第35話 これがお前のやり方かあああぁぁぁぁーーーー!
最近というか、つい昨日のことなのだが、とてもしてやられたと思ってる。
というのも、昨日光輝に呼び出された後、光輝の様子から嘘をついていることがなんとなく分かった。
しかし、仮に嘘をついていたとして何に対して嘘をついているのかわからなかった。
他人の情報を隅々まで持つ俺であっても人の気持ちを完璧に読むことは難しい。
故に、光輝に呼び出された後も結局何が何だかわからずにいたんだが......もはやその説明は不要なぐらいに俺の目の前で問題が発生している。
時は昼休み。この昼休みの時間は生徒各々が好きな場所で昼食を取る。
例えば屋上や中屋上に行ったり、外で食べたり、友達のいる教室まで出張して昼食を取ったりだとか。
まあ、そんなぐあいでこの時間帯は基本的フリーダムだ。
もちろん、普通の休み時間でも他クラスの生徒が友達と談笑しに来ることもあるが、昼休みの方が時間が長く圧倒的に話せるから集まりやすい。
つまり言いたいことは、俺達の所に他クラスである音無さんがやって来ているということだ。
その何が問題かというとその一つに挙げられるのが音無さんの積極性のある行動。
「――――で、この子が私の友達の音無雪ちゃん。どう? 小っちゃくてかわいいでしょ」
「乾って転校生だったよな? 中学で付き合いがあったのか?」
「そんな所ね。雪ちゃんの行く場所は聞いたはずなんだけど忘れちゃってて、だけどこうして会えたから嬉しいんだよね~」
『瑠奈ちゃん、そんな頭撫でないで。ペットじゃないんだから』
教室の一か所で俺、光輝、乾さん、結弦、姫島とただでさえ机をくっつけただけでもかなり幅を取るのにそこに音無さんまでやって来た。
確かに、乾さんが音無さんを誘ったという解釈もできるし、俺が昨日提案したから実行したという解釈もできる。
しかし、だとしても最初からこんな群衆の中で音無さんを呼ぶ必要はあったのだろうか。
音無さんは俺一人と会う時でさえ最初は緊張していて、姫島の姿を見た時も無意識に身構えるほどだった。
それが今はどうだ。教室内には少なからず他の生徒はいる。
その連中にとって乾さん、結弦、姫島の三人が囲むその場所はもはや花園のようなものだ。
そこによそから来た音無さんがたとえ乾さんの友達であっても注意を引く存在であることには変わりない。つまりは見られるということだ。
いくら俺との会話でスケッチブックなしに話せるようになったとはいえ、全く関わりない人に見られる視線は人と接している数が少ない音無さんには苦痛そのものだ。
にもかかわらず、音無さんはここにいる。
案の定、スケッチブックに書いて会話する感じになってしまっているが、それでもここにいる。
あの音無さんが、だ。
そして、二つ目の問題が......
「もうそこら辺にしておきなさい。雪ちゃんも困っているでしょう?」
「はーい。後にしておきまーす」
「後でも結局やるんだね......」
『ありがとうございます、縁さん』
そう、これだ。なぜかいつの間にか姫島と音無さんの距離が縮まっている。
いやまあ、仲良くすること自体は別にいいんだけど......なんつーか、嫌な予感がするんだよなぁ。
個人的に。
「姫島さんはいつ音無さんとどういったキッカケで仲良くなったんだ?」
「まあ、会ったのは昨日が初めてだったんだけど、帰り道がたまたま一緒だったからそこで話していたら共通の話題があったから。そうよねー?」
『ねー♪ です』
「そう、共通の話題ね......」
な、なんでだろう......今ぶわっと嫌な汗が噴き出したような感覚があった。
おかしい、ただ普通の会話をしただけなのにどうしてこんな胸に靄がかかるような不安に駆られるんだ?
やはり昨日俺がいなくなった図書室で何かがあったとしか思えない。
少し探りを入れてみたらこの通りだ。
けど、確証が持てない。
とりあえず、いつも通りにするか。
「それじゃあ、俺達も初めてだし自己紹介するか」
そう言って光輝も誘いながら瞬時に乾さん、結弦、姫島にアイコンタクトを飛ばしていく。
つまりは俺は初対面の人としていくという合図だ。
その視線に3人はコクリと頷いた。よし、それじゃ――――
「はいはーい、俺、影山学って言いまーす」
「僕は陽神光輝です。よろしくね、音無さん」
『よ、よろしくお願いします』
音無さんはおどおどした様子ながらスケッチブックに返事をしていく。
しかし、その視線は光輝の方から2、3秒ごとに俺に向けられてくる。
恐らく、俺がこの集団でいる時のテンションが違うことに驚いているのだろう。まあ、仕方ない。
光輝の所でいる時は演じている自分で、姫島と音無さんの時にいたのは素の方なんだから。
とはいえ、誤算があるとすればまさかこんな形で光輝に紹介されると思っていなかったという点か......。
正直、俺は第3ヒロインとして押し付ける体でこのまま音無さんと関わるのを少なくしようとしていた。
当然だ、ヒロインが主人公以外と積極的にかかわってどうする。その時点でラブコメとして崩壊する。
ラブコメに置いてヒロインがモブに惚れることは邪道も良い所だ。
そんなの何が面白い?
主人公とイチャイチャするのが見たいからいつまでも廃らないのがラブコメだ。
当たり前だが基本的に主人公よりもモブが目立つラブコメなんてない。
あっても番外編の話か閑話休題程度で描かれた話であって、それが割を食ってしまったらそんなラブコメはウケない。
だから、おのずと音無さんとは疎遠になろうかと思っていたその矢先っていうか、その翌日には少なくとも俺も関わる展開となった。
てっきり俺がいない間に乾さんと結弦が光輝に紹介するとばかり思っていたんだが......まさか音無さんの相談相手になるって辺りを本気で鵜呑みにされた!?
二人にとっても光輝は少なくとも俺以上に信頼のおける相手。
もしそれに何かがあったとすればそいつは......姫島しかいない。
チラッと姫島を見る。
すると、嬉しそうに頬をやんわり赤く染めニコッと微笑み返してきた。
違う、そうじゃない。
後、変な誤解生まれそうだからお前は似非クールやっとけ!
「俺もよろしくね~、音無さん」
「はい、よろしくお願いします!」
「!?!?」
え、待って? 今、何が起こった? え、今普通にしゃべらなかった?
いやまあ、確かに普通に話せるようになった相手であったけど、待ってそれは予想外。
だって、乾さんに対しての時だって、仲良くなった姫島の時だって音無さんはスケッチブックで話していた。
それはつまり前に出る勇気は出たものの、まだ集団に囲まれて話せる勇気は持っていないということじゃなかったのか!?
不味い! 不味い不味い不味い! これは非常に不味い!
だって、これは俺が明らかに音無さんと前から親交があったかのような解釈を光輝にされかねない!
だって、ずっとこっち見てるもの!
「学、お前って初対面なんだよな?」
「あ、あぁ、そのはずなんだが......」
まあ、そう来ますわなー! はい、知ってました!
だって、逆の立場でもそう聞きますもの!
にしても、この圧倒的アウェー感をどうすればいいものか。
このままじゃ、音無さん第3ヒロイン計画が頓挫する。
これは避けたい! なんとしても!
「あ、あれじゃないか!? お兄さんがいたりとかして雰囲気が似てたから思わずそのままとか――――」
「音無さんは一人っ子よ? そう聞いたわ」
「あ......そう......なのね」
俺は思わずそう呟きながらゆっくりと姫島を見る。
すると、その視線に気づいた姫島がまたもやニッコリとした笑顔を。
その瞬間、俺は全てを理解した。
これが......これがお前のやり方かああああぁぁぁぁーーーーー!
読んでくださりありがとうございます(*'▽')