいいんじゃない? あ、それとも照れちゃった?」


「バカ言うな。お前に照れるようなことはねぇ」


「なんか悲しい言葉返ってきた......ふん、いいもんね!

 そっちがその気ならこっちだってその気よ! ね、雪ちゃん!」


「え、あ、えと......はい!」


「なんか無理やり言わせた感が凄いな......」


 姫島の凄みに圧倒されたように返事をする音無さん。

 ただその音無さんの表情はまるで本心から言葉に出したように明るかった。


 さて、第3ヒロイン計画が頓挫した今、下手な動きをされる前にやはり音無さんを勧誘すべきなのだろう。

 その考えは俺個人としてはNOだ。


 俺がやろうとしているは学園ラブコメの成立。

 つまりは音無さんの友人である乾さんと結弦に取り合いをさせてるようなものだ。


 そして、もしラブコメ神が融通を聞かせてくれたのならここからまた光輝にヒロインが増えていく。

 そうなれば競争はまた過激さを増す。


 まあ、そんな中に音無さんを投入させようと考えていたのだけど、勧誘するということはそれを傍から動かす裏方になるということ。

 そして、俺達の存在は絶対にバレてはいけない。


 姫島は俺という目的があるから協力的だが、音無さんは俺以上に乾さんの友達だ。

 どっちかを取れと言われてすぐに友人を切り捨てられるほど人情は死んでいない。


 故に、俺はここで音無さんとは疎遠な関係になるのが一番理想的なのかもしれない。

 こればっかりは俺の都合で音無さんの気持ちは考えていない。


「なあ、音無さん。一つ、俺と勝負しないか?」


 音無さんに声をかける。

 その言葉にムクリと顔がこちらに向いてきた。


「勝負......ですか?」


「俺の音無さんにやろうとしていたことは簡単に言えば、他人の恋路沙汰を好き勝手に弄り回そうってことだ。

 それに、それ自体はすでにやってる。

 つまりは現在進行形で“悪役”なのさ。

 つーわけで、俺からの最終試験ってことで、俺は音無さんのトラウマをほじくり返す。

 それを克服出来たら音無さんの勝ち。できなければ、負け」


 音無さんの目が僅かに見開いた。そこにすかさず告げていく。


「俺を太陽と言ってくれる音無さんには酷だけど、太陽の裏側ってのを見てもらいたいわけだ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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